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30代後半からの、IT業界挑戦記 ⑬ コートと財布とスマホと私
今日も雨。
昨日も急に雨。
明日もきっとそのうち雨。
最近多い。土地柄かもしれないけども。
今週は降らないと思いきや降る日ばかりだった。
その日も、出勤時は晴れていた。
車を降りる時には晴れ間も見えていた。
車を降りる時、目の端に折り畳み傘が映った。
ああ、そうか、この前使ってそういえばそのままだった。
まあ、これだけ晴れているからいいかとそのままにして会社へ向かう。
私は、上着を羽織る時期になると、ほぼ必ずと言っていいほどポケットに物を詰め込む習性がある。右にはスマホ、左には財布や鍵、といった具合だ。今日もめいっぱいに詰めこんでいる。鞄にしまうといちいち取り出さなきゃいけないのが面倒で、ついつい入れてしまうのだ。
会社に着くまでは問題なく晴れていて、雨に襲われる事はなかった。
そういえば今日はいつも携帯してるミンティアが切れてたな…
担当している業務が終わったら買いに出かけようかななんて、そんな事を考えていた。ある程度仕事も落ち着いた所で席を立ち、1階へ。
そして外へ出た私を迎えたのは、一面に広がる灰色の絨毯。
今朝のあの光はなんだったのかという程に空が一面灰色で覆われている。
当たり前かのように雨粒が空から降り注ぐ。
うーん…これは無理か…
傘を持たなかった私は一旦引き返し、雨が落ち着くのを待つことにした。
しかし、雨が落ち着くことはなかった。
業務が終了した後も、変わらず雨は降り続けた。
折り畳み傘をあの時しっかり鞄に入れていれば…
後悔しても仕方がない。とりあえず外に出る。
なんと、奇跡的に雨があがっている。
そうなると欲をかくのが人間という愚かな生き物である。
小腹が空いていた事もあり、私はコンビニへ行く事にしたのだ。
コンビニで抹茶ショコラまん(ほのかに抹茶の香りがしておいしいよね)と、半額になっていたハッシュドポテト(時間がたっててカッチカチ☆)を購入し、ホクホクしながら外へ出ると、容赦なく降り注ぐ大粒の水玉たち。
なんで…なんであの時まっすぐ帰る選択をしなかったんだ。
仕方ないよね、だってお腹すいてたんだもん。
とにかく、少しでも早く車にたどり着こうと、ショコラまんとハッシュドポテト(カッチカチ☆)が入っているビニールを抱え、小走りに駆け出した。
目先には横断歩道。一度赤になってしまうと数分は青に変わらない信号機。
なんと僥倖か、今は青。行くしかない。
力を振り絞り、私は全力で駆け出した。
その時だった。
勢いよく走りだした事で、財布の入ったポケットが猛烈に振り回され、そのままの勢いで私の股間にジャストミート。
頭の中に鳴り響くトライアングル。
一度勢いがつくとそう簡単には止まらない。続いて自然ともう片足も大きく踏み出しており、そのままの勢いで今度は反対側のスマホが入ったポケットが全く同じ速度で、私の股間にスマッシュヒット。
頭の中に鳴り響くチャイムベル。
一度勢いがつくとそう簡単には止まらない。燕返しの如く、財布の入ったポケットが再度私の股間を襲う。片手にビニール袋、片手に鞄を抱えて走っている私には、身を守る道具など無い。
私のコートは、財布とスマホを使って私の股間をドラミングし続けた。
横断歩道の途中で悶絶し、苦悶の表情を浮かべ速度を落とす37歳男性。
立ち止まったかと思えば、傘もささずに股間を押さえながら走り出す。
何とか横断歩道を渡りきり、そのままの勢いで車まで駆け抜ける。
股間を押さえながら。
やっとの思いで車に到着し、家路につくのだった…。
股間を、押さえながら…。