百人一首についての思い その12

 第十一番歌
「わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟」 参議篁
 これからたくさんの島々を越えて大海原に出発すると、都にいる人たちに告げてください。漁師の釣舟よ。
 
 Fishing boats upon the sea, 
 tell whoever asks
 that I have sailed away
 out past countless islets
 to the vast ocean beyond.
 
 小野篁は第十九回遣唐使に際して、乗船を拒否した。その前には遣唐使として出発はしたが、遭難したらしい。そのためにむなしく帰国した。その後遣唐使派遣は56年間も中止されていて、菅原道真の提言によって、遣唐使廃止が決定された。
 
 唐の国威が衰えていること。唐から学ぶべきものがなくなってきていること。遣唐使が朝貢のように扱われている事。遭難が多くて、日本の有意の人材を失うこと。それらが、遣唐使廃止の理由だったという。まさに「おほみたから」を失うことは大きな損失である。そのような観点から遣唐使廃止を進言した菅原道真公には日本人として感謝あるのみだ。
 
 日本人は他者から学ぶことが大好きである。自分達に欠けているものを見いだし、どうすればそれを入手できるのかと真剣に考える。だから、漢字を輸入し、ひらがな、カタカナを作り出して、世界的にも珍しい三種の文字を混ぜて漢字仮名交じり文を発明した。
 漢字があるおかげで、造語力は飛躍的に増す。漢字を読めばなんとなく意味がすっと分かる。たとえば「文化人類学」という文字を読んだら、なにかしら人間の生活や制度を通して、民族や社会の研究をする学問なのだと分かる。ところが、英語では”cultural anthropology”と言う。この英語を読んで何人の英語話者が内容を理解できるというのだろうか。
 
 また、明治時代には御雇外国人、つまり欧米の技術・学問・制度を導入して「殖産興業」と「富国強兵」を推し進めようとする政府や府県などによって雇用された外国人を大量に雇って、西洋の技術や法律、政治その他を貪欲に学んだ。そのおかげで、日本は少しずつ西洋社会の仲間入りを果たした。
 
 今日では、日本の大学では日本語だけで物理、化学、数学などの学問ができる。インドなどでは、現在も大学の講義は英語であると聞いた。これは大きな違いである。いずれにしても、今日の日本の繁栄は先達の努力おかげであることを忘れてはならないし、常に他者から学ぶべき事は学び、捨て去るところは捨て去るという覚悟を新たにしなければならないのではないか。

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