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サイバーおかん『5枚の写真から語るネオン風景』/都市のラス・メニーナス【第25回】

2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。

現在、平井オープンボックスを会場として、毎月1回開催中。その第25回が2024年4月14日(日)に、サイバーおかんをお招きして開催された。

中央がサイバーおかんさん。左は磯部祥行、右は石井公二(写真=丸田祥三さん

このイベントは「路上観察」をベースとしてきたので、ご出演いただいた方々はたいてい「○○鑑賞家」のような肩書きを付しているが、今回はない。そこをまずサイバーおかんにお聞きすると、「『サイバーおかん』をしている『タナゴ』です」という答えが返ってきた。そう、実は「タナゴ」さんなのだけれど、肩書きが代名詞化してしまったのだ。でもここではサイバーおかんでいく(敬称略)。

その活動をざっくりいうと「日本をサイバーにするために立ち上がったおかん」。活動の一環で身につけていたのがLEDで図形が流れる帯なのだけれど、あるとき、自分が目指している未来感は1980年代のSF作品に描かれる未来なので、LEDではないと気づいた。1980年代は未来感をネオンのギラギラで表現していた。そこで製作したのが「背負いネオン」だ(上写真左奥)。

サイバーおかんには焦りがある。SF作品で「未来」とされていた時代を年表化したのが上だが、まったく現実が追いついていない。焦る。サイバー化しなければ…。

本来の未来にはネオンが発達した景観があるはずだ。しかし現在はLEDが発達してしまっている。つまり、未来が分岐し、我々は別の未来に生きている。それをネオンが主役となっている世界に戻したい。それがサイバー化だ。『ロキ』のTVAか。

さっそく1枚目。ものすごく大きな「道頓堀」。これだけ大きなものをこの近さで鑑賞できる貴重な場所。大阪ではなく実は渋谷。「ネオンの点灯にも動きがあるので見て欲しいです」。

本当は「道頓堀」ではなく「道玄坂」と発注したものが、できあがったらこれだったらしい。注文を取り違えるほど、ネオン界隈が盛り上がっていた時代の作品だ。

これは大阪の道頓堀のアーチ。ネオンとLEDが共存している。ネオンは袋文字の外側をなぞる場合(「道頓堀」の文字)と、袋文字の骨格のみを1本で描く場合(右側「アサヒ」)とがある、

それにしてもこの造形。「道頓堀」を囲むジグザグの赤い3本線に、盾状の白と黄色。これをデザインしたネオン製作会社と思われるが、そのセンスたるや。

デザインされたものをネオン管を曲げながら作っていく職人は別の人なので、どう曲げて文字にしていくかは職人によって違うそうだ。

西武新宿駅前のパチンコエスパス。塔屋は3階分くらいの大きさがある。袖看板もばかでかい。ネオンを味わいたくなったらここに行けばいつまでも浴びていられる。

ここで、石井がサイバーおかんに「路上観察」について聞く。今和次郎、赤瀬川原平に親しんで街歩きをしている人がいままで多かったが、サイバーおかんはというと、街歩きはすごく好きだけれども、「日本のネオンを全部見てみよう」のようなスタンスではない。ネオンだけを寄りで撮るのでもなく、上の写真のように「全体の中でのネオンの存在」を撮っている。

秋葉原の東京レジャーランド。ビル自体も古くていい感じ。ファサードに貼られている「ビデオゲーム」「インターネットゲーム」の間に、なにか文字列があった跡がある。「ネオン1本を三つの脚(サポート)で支える」のが普通なので、元はどんな文字列だったのか、一緒に街歩きをしていたアオイネオンさんや山下メロさんと推測を重ねたが、長時間考えてもわからなかった。ネットの写真で答え合わせができる。

その上下の赤いラインも見て欲しい。赤いラインのサポート付近が青白いのがわかるだろうか。ところが「インター」の下だけ、青白い光が見えない。青白いのは青ガス(アルゴン)で着色した管を点灯しているものだが、全部赤なのは赤ガス(ネオン)が発光する色だ。つまり、「インター」の下の赤いラインが1本破損して、新たなものに交換されたと思われる。

また、右端「東京」は、袋文字の内側にネオンがあったものだが、更新でLEDとなり、その際に袋文字をなぞる位置に配置されたもの。

秋葉原が電気街だったことを今に伝える「アマチュア無線」の袖看板。これもまたでかい。しかし、黄色部分が劣化していることでわかるとおり、もう使われていない。袋文字が太いので、ネオンが4本並行して埋めている。

点灯しなくなったネオンは、けっこう出会う。記録しておかないと、いつ撤去されるかわからない。

* * *

あまりに見せたい写真が多すぎて、5枚をセレクトするのが厳しかったというサイバーおかん。そして、冒頭の焦りのとおり、われわれは「遅れている」という自覚とともに、かつてのSFが描いた未来を作り出さねばならない。雨の中でネオンが点滅する香港が描かれる『パシフィック・リム』の舞台である2024年のイベントはこうして終了した。

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