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一筋の光【がっこうぐらしSS】


※暴力や病的な描写が含まれます。閲覧は自己責任でお願いします。










女「貧乏人は学校来んな!」

美紀「黙れ。」

女「貧乏人の分際で口答えとか生意気なんだよ!」

美紀「殺されたくなかったら私から離れた方が身の為ですよ?」


私は両親を亡くしている事が原因で学園の同級生達から蔑まれ、糾弾のターゲットになっていました。同級生達に嫌がらせを受ける度に殺意の眼差しと共に刃物を持ち出して自己防衛していましたが、数の暴力により反抗出来なくなるまで暴行や罵倒に押し潰されていました。先生達に相談しても甘えるなの一言で片付けられ、いつからか目付きや心が刃物の様に荒んでいました。私は元々精神的にはタフな方でしたが、度重なる嫌がらせに私の心は限界を迎えつつありました。


悠里「初めまして、貴女の名前を教えてもらえるかしら。」

美紀「私は直樹美紀と言いますが、名前を知ってどうするんですか?」

悠里「私は若狭悠里よ。ところで美紀さん、その怪我どうしたの?」

美紀「道中で転んだんです。」

悠里「本当に転んだだけなの?手当てしてあげるわ。ちょっと貸して。」


ある日、私の前に別の高校に通っている悠里さんという少女が現れ、私が負った怪我を手当てしてくれました。その天使の様な優しさが嘘か誠か懐疑心を拭いきれず、初めて人に優しくされた事に実感が湧きませんでした。


美紀「悠里さん、まさか私を騙そうと考えてるんじゃないですか?」

悠里「どうしたの?私は騙したりなんかしないわよ。」

美紀「正直疑わしいです。口ではそう言いつつどうせ貴女も私を裏切るつもりでしょう?」

悠里「人の事が信じられないのね、無理も無いわよね。少しづつでいいから私に心を開いてくれたら嬉しいわ。」

美紀「あんまりしつこくしてるとナイフで突き刺しますよ?」

悠里「み、美紀さんっ!?」

美紀「あっ…!」


しかし、人から優しくされた事が無く人間不信だった私は悠里さんに反射的に護身用に所持しているナイフを突き出して攻撃的な態度を取ってしまい、それが忍びなくて悠里さんから逃げ出しました。悠里さんは私の方をずっと見ていましたが、もしかしたら裏切られるのではないかと疑心暗鬼になってしまったのです。悠里さんに感謝している一方で、心に余裕が無かったとはいえ悠里さんに攻撃的な態度を取ってしまった自分が嫌になってどうしようもありませんでした。


後日の放課後、再び悠里さんが私の前に現れました。


悠里「美紀さんまた怪我してるのね。やっぱり何かあったんじゃないの?」

美紀「あの…、悠里さんは何故優しくしてくれるんですか?私の事は怖くないのですか?」

悠里「ただ、美紀さんと一緒にいたいからよ。それに美紀さんが辛い目にあってるのは初めて会った時から知ってたのよ。今までの事、秘密とか無しで私に全部話してくれるかしら?」


悠里さんは再び怪我の手当てをしてくれました。その後、悠里さんに今までの出来事を全て話しました。


美紀「こういう事を言うのは情けないかもしれませんが、実は両親と死別しているんです。それが原因で学校で差別されていて先生達に相談しても無視されていました。」

悠里「それでこんなにやられちゃったのね。今までよく頑張ったわね。偉いわ。今度何かあった時は私を呼ぶのよ。」


私はどうせ助けてくれない、裏切られるかもしれないという懐疑心を完全に捨てる事は出来ませんでした。でも、半信半疑とはいえ人を少しでも信じる事が出来たのは悠里さんが初めてでした。それから悠里さんは可能な限り私の傍にいてくれました。


女「おい直樹、金貸してくれない?」

美紀「自分で稼いだらどうですか?私からお金を奪った所で高が知れていますよ。」

女「何言ってんの?貧乏人から搾取するから面白いんじゃん。」


そしてある日、私が下校している途中で再びあの同級生達に絡まれ、今度は金銭を要求されました。しかし私は誰が相手でもお金の貸し借りをする気はありません。


美紀「貴女達とは会話をする価値も無いのでさようなら。」

女「どこ行くんだよ卑怯者!」

女「逃げんじゃねえ貧乏人!」

女「いつでも付き纏って嫌がらせしてやるからな。」

美紀「やめてください!」

女「貧乏人イジメるの楽しいわwww」

女「ウチらに逆らおうってのが間違いなのよ!」


金銭の要求を断りその場を去ろうとすると逆上した同級生達に拘束され暴行を受けました。しかし、私に救いの手を差し伸べてくれる人が現れるとは想像もしませんでした。


悠里「やっぱり貴女達だったのね。美紀さんに付き纏っていたの。」

女「あんた誰?」

女「あんたには関係ないでしょ?」

悠里「私は私立巡ヶ丘学院に通っている若狭悠里。出会った時からずっと美紀さんの事見てたのよね。」

美紀「悠里さん…!」

女「直樹の奴チクリやがったな。情けないと思わねえのかよ。」

女「貧乏人に絆されたんだね。ほんと腐ってるわ。」

女「あんたも本当は貧乏人の事嫌いだろ?素直になれよ。」

悠里「私は美紀さんが大好きよ。社会的地位でしか人を判断出来ない貴女達に美紀さんの魅力は一生掛かっても分からないわよ。」

女「貧乏人には生きる価値も無い。この事実を理解してないんだね。」

悠里「どうやら話しても無駄みたいね。」

女「丁度良かったわ、コイツもやっちゃおうぜ。」

女「生意気言えない様にしてやるわ!」

悠里「口より先に手が出た貴女達の方が余程惨めだわ。美紀さんに手を出すなら私を殺してからにしてね。」


私は攻撃されるのが怖くて視界を閉じてしまいました。しかし悠里さんは何故か顔色一つ変えていませんでした。

同級生達が私と悠里さんに手を出してきた瞬間、ツインテールの少女と猫耳の帽子を被った少女が現れ、ツインテールの少女が私達の間に入り同級生達を返り討ちにしていました。


由紀「りーさんお待たせ!」

胡桃「ギリギリ間に合ったぜ!りーさん、美紀、大丈夫か!?」

悠里「胡桃、由紀ちゃん!間に合ったのね!」

女「卑怯者!狡いぞ!」

胡桃「大勢で一人を集中砲火してたお前らにだけは言われたくねえよ。」

由紀「もうみーくんに手出して来ないで!」

悠里「あ、言いそびれてたけど貴女達が美紀さんにしてた事全部録画させて頂いたから。この動画警察に持って行けば貴女達は終わりよ。」

胡桃「これ以上美紀に手出ししたらどうなるか分かってるよな!?何なら録画した奴今からネットで拡散してやっても良いんだぜ?」

由紀「りーさんや胡桃ちゃんを怒らせるからこうなるんだよ〜?もうこれで懲りたよね〜?」

女「もう直樹さんには近づきません!」

女「参りました!申し訳ありませんでした!」


同級生達は自分達の行いを録画されていた事を知った途端に何も言えなくなり、私達から逃げていきました。やっぱりその程度の有象無象だったという事ですね。


悠里「胡桃ありがとう。ちょっと怖かったけどお陰で助かったわ。」

胡桃「良いって事よ。あれくらいの数ならチョロいぜ。」

由紀「みーくん大丈夫?」

胡桃「美紀が無事で良かったぜ!」

悠里「美紀さんを助ける為にこの子達にも協力してもらったのよ。頼りになる子達で嬉しいわ。」

美紀「皆さん、本当にありがとうございました。」


同級生達が退散した後、悠里さんをはじめ由紀さんと胡桃さんも私の傍に駆け寄り心配してくれました。まさかありのままの私の事を本気で想ってくれている人がいたとは想像もしませんでした。


美紀「助けて頂きありがとうございました。感謝の言葉もありません。」

悠里「お安い御用よ、美紀さんを守れたのなら。そういえば美紀さんは普段どうやって暮らしてるの?」

美紀「生活保護を受給していて賃貸で暮らしています。こういう事は周囲に言い辛いんですが。」

悠里「そう。なら私の家に泊まって行かない?時間も遅いし。」

美紀「泊まってもいいんですか?」

悠里「美紀さんが心を開いてくれたら私の家に呼びたかったの。だから来て欲しいのよ。」

美紀「ではお言葉に甘えて。」


帰り道に悠里さんと一緒に帰る途中で、悠里さんは心の中で寂しさを感じていた私を察し、自身の家に泊めてくれました。


悠里「今からスイーツ作るから美紀さんはゆっくりしてて。美味しい物でも食べて、今までの事は忘れましょう。」


悠里さんの家で過ごす時間は私の心に光を灯しました。悠里さんは私の為に紅茶やケーキを振る舞ってくれました。


悠里「私ね、料理とかスイーツとか作るのが昔から大好きなの。どう、美味しい?」

美紀「凄く美味しいです。こんなに美味しい物今まで食べた事無かったですし。」

悠里「良かった。そう言ってもらえると私も嬉しいわ。また美紀さんと一緒にティータイムしたいわ。」


悠里さんが振る舞ってくれたケーキと紅茶も凄く美味しくて、人生で幸せな時間を過ごしたのは生まれて初めてでした。その後、悠里さんにお風呂に入れてもらい、お風呂から上がると寝る支度をして悠里さんが準備してくれた布団に入り、その頃にはもう悠里さんに対しての警戒心は無くなっていました。しかし、一つだけ悠里さんに攻撃的な態度を取ってしまった事に心残りがありました。


美紀「あの、」

悠里「どうしたの?」

美紀「あの時は心に余裕が無くて酷い事を言ってしまいすみませんでした。あんなに優しくしてくれたのに何と謝ったらいいか分からなくて。」

悠里「美紀さんが気にする事じゃないわ。悪いのは美紀さんに酷い事をしたあの人達だもの。もし怖かったら美紀さんが眠れるまで私が守ってあげるわ。それに、辛い時は私に甘えていいのよ。」


眠れない夜、悠里さんが傍にいて抱擁していてくれた事で私の不安な気持ちが和らぎ、悠里さんの包容力に心と体が温まりました。それから悠里さんは私が眠りに落ちるまで私を守ってくれていました。そのお陰で私は安心して眠りにつく事が出来ました。


あの事件から一ヶ月後、私に暴力を振るっていた同級生達に障害罪が成立し、150万円の慰謝料を受け取りました。中学生の時は凄惨な学園生活を過ごしていましたが生活保護や国からの援助もあり何とか巡ヶ丘学院高等学校に進学出来ました。しかし、まだ入学したばかりでまだ友達はいなかったのでいつか作れたらいいなと思っていました。


美紀『え、嘘でしょ…?』

悠里「あら美紀さん久しぶり。元気にしてた?」

美紀「…、悠里さんお久しぶりです。」


そして新たな学園生活を過ごしていたある日の放課後、悠里さんと再会しました。悠里さんに今はどうやって過ごしているのかについて話しました。


悠里「美紀さんはあれからどう過ごしてたの?」

美紀「生活はあの時と変わっていませんが、裁判後に慰謝料を受け取ってからそれっきりあの人達とは関わっていません。」

悠里「そう、じゃあ今度こそ救えたのね。」

美紀「…、今度こそ?どういう事ですか?」

悠里「私ね、中学生の時に妹を交通事故で亡くしたの。訴訟したんだけど犯人が心神喪失者と見做されて泣き寝入りしたのよ。だから妹を救えなかった分も含めて美紀さんを助けたかったの。」


私は裕福で円満な家庭に生まれ、妹をはじめとした家族と共に幸せな生活を送っていた。しかし、中学生の時に妹を交通事故で亡くした。

裁判官「被告に無罪を言い渡す。」

悠里「どうしてこうなるのよ!何で!」


妹を殺した犯人に無罪判決が下った瞬間精神崩壊して発狂した。普段は表に出さない怒りを抑えきれず犯人を殺そうとさえしたが周囲にいた家族や弁護士達に制止され身動きが取れなかった。

その場では何とか家族達に制止された事もあって私は犯罪者にならなくて済んだけど妹を失った悲しみと絶望は高校に進学してからも消える事は無かった。それでも胡桃や由紀ちゃんには心配を掛けたくないのでその事を隠していたけど。しかし、それがきっかけでもし今度誰かが私と同じ様な境遇にいたら私が手を差し伸べる一筋の光になりたいと思った。


美紀「あの時は本当に良くしてくれてありがとうございました。もし悠里さんに出会わなかったら私はどうなっていたんでしょう。」

悠里「気にしないで。私が好きでやった事だから感謝される筋合いなんて無いのよ。でもその代わり今度私が困った時は美紀さんが相談に乗ってくれたら嬉しいわ。」


実は悠里さんは妹を交通事故で亡くしており訴訟しても相手は心神喪失者であり、刑事責任を負わせる事が出来ず罪を揉み消された過去があったそうです。だから私にあんなに優しくしてくれたのでしょうか。


胡桃「りーさんの親友の恵飛須胡桃だ!よろしくな美紀!」

由紀「あたし丈槍由紀って言うの!みーくん大好き!」

悠里「この二人ちょっと暴走しがちな所があるんだけど悪い子じゃないから許してあげてほしいわ。」

美紀「大丈夫です。気にしないでください。」

由紀「胡桃ちゃんはすぐ怒るから気をつけた方がいいよ〜。」

胡桃「何だと由紀!?」

由紀「ぷぷぷっ〜。」

悠里「まあまあ二人とも落ち着いて。」

美紀「悠里先輩、これからもよろしくお願いします。」

悠里「ええ、こちらこそ。」


悠里さんは間違いなく私の恩人でした。その後は悠里さんの親友である胡桃さんや由紀さんとも打ち解け、遂に人の輪に入る事が出来ました。それ以来、私の心は少し柔らかくなった様な気がします。二人とも頭が足りていない所がありますが悠里さんと同じく凄く良い人達で一緒にいる時間がいつまでも続いてほしいとさえ思いました。