兵士についての覚書
水と原生林のはざまで (シュバイツァー)
わたしは毎朝、病院へ丘を降りていくときに、いま義務のために他人に悲しみと死とを与えている人たちにくらべて、わたしは親切をつくしながら、人の生命を助けて得ていることを言いがたい恩寵と感じる。この感じがあらゆる倦怠を乗り越えて私を勇気づける。
忌野清志郎が徹子の部屋に出たときに、顔も知らない実の母親に向けて戦死した前の夫が送った手紙。
お母さん、私は今 西の方を向いております。
黄昏は深いジャングルの方に迫ってきました。
だいぶ暗くなってきました。
私の向いているほうだけ真紅に燃えております。
一面の青さの中でそこだけ明るくそこだけにおっております。
その明るいほうを向いております。
お母さん、あなたの方を向いております。
太陽もあなたのようです。気高く美しく愛情に満ちた夕焼けの太陽です。
雲を染め 海を染め 森を染め 私の心を染めて輝き渡る希望の色です。
その色に磨かれて私は誓いたちます。
あなたと一緒に毎日戦うのです。
あなたの光に磨かれて強く戦い続けております。
先程まで敵機は猛く舞っておりました。
砲弾はジャングルを揺さぶりつづけておりました。
今はすっかり静かになっております。
今日の戦争の苦しさも 明日の爆撃の激しさも、この先の前には物の数では有りません。
この光を見つめております。
あなたの方を見つめております。
あなたの顔を見つめております。
これは過日新聞に乗っていた黄昏という詩ですが大変気持ちが私と同じ様に思えたので抜き書きしてお送りました。
何回も何回も読んでください。
東京空襲の報を聞きましたがどうでした。
家の者には被害は有りませんでしたか。
こっちは雨もなくなりましたので、実に暑さが厳しく感じられます。
うそみたいな話しでしょう。(日本では12月)
当分便りは出せないとおもいます。
皆々様によろしく。
これは、母ではなく妻に向けた手紙であり、戦争の最中妻への思いを書くことは家に帰りたいと後ろ向きに受け取られるため、検閲に引っかからないように妻への思いを母に置き換えて書いたもののようだ。
何回も何回も読んでほしいという部分に死の覚悟を感じさせる。