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プラグイン攻略 SSL-Native Channel 2

この記事は「EQはこう使う」とか「コンプはこんなことができる」みたいな大まかな話ではなく、「僕が実際に編集で使用しているプラグイン一つ一つに焦点を当てて深堀していこう」という企画です。

半分は僕の脳内の整理です。

また、理屈や解説だけなら資料を探ればだれでもたどり着けますので、個人的な所見や感想も記載していきます。

哲学面の話ではなくミックス・マスタリングの技術面に関わる話なので、即戦力として使えるかと思います。

というわけで本編行きましょう

今回ピックアップするプラグインはこちらです

SSL-Native Channel Strip 2

Solid State Logic社の定番コンソールの一つ、XL9000Kのチャンネルを抜き出したプラグインです

SSLのモデリングは各社色々出していますが、こちらは本家Solid State Logicからリリースされています。

定価は329.99ドルですが、ちょいちょいセールやってるのとSlate Digitalのサブスクでも手に入るので、入手するだけでしたら比較的容易です。

多分安い時は5千円くらいで買えるのではなかろうか

というわけで、実際にフローで使用した感想も含めて深堀していこうかと思います。

なお、卓の番数は9000番ですが、ド定番の4000番台も触り方はほぼ共通ですので、応用が効くかなと思います。



総評

まず音質についてですが、ほぼ無臭です。

アナログモデリングというと刺した瞬間に音量が上がったり音質変化でわかりやすいキャラクターを付けてきても良さそうですが、このプラグインはそういった気配はほぼないです。(実際には多少あるのでしょうが、正直僕はあまり分からんです)

本家だけあって"ファンタジー"を取り除いた質実剛健な作りといった印象です。

モデリング元の9000番は大変クリアなコンソールだそうで、ヒップホップ系アーティストに人気が高いそうです。この質感なら確かに現代的なジャンルやワークフローと相性が良さそうだと感じます。

構成としては効きの良いEQと、シンプルなコンプレッサー/エキスパンダーがセットになったDYNセクションから構成されます。

現代のデジタル環境に慣れていると少し物足りなく感じるかもしれませんが、この適度な選択肢の少なさのおかげでスピーディーに音を作りこんでいくことができますし、初心者にありがちな音を捻じ曲げすぎるミスへの防波堤にもなります。

決してネガな要素ではありません。

では、各部を順に見ていきましょう。

1.フィルター・EQ



恐らく多くの方にとって見慣れたレイアウトだと思います

上段がハイパス/ローパスフィルターで下段にシェルビングとベルカーブが2つずつ配置されています。

フィルターとEQはそれぞれバイパスすることができます。また、シェルビングはミニスイッチでカーブに変更することも可能です。

"E"と書かれたスイッチはEQのタイプ切り替えです。

SSLのEQはEシリーズとGシリーズがあり、点灯でE、消灯でGのエミュレートになります。

詳しい特性図もありますが…ノブなんでぶっちゃけ編集中実際どう効いているかは耳が頼りです。ただ、緻密なイコライジングをしたいのであればカーブの頂点がシャープなEの方がやりやすいかと思います。

さて、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、SSLのEQは少し仕掛けがあります。

これについては後述します。

2.DYNセクション



こちらはコンプレッサー/エキスパンダーがセットになっています。

コンプについては説明不要かと思いますが、アタックがミニスイッチになっている点と、少しわかりにくい部分としてPEAKというボタンがあります。

このPEAKはニーの設定で、オンにするとハードニーになります。

実際のニーカーブは…ちょっと資料見つけられなかったです。ごめんね。

下段はエキスパンダーです。

ノイズ対策に非常に効果的で、これがセットになっているのがSSLの嬉しいところです。

EXPANDのスイッチはレシオの切り替えで、オフの場合が2:1、音の場合は40:1となっており、オンにすると実質ノイズゲートとして駆動するような仕掛けです。

単純にノイズ対策だけで考えると常時オンでもいい気がするかもしれませんが、ギターやボーカルなどは隙間が完全に無音になってしまうと、音源の"自然さ"が失われることもあります。

トラックのコンテクストを保ったうえでノイズを制御したい場合非常に優秀なツールとなりますので、うまく使い分けましょう。

尚、こちらのセクションはオートゲインで聴覚上の音量を一定に保つようになっていますが、下部のプルダウンメニューからマニュアルで設定することもできます。

センターセクションにフェーダーがあるので必要ないとは思いますが、一応できますよってことで記述を置いておきます。

3.センターセクション



こちらはボリューム・インプットのトリム・パンニングなどが配置されています。

Widthは上げると左右に広がりが出ます。ステレオイメージャー的な感じ。

余談ですが…SSLはコンソールの礎を築き上げたと言っても過言ではない存在で、その設計思想の一つに「コンソールのセンターセクションはちゃんとコンソールのど真ん中に設置する」というのがあります。

プラグインになってもこういった設計思想は徹底的に継承されているようです。

マニアとしてはうれしい限り。

さて、このセンターセクションにはフェーダーのほかにソロ/ミュート(CUTスイッチがそれです)など、まるで本物のコンソールのようなスイッチも付けられています。

こういう部分はDAWでやればいいのでは…?と思われるかもしれませんが、これはただのノスタルジー的な遊びではなく、ちゃんと配置している理由があります。

4.SSL360

このSSL Native Channnel 2はSSL360という外部アプリケーションと連動することにより、PCの画面上でXL9000Kのコンソールを再現することができます。

左側がNative Channel、右側にはNative Bus Compressorのコントロールが表示されており、実際のコンソールのような操作感でスピーディーにミックスを進めていくことができます。

このアプリとの連携が前提にあるプラグインなので、センターセクションにはソロ・ミュートスイッチやフェーダーが搭載されています。

また、PC上での動作はもちろんですが、UC-1という専用のコントローラーを使用することで、アナログの卓の操作感を省スペースで再現できるようになっています

では、実際のところの使用感はどうかと言いますと…

残念ながら普通の環境ならこの辺りはぶっちゃけDAWでやっちゃう方が早いです。

まず、上記のスクリーンショットを見ての通り生半可なディスプレイでは全項目を表示することができません。

僕の作業ディスプレイは28インチ4K画質なのですが、それでもコントロールが見切れてしまいます。

この辺りは画面が小さくても上記の専用コントローラーで解決できるのですが…

残念ながら値段がクソ高いです

サウンドハウスにて132,000円で販売されており、さらにアナログライクな操作感を求めるならフィジカルコントローラーのUF-1(115,500円)とUF-8(236,500円)の導入も…UF-8については4台同時接続可能とのことで、仮にフルセットを揃えたとして1,193,500円…いや、誰が買えんねんこんなん!!!!
※後日談ですが、UF1買いました(白目)

まぁ、使用頻度が高ければUC-1とUF-1はアリなのでしょうし、メーカーのロイヤリティも理解できるのですが、完全にプロ向けの値段になってしまいますので、アマチュアの僕が恩恵を受けることはなさそうです。

5-1.シグナルルーティング

アプリから離れNative Channel 2に戻ります。

こちらの右下にあるこのCRTのような画面のパラメーターですが、ここでコンソールのシグナルルーティングを変更できます。

他のプラグインでSSLを使用している方は今までのスクリーンショットで「ボタン少なくない??」と思われていたかもしれません。

というのも、SSLのコンソールはEQやコンプレッサーの接続順を制御するミニスイッチがあちこちに配置されており、自分好みのルーティングができるようになっています。

多くのメーカーがこの操作感をUI上で再現しておりますが、このスイッチがまー分かりにくいこと山のごとし。

実機に慣れているプロの方であれば扱いやすいのかもしれませんが、アマチュア勢の僕からすると油断すると思ったのと違う順番になってたり…ということがよくあります。

ですが、Native Channel 2を始めとするSSL公式プラグインでは、この辺りをデジタルに適正化し、直感的に触れるように整理されています。

伝統的な配置ではありませんが、理解のしやすさと視認性はこちらの方が上です。偉いぞSSL。

5-2.サイドチェイン


シグナルルーティングに関連してですが、実機同様フィルター/EQセクションのサイドチェインも可能です。

利点としてはコンプレッサーをより緻密に制御できる点ですが、サイドチェインに振ったセクションは原音には反映されないという欠点もあります。

とはいえ、この辺りは現代のデジタル環境ですので、前段にEQをインサートして解決するという手段が取れます。

特にドラムのような低域の強い楽器の編集の際などには選択肢として有用かなと思います。

蛇足コラム:サイドチェインでディエッシングができる??


さて、ここでこのシグナルルーティングに関連した話をしますと、このサイドチェインフィルターを応用して簡易的なディエッシングを行うテクニックがあります。

これは僕が普段参考にしているsimplestudioでも言及されていますし、各プラグインメーカーのマニュアルでも取り上げられているテクニックです。

この手法を適切に使うにはまず「サイドチェインとは何なのか」を正確に理解する必要があるのですが、コラムとしてはちょっと長いのでひとまず簡単な設定例を出します


これは仮に"サイドチェインフィルターでディエッシングをする"と想定した場合に考えられるEQです。

狙う周波数帯域は3~4kHzを目標に、わかりやすく大げさな設定にしています。

サイドチェインフィルターではカットした場所はコンプレッサーが感知しにくくなり、逆に突出している部分に対して敏感に働くようになります。

これを応用し、歯刺音が問題になっている帯域を突出させ、関係ない部分は極力カットする…というフィルターを作ることにより、結果としてコンプレッサーがディエッサーのような挙動になります。

では、これは果たして現代で通用するテクニックなのでしょうか。

この手法を用いる際に留意すべき部分として、SSLのコンプレッサーはマルチバンドではないという点が挙げられます。

どういうことかと言いますと、こういったフィルターを使うことで確かに歯刺音に対してコンプレッサーは動くのですが、現代的なディエッサーのように設定した帯域のみをリダクションするのではなく、すべての周波数にコンプレッションの影響が出ます。

要は、サ行の発音を検知するたびに全体の音量がぐわんぐわんと上下するのです。

もちろんスレッショルドとリリースの設定で上手にディエッサー"らしい"仕上げに聴かせることはできるのですが、その手間を考えると個別にディエッサーのプラグインを嚙ませるほうが早いですし、仕上がりもよほど良いです。

上記のことから、この手法でディエッシングするとして違和感なくリダクションできる量を考えると1dB程度が限界ではないかなと感じます。

これはあくまで僕の意見ですが、ディエッサーが普及しきっていない時代には革新的な手法だったにしろ、現代においてはこれはあくまで簡易的な手法であり、「何らかの理由でディエッサーが使用できない場合の緊急対応」「古き良き時代のエンジニアの豆知識」程度に押さえておくのが無難かなと思います。


僕が普段愛用しているのはWAVESのRDeEsserです。
シンプルなUIと動作の軽さがうれしい。
少し古いプラグインですが必要十分な仕事をしてくれます。
UIのカーブから、2kHz以降の周波数に対してコンプレッションをかけており、それ以下の周波数には影響が及んでいないことが読み取れます。


6.実際のワークフローでの運用

先日アップした楽曲"Blue Lotus"にてこちらのプラグインをメインにミックスを行いました。

自分のフロー内で上手に使う方法を模索した結果、楽器隊の個別トラックに片っ端からインサートし微調整に使うという方向で落ち着きました。

インサートは基本的に後段にしています。

レコーディングである程度作りこんだ音をSSLの卓で最終的にミックスする…というフローを想定して作業しました。


合計13機のNative Channel 2と5機のBus Compressorをインサートし、SSL360で制御しています。

これだけ色々なものを立ち上げるとPC負荷が気になりますが、終始軽快に動作しており、統合が途切れて動作がおかしくなるなどの不具合は一切ありませんでした。

音質についても薄味でクリアなキャラクターのため、アナログモデリングのインサートのし過ぎで倍音過多になり曲の音が濁る…ということもありませんでした。

また、同じコンソールでミックスしているというコンテクストができますので、楽曲の一体感にも繋がります。


その他については、今回のミックスで久しぶりにエキスパンダーを使用しましたが、特にギターなどのノイズ対策に非常に効果的だと感じました。

あまりに削り過ぎると味気ないが、そのままでは耳につく…という経験が何度もあり悩みの種だったのですが、今回の曲では納得いくさじ加減に落とし込めています。

なんで今まで使ってなかったんだろうこれ…

360については前述の問題もあるため今後採用していくかは分かりませんが、音源のシェイピングの選択肢として常に頭の片隅に入れておきたいプラグインだと感じました。

ちなみに、同社のオフィシャルの4000番も所有しており、こちらもテストしましたが、総じて似たような出音の傾向でした。

個人的にSSLはクリアな音質と強力なシェイピングが魅力のツールという認識でしたが、おおむねその通りの動作をしてくれるなという感想です。

今回はSSL Native Channel 2の紹介でした。

伝統的な操作感や優れた音質、本家プラグインのクオリティなどが魅力的な一方、同社が本来想定しているであろう専用アプリの運用や、コントローラーの導入に関しては現実的ではなく敷居が高いと感じるのが正直なところです。

とはいえ定番のコンソールですし、何よりSSL本家からのリリースという部分にロマンを感じます。(余談ですが、4000番台のモデリングは腐るほど出てるけど、9000番台は結構レアな気がします。地味でマニアックな話ですが個人的にはこれもポイントが高いです。)

SSL系列のプラグインをまだ持っていない方は導入を検討する価値があると思います。

ぜひぜひ使いこなして素敵な楽曲を仕上げてください。

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