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運転免許を取りに行ったら別室に連れて行かれて取調べを受けた話

 運転免許を取りに行く理由って、本当に色んなものがあると思います。

 ただ車に乗りたいだけっていう人もいれば仕事に必要だから免許を取りたいという人もいるし、交通の便が悪いから車の運転がマストの人もいれば、何となく就職に有利になりそうだから取りに来たという人もいる。

 そんな中、僕は何か特別な存在になりたくて運転免許を取りに行きました。

 平凡な名前に平凡な大学、平均的な容姿に平均的な身体能力。
 運転免許を取ったって何も変わりはしないけど、バイトで貯めた当時の自分にしては決して少なくはないお金で中古のクルマを買って、誰もいないような場所でドライブをすればその瞬間だけは特別な存在になれるのかもしれないと思って、運転免許を取るため自動車学校に通い始めました。

 まだ運転免許を取りに行くような年齢じゃない方や取りに行く理由のない方に簡単に説明すると、運転免許というものはまず自動車学校で全てのカリキュラムを終えたあとその自動車学校で行われる実技試験を突破して、次にその自動車学校とは別の運転免許試験場へと赴いて学科試験を突破すると貰えるという流れになっています(もちろん自動車学校によって形態は違うのですが、僕の通っていた自動車学校はそういうシステムでした)。



 そして何の問題もなく自動車学校での実技試験を突破して、運転免許試験場へと赴いたときに事件は起こりました。

 運転免許試験場での学科試験というのはあの理不尽すぎる引っ掛け問題で有名なペーパーテストですが、基本的には自動車学校のカリキュラム内で模試を何度も合格する必要があるので、めったなことがなければ試験をクリアしてすぐにその場で運転免許を貰うことができます。

 僕が行った試験場は学校の教室みたいな場所で、前の席に座っている外国の方がかなりエキサイトしているなぁと思いながらも問題用紙をどんどん埋めていきました。

 試験が終わって溜まりで採点が終わるのを待ち、無事にペーパーテストをクリアー。そして受かった人たちがもう一度その教室みたいな場所に集められ、座っていた列ごとに免許証を受け取りにいくという一連の流れが説明されました。

 特に誰かと一緒に通っていたわけでもないので会話をすることもなく、あぁ前の席に座っていた外国の方試験落ちちゃったんだなと思いながら免許証を貰うため指定された列に並んでいると、列ごとにほんのひとにぎりの人数だけが別の場所に誘導されていることに気付きました。

 そしてその光景を傍観者として見ていたはずの僕も、その場所に誘導されることになってしまったのです。

 その瞬間、自動車学校を卒業する時に教習指導員の方に言われた言葉が脳裏に浮かび始めました。

『運転免許試験場で免許取得した後に自動車学校の教育審査のため各自動車学校から数人ずつ、改めて実技の審査を行ってもらうことがあります』

 最悪だ! 僕がなりたかった特別はそういう確率的な意味での特別じゃない!

 …とはいえそれはかなりのレアケースで、それにしては決して少なくない人数が集められているように見えたので、もしかしてカンニングでも疑われてるのかなぁ、でも前の席に座っていた外国の方学科試験落ちてるしなぁとか思いながらも無言で待機していると、とある別室に誘導されることになりました。

 その別室では窓口のようなものが2つあって、2列に分かれて1人ずつ尋問みたいなことを受けさせられていました。いよいよ意味が分からなくなってきていた僕についに順番が回ってくると、受付の人が僕の書類のようなものを見ながら開口一番。


「別の場所で既に運転免許を取得していませんか?」


 と尋ねられました。

 もちろん別の場所で運転免許を取得したことなんかないし、持っているならもう一度取りに来る意味が分からない。思考がグチャグチャになりながらも何とか否定の言葉を口から放り出すと、受付の方は


「いえね、あなたと同姓同名の方が別の場所で既に免許を取得されているんですよ」


 と言いながら何やら情報をパソコンに打ち込み始めました。

 その瞬間、僕は走馬灯のように昔、母親に言われたことを思い出していました。


『あなたが生まれた日と全く同じ日に、別の場所で苗字も名前も全く同じ子が生まれたらしいわよ』


 受付の方に聞いたところによれば、同姓同名の別人が別の場所で既に運転免許を持っていたため僕が何かしらの不正行為を働いていたのではないかという疑いがあったためこのような取り調べを行ったということです。

 キラキラすぎる名前もどうかとは思いますが、ベタすぎる名前もそれはそれで自己肯定感が下がるよなぁという珍しいベタベタネームからの不満エピソードでした。

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