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37歳という節目
「年のせいですね」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
気付いたら視界の端に黒い点がウロウロする。
飛蚊症ってやつだろうか。
何か怖い病気だったら怖い。目だし。
左目で見ているときは見当たらないので異常があるのは右目だ。
幸い明日は休みだし、眼科に行って診て貰おう。
そんな感じで散々検査してもらった結果言い渡されたのが冒頭の台詞である。
飛蚊症って、老化現象の一種だったのか…。初めて知った。
そういえば親も言っていたような…でもあれ60代になってからじゃなかったっけ??
戸惑いが通じたのか老年の眼科医は続ける。
「別に病気が隠れているってわけじゃなさそうですよ。でももし急にブワッと増えたらすぐに受診してください」
「ボクもいっぱい飛んでますよ。邪魔だよねえ」
そういうものだから気にするな、とでも言いたいらしい。
「ここにあるガラス体が年と共に変質してくると飛蚊症になるんだ」
模型も取り出して原理まで丁寧に説明してくれる。
「ーーえ…っと…処方箋とかは…?」
「無いですよ。年齢でガラス体が変質してるのが原因だから」
動揺の余り変なことを訊いてしまった。
同じ説明を二回もさせて申し訳ない。
老化現象なんだから処方箋があるわけない。
そうかー、来たかー。こんな早く来るんかー。マジかー。
いつの間にか若いつもりでいる勘違い野郎になっていたらしい。
いや、気の持ちようは大事だ。気持ちが若いのは良いことだと思うが、それはそれとして現実は受け止めなければならない。
両親の親族から類推するに、自分は90歳くらいまで生きる可能性がある。飛蚊症とは50年くらい付き合う想定をしなければ。
50年…経験したことのない年数である。
健康に気をつけねば…。
あと老人ホームとかで友達作れるようにコミュ力も鍛えよう…。
そんな経験をした数か月後、友人が37歳で脳梗塞を発症した。
脳梗塞では脳の血管が詰まって脳細胞の一部が死滅してしまう。
死んだ細胞は復活しないので損傷を受けた部位が司っていた部分に障害が残る。
ホント、健康には気を付けよ…。
ちなみにその友人はおおむね元気である。
詳細は控えるが、運動機能も認知機能も大きな影響を受けずに済んだ。
今は元気に働いているが、無傷だったわけでもないので通院は続いているようだ。