憧れの先輩【ご注文はうさぎですか?SS】
私は両親と離れ離れになり、見知らぬ人に誘拐されてしまいました。抵抗しても大人の力に抗う事は出来ず、誘拐犯の家の密室に軟禁されて虐待される苦しい日々を送っていました。
誘拐犯「出て行こうなんて思わない事だな。もし出て行ったらどうなるか分かってるよな?」
チノ「貴方なんか大嫌いです!」
誘拐犯「んだと?俺の言う事が聞けねえのか!?」
チノ「助けてお母さん!」
外に聞こえる様に大声で助けを求めましたがその声が両親に聞こえる事はなく誰かがここまで助けに来てくれるという淡い希望も脱走を試みる度に見つかり次第家に連れ戻されていたのですぐに破壊されました。
誘拐犯「お前ママがいないと何も出来ねえのかよ!」
チノ「…!」
私は必死に涙を堪えていました。親や警察も私がどこにいるのか分からないみたいです。
我慢に我慢を重ね、遂に耐えられなくなった私は一か八か誘拐犯の家を再び飛び出しました。
誘拐犯「おい待てコラ!」
再び家を脱走し、誘拐犯に捕まる前に家を脱出して街に繰り出しましたがどこに行けばいいのか分からず宛もなく街を彷徨っていました。やがて体力が限界に達し動けなくなってしまいました。そこに中学生の少女が現れ、いきなり声を掛けられました。
リゼ「おい、その怪我どうしたんだ?」
チノ「…、貴女は誰ですか?」
リゼ「私は天々座リゼ。お前の名は?」
チノ「香風チノと言います。私に何の用でしょうか?」
リゼ「チノ、お前親とはぐれたんだろ?」
チノ「何故それを知って…?」
リゼ「小学生が一人で外歩くなんて危ないからな。」
チノ「家族はどうやって探せばいいんですか?」
リゼ「お前の家の名前と住所ってどこだっけ?」
チノ「私の家はラビットハウスという喫茶店です。」
リゼ「よし、私が探してやるよ。交番に行って電話掛けてもらったら一発だぜ。」
チノ「でもリゼさんは大丈夫なんでしょうか?」
リゼ「気にすんな。親が見つかるまで一緒にいてやるよ。てかちゃんと飯食ってるのか?」
チノ「誘拐されてからは碌にご飯食べてませんでした。お酒買って来いとか命令されて、断ったら逆上して暴力を振るわれていました。」
リゼ「そっか。お前よく頑張ったんだな!チノは勇敢な戦士だよ。」
私は両親とはぐれ、誘拐されていた事を告白しました。その事を知ったリゼさんは見ず知らずの私の全てを受け止めてくれ、そんなリゼさんに心を許してしまい、リゼさんの胸の中で涙が止まらなくなりました。
チノ「ありがとうございます。リゼさんには敵いませんが。」
リゼ「じゃあ、まずはコンビニ行って美味い物食おうぜ!」
チノ「イェッサー!」
両親を探す前にまずはコンビニに行って腹ごしらえする事にしました。
リゼ「チノは何食べる?私はカフェオレとティラミスにするけど。」
チノ「ホットコーヒーとモンブラン食べたいです。」
リゼ「よし、ちょっと待ってろ。」
リゼさんはそういうと私達が選んだ商品を購入する為にレジで会計しました。
店員「ありがとうございました!」
リゼ「お待たせ!」
チノ「ありがとうございます。リゼさんはどうして私に優しくしてくれるんですか?」
リゼ「理由なんて無いさ。ただの気まぐれだよ。」
チノ「でも裏ありそうです。」
リゼ「そうか?でも少なくとも騙したりはしないから安心してくれ。」
チノ「へー、ではいただきます。」
リゼ「コーヒー熱いから火傷しない様に冷ましてから飲めよ。」
チノ「ふー、ふー。」
リゼ「どう?美味いか?」
チノ「久しぶりにこんな美味しい物食べました。ラビットハウスにいた頃を思い出します。」
リゼ「ラビットハウスってどんな喫茶店だっけ?」
チノ「私の両親が経営していて、いつか私が跡を継ぐ事になってるんです。コーヒーとかカクテルとかケーキも置いてます。本当にいい所なのでいつかリゼさんにも遊びに来て欲しいです。」
リゼ「チノの両親が見つかったら、いつか私もお邪魔したいな。」
チノ「是非来てください。美味しいコーヒーを用意して待ってますね。」
リゼ「ああ、楽しみにしとくよ。」
そして、私とリゼさんは交番に向かい、警察に頼んでラビットハウスに電話してもらいました。
警官「見つかって良かったよ。さあ、乗ってくれ。」
チノ「はい。」
私はリゼさんにお礼を言おうして振り返りましたがその頃にはリゼさんの姿は消えていました。それからはパトカーで我が家であるラビットハウスまで送ってもらい、両親に再会する事が出来ました。
チノ「ただいま、お母さん!」
咲「チノ!無事だったのね!お帰りなさい!」
タカヒロ「お帰り、よく頑張ったな。私達も探してたぞ。」
私の両親に再会した途端、両親は私に駆け寄ってくれました。両親に再会できるまで傍にいてくれたリゼさんの事を今度紹介したいと思っています。
咲「あれからは何をしてたの?」
チノ「それは…。」
一方、誘拐犯は私を探している途中で警察に見つかり逮捕されました。
数年後、私は中学生になりました。母は不治の病で亡くなりましたが、新たに出会った仲間達と一緒に前に進み、ラビットハウスで働いていました。ちなみに現在は誘拐犯は勿論、リゼさんとも一切関わっていません。
ある日、私がそうやって過ごしていると新メンバーがラビットハウスに入ってきました。その人は紫色のツインテールの髪型をしており凛とした佇まいの少女でした。
私はこの人がまさか、リゼさんではないかと感じたので声を掛けてみました。
チノ「あの、」
リゼ「おう。」
チノ「貴女はあの時私を助けてくれた、」
リゼ「ん?」
チノ「私、昔親とはぐれた所をリゼさんに助けてもらった香風チノと言います!」
リゼ「ああ!お前もう働いてたのか!早いな!」
リゼさんは急に私の事を思い出した様でバイトが終わった後、二人でコーヒーを飲みながら私が今どうやって過ごしているかをリゼさんに洗いざらい話しました。
リゼ「そっか。チノも成長したんだな。昔の私とは大違いだよ。」
チノ「どうかされました?」
リゼ「私、令嬢として生まれたんだけどそれが原因で周りから嫉妬されて孤立してたからずっと学校行ってなかったんだよな。」
リゼさんは急に過去の出来事を思い出し、中学時代の過去を打ち明けてくれました。周りから嫌われて孤立していた経験があったからこそ私に優しくしてくれたのでしょうか?
リゼ「気分転換に散歩してたらたまたまボロボロだったチノを見つけてさ。どうにもほっとけなかったんだ。」
チノ「リゼさんは今どうやって過ごしてるんですか?」
リゼ「中3になってから家で猛勉強する様になったんだよな。高校生になってからはお嬢様学校に通ってて、帰りに偶々ココアと会った時にラビットハウスに誘われたからここで働いてみたいって思ったんだ。」
私はチノを送り届けてから高校生になってから暫く経った。中学時代の荒々しさは鳴りを潜め、優雅な令嬢として高校生活を送っており部活の助っ人も積極的に行う様になった。ある日、学校から帰っていると橙色の髪を持つ少女が声をかけて来た。
ココア「やっほー!初めまして!」
リゼ「お前は誰だ?」
ココア「私は保登心愛!貴女の名前は?」
リゼ「私は天々座リゼだが、何の用だ?」
ココア「今喫茶店で働いてるんだけど一緒に働かない?」
リゼ「行ってみたいんだが最近忙しいからさ。また機会があったら考えてみるよ。」
ココア「もうそう言わずに、悩んだらGOだよ!」
ココアはそう言って私を強引にラビットハウスに連れ去った。まさかこの後かつて同じ時を共有した戦友に再会するとは想像もしなかっただろう。でも私に興味を持って仲間になろうとしてくれてる人がいるって実は嬉しんだ。サンキュー、ココア。
シャロ「リゼ先輩また人助けしてたんですね!素敵です!」
リゼ「何の事だ?」
シャロ「昔ストーカーに付き纏われてた時にリゼ先輩が颯爽と登場して追い払ってくれたのよ!」
私は中学生の頃、外を散歩していると金髪のウェーブヘアの少女が謎の男から付き纏われている光景を見かけた。
シャロ「ついてこないでって言ってるでしょ!」
シャロは必死にストーカーを拒絶しているが、ストーカーはシャロへの付き纏いをやめなかった。私はその光景を遠くからスマホで録画していた。何故シャロにしつこく付き纏うのかは分からないが私はシャロを助ける為に二人の間に割って入った。
リゼ「その子は嫌がってるだろ?さっさと消えろ。」
ストーカー「この子は気づいてないだけで本当は僕の事大好きなんだよ!」
リゼ「お前についてなんか誰も聞いてねえよ。」
ストーカー「よく見たら君も可愛いね。」
リゼ「お世辞は結構だ。」
ストーカー「生意気な事言うんだね。じゃあ君からレイプしてあげるよ!」
リゼ「コイツ話通じないみたいだな。ちょっと下がってろ。」
ストーカーは私を殺そうと襲い掛かるが、 私は幼少期から父親が軍人であり、護身術を身に付けていたのでこの程度では全く相手にならない。女だからと言って舐めるなよ。
ストーカー「クソッ、覚えてやがれ!」
リゼ「後で警察に訴えるから覚悟しとけよ?」
シャロは目を輝かせて私を見つめていた。しかし、私はそれに反応する事なくその場を立ち去り後で録画した証拠を警察に突き出した。
驚くべきことに、ラビットハウスの仲間内にもリゼさんに救われた人がいたらしいです。不登校だったリゼさんが何故人助けをしていたのでしょう。
ティッピー「あれが話に出てたリゼか!凛々しくてカッコいい子じゃが、意外とお人好しだったとはのう。」
リゼ「お前も聞いてたのか!?」
ティッピー「あーーーれぇーーー?」
ココア「わーいリゼちゃんヒーローみたいだね!ネットで拡散して世間にも知ってもらいたいなー!」
リゼ「別に助けた訳じゃ無いけどな。ただの暇つぶしだし。」
千夜「いつかリゼちゃんの歓迎会しないとね。」
シャロ「じゃあ明日やらない?リゼ先輩の事もっと色々知りたいから!」
千夜「ええ、なら明日やりましょ。よろしくね、リゼちゃん。」
リゼ「皆ありがとう。こんなに手厚くもてなしてくれるなんて涙が出そうだよ。」
チノ「リゼさん、私にとって憧れの先輩はリゼさんなんです。」
リゼ「私にとっても一番の後輩はチノだぞ。」
チノ「いつまでも私の憧れたリゼさんのままでいてくださいね。」
リゼ「何言ってんだよ、当然だろ?」
私とリゼさんはお互いに告白を交わし、笑い合いました。私にとっての憧れの先輩はリゼさんでした。今度は私が困っている誰かに手を差し伸べ、お世話になった人達へもらったこの気持ちを返せる人になりたいです。