私は私、あの子はあの子。
☆はじめましての方、プロフをご一読くださると嬉しいです。☆
なにかのファンをやっていると、一人や二人は不思議なファンがいるもの。
先にも書いておりますが、地方アイドルを追っかけて早何年。
私が出会った濃ゆいファンのお話しをば。
少々の脚色はプライバシー保護のためご容赦あれ。
「なんで私だけ」
口癖のように、いつもこう言う子がいました。
ここでは、ルルさんと呼びます。
ルルさんは推しがデビューした初日にたまたまステージを見て、そこから一途に推しを追いかけていたスーパー古参ファン。
良くも悪くも、突拍子も無いアイテムや服装でいつも周囲をざわつかせ、さらには決して気弱とは言えない振る舞いで周囲をざわつかせていた。いわゆる、悪目立ちしてしまう人。
家庭の事情で、ルルさんは自由になるお金があまりなかった。なので基本は無料で観られるイベントを中心に姿を現し、それでも推しのために収入の多くを物販や遠征に注いでいたので、失礼ながらおしゃれに掛けるお金はさほど多くなかった。
だからだろうか、少しでもお金に余裕がありそうな子を見れば「金持ちぶって」と羨み、ちょっとでも嫌な目にあうと「嫌がらせされている」と怒り、推しの対応の僅かな差に「贔屓している」と唇を噛む。
ルルさんは他人と比べては自分を卑下し、「あの子はああなのに、なぜ私だけ」と他人を妬んだ。
気持ちにムラが出やすいらしく、明るく元気な時と落ちてピリピリしている時の差が激しかったので、ルルさんへ近付く時には警戒していたものだ。
でも、少しでも話しをすると、人懐っこい子だった。一度懐に入れると、次からは「友達」として寄ってくる。寂しいのかもしれなかったが、彼女の感情の起伏の激しさに、誰もが深くは付き合わなかった。
正直、私は趣味の友達は浅いと思う。趣味が変われば、殆ど長続きしないから。
ごくごく稀に、考え方や価値観が似ていて、趣味が変わってもお付き合いが続く人もいる。その人は、私にとって「友達」というカテゴリに収まっていたが、残念ながらルルさんはそのカテゴリに入ることがなかった。
突然怒り出したり、自分の思い込みで他人を評価する彼女とは、うまく渡り合って行けなかったのだ。
ある時、推しの置かれる状況が変わった。
無料イベントは殆ど出なくなくなり、有料のステージが圧倒的に多くなった。
全部通うにはお金も大変になるし、私も悔しくはあったが、行けるものを選んで行くようにした。
ルルさんはというと、予想以上にお金を叩いて通っていた。今までの彼女を思えばどこからそのお金が出てくるか不思議だった。
ところがある日、
「お金を出す人だけを大事にするなんて、失望した」と言って、ルルさんは推しのステージへ来なくなった。
またいつもの癇癪かしら、くらいに思いそんなに気にしなかったが、ルルさんは本当に全く来なくなったのだ。
ああ、本当に失望したんだな。そう思った。
しかしその後、ルルさんと親しくしていた(ように見えた)人と話す機会があり、驚くべきことを聞いた。
チケット代を何回もその人に立て替えてもらっていたルルさんは、結局お金を返さないまま連絡がなくなったそうだ。
その人も「こんなに立て替えて大丈夫かと心配して少し節制を促したら、機嫌が悪くなって連絡がつかなくなった。チケット代は惜しいけれども、彼女との付き合いを断てたことでほっとしてるのもある。今は返してもらえたらラッキーくらいで諦めてる。」と言っていた。
寂しくて、たくさん友達を増やしたかったルルさん。でもルルさんは、自分のできる範囲を越えて望んでしまって、結果、自ら友達を裏切ってしまい、同時に推しを諦めざるを得なかったのだろう。
そしてそれを、最後には「推しのせい」にして去っていった。
彼女にとって、推しとはなんだったのだろう。
あれから数年たった今でも、客席にルルさんの姿を探すことがある。
もちろん、いないのだけど。
さて、まずはこれにて。