セルフライナーノーツ_小説解説

ライナーノーツ

ライナーノーツ(liner notes)またはライナーノートは、音楽のレコードやCDのジャケットに付属している冊子に記載されている解説文のこと。通常ははアーティスト本人ではなく音楽ライターやレコーディング関係者などによって書かれることが多い。
ここでは拙作、つまり筆者が執筆した小説作品の自己解説を行う。題をライナーノーツとしたのは単に筆者がこの言葉を気に入っているからである。
注意として、この記事には拙作のネタバレが微妙に含まれる。
出来れば先に作品を読んでおくことをオススメするが、本編より解説のほうが面白いということも往々にして発生するものだ。先にこの解説を読んでから作品を読んでみるのもそれはそれで面白いかもしれない。
なお以下、キャラクター、人物名は敬称略。

微糖 - pixiv

0.ようこそ、深層組へ!(2022/9/11投稿)

#執事 #従井ノラ 単話 ようこそ、深層家へ! - 微糖の小説 - pixiv

0作目。シチュエーションボイスの台本として執筆。
まだ小説を書くつもりで書いているわけではないため、超短編(1,000字以下)であり、設定も書き方も何一つ練り込まれてはいない。それゆえにさらっと読める。ボイス台本ということで話し手である従井ノラが聞き手(読み手)に語りかけるような文体となっている。
この頃から、深層組というVTuberグループの設定を出来るだけ生かした話になるような試行が見られる。
筆者はもう恥ずかしくて読めないので代わりに確認してみてほしい。

1.Deep into the Dream(2023/7/13投稿)

#1 Deep into the Dream | 深層組ユニバース(仮) - 微糖の小説シリーズ - pixiv

実質的処女作。
タイトルは造語。英語の決まり文句、Deep into the night(夜更けまで)より。
コンセプトは「怪奇」と「特撮」。
44,000字といきなり長い。小説としては中編レベル。
深層組のキャラクターだけでなく、「設定」そのものを一つの普遍的な物語に組み込めないか、ということにトライした実験作。アンダーグラウンド家の新人メイド、わからせちょろが深層Webに存在するアンダーグラウンド邸へ辿り着くまでのその道中の物語。主人公・わからせちょろの視点で、深層組の設定たちを体系化した世界観に潜り込んでいくお話となっている。
表層から深層へ。行ったら行きっぱなしの後戻りのできない物語である。

テーマは「嘘の中に光を見つける」。
VTuberとは虚実入り交じる存在である。その在り方は、ある一面ではドキュメンタリーであり、またある一面ではファンタジーである。
我々が彼らに見ているのは演出やロールプレイであり、それは時にリアルでもある。そして、それは実はVTuberだけでなく、あらゆる人間にも言えることである。
たとえそれが嘘だとしても、きっとその中に光を見つけることができる。
そういったことを長々とじっくりと語るのがこの物語である。
言うまでもなく、なまほしちゃんのオリジナル楽曲『たすけてあげるね』の影響受けているのは白状する以前に明白である。

とにかく考え得る限りのアイデアとオマージュを詰め込んでおり、登場するモチーフも様々な意味が読み取れるように配置している。
全体としては3幕構成(序破急)+αといったところである。後半にはとあるささやかなどんでん返しが仕込まれており、これにより綺麗に3幕構成が成立していると嬉しい。
続編のプロットがあるが執筆が進んでおらず現在少々塩漬け中。しばし待たれよ。

Su_Time(2024/2/21投稿)

#深層組 #小説 Su_Time - 微糖の小説 - pixiv

2作目。
タイトルは甘神すうの配信用ハッシュタグ「#すうたいむ」より。
コンセプトは「寓話」。テーマは「時間」。
33,700字の中編。元々は1万字程度の短編の予定だったが、書いているうちに思いの外長くなった。

タイトルを考えてからストーリーを組み立てた作品。よって、「時間」という事象に対する連想ゲームのように物語が構築されている。

ある夜、腕時計の秒針が少し早くなっているように感じた甘神すうが夜の街の時計屋に修理を依頼し、その待ち時間をあるコーヒーショップで過ごす。
物語のあらすじはただそれだけのストーリーだ。
行きて帰りし物語でもある。
物語のタッチは意図して寓話的、つまりはおとぎ話的に書かれている。

この作品は主役である甘神すうが「吸血鬼」であることに焦点を当てている。人間とは太古から非常に時間的な生き物である。時計という時間を定量的に変換する道具と同じく、人間の脈、心臓の鼓動は絶えず相対的なテンポを刻み続ける。その脈、つまりは時間そのものを糧とする吸血鬼(≒VTuber またはアイドル)の立ち位置から時間、そして時間的な生き物「人間」を描いた物語である。
吸血鬼や人外の存在によってわかりやすく強調されているが、そもそも人間の「時間」、そして「人生」は相対的である。そんな人生の相対性による摩擦や葛藤をこの物語では描いたつもりだ。

会話劇で構成されたストーリーも個人的には挑戦だった。コーヒータイムとは言うが、そんな小休止中にぽろりとこぼれるため息のような雰囲気が出ていると嬉しい。

あとは筆者のコーヒーへの愛が詰め込まれている。
コーヒー好きに読んでほしい一本だ。

ちなみに、本編最終盤のエピローグ部分には数打あたるが登場する。
つまりはこれも「あたすう」SSと言えるのではないだろうか?
というより、このエピローグ部分のみ、それまでの話を振りとしたカップリング小説となっていると言っても過言ではない。

3.Poison Dart Frogs(2024/3/16投稿)

#小説 #飛出ぴょこら Poison Dart Frogs - 微糖の小説 - pixiv

3作目。
タイトルは「ヤドクガエル」のこと。自分の生み出した毒で中毒になるカエルというイメージ。
コンセプトは「白昼夢」。テーマは「信仰」。
1,0800字の少々長い短編。
最も趣味で書かれた最も暗い作品。暗い話が書きたかったのだと思う。

最初の一文から読者を突き放している。拠り所のない雰囲気を味わってほしい。物語構造としてもかなり不親切で、不安定である。
過剰な妄想と不安障害、強迫観念を抱える主人公の視点で語られる夢とも現実とも付かない陰鬱な世界観を覗き込むような物語。

所謂オリジナル主人公が登場するが、この作品は夢小説的ではないし、二次創作的ですらない。とはいえ、飛出ぴょこら(らしき少女)が登場する。最低限の登場で最大限の存在感が出るように意識した。ぴょこらの挙動不審な感じやどこかイノセントな雰囲気が表現できていると嬉しい。

前半は主人公がいかに不安定な状態にあるかをじっくり描き、後半に掛けて決定的なところまでノンストップで突き進んでいく。特に後半はオタマジャクシの雨を降らせたり、カエルを列車いっぱいに詰め込んだりとやりたい放題である。きっと満面の笑みで書いている。
まさに”カエル尽くし”の一作となっている。

語り手がカエルの語りかけるままに死を図る場面では一旦ホームドアに登るという描写を挿入しており、嫌な生々しさを感じ取ってもらえると筆者としては成功である。

ひたすら痛くて暗い話のように見えるが、井の中の蛙が等身大の幸せを再発見する物語でもある。最後の描写をどう受け止めるかは読者に一任する。

4.レイトショー(2024/5/28投稿)

#小説 #Vtuber レイトショー - 微糖の小説 - pixiv

4作目。
タイトルの「レイトショー」は上映終了時刻がおよそ午後二十三時前後に及ぶ映画の上映回を指す。
8,000字の短編。
もっとも二次創作っぽい。

思えば夜の話ばかりを書いている。
これも漏れなく夜の話である。

映画は夢のようであり、ずっと夜の中にあるような場所だ。そんな夜に飛び込んで、夢のような思い出を回想する一夜の話である。故に真夜中のデストロイヤーに登場いただいたというわけである。同時に末妹・小城夜みるくの一人称で語られる彼女の姉妹のお話だ。彼女たちは(設定上)姉妹であるわけだが、あれほど濃い彼女たちが家族として過ごしているのなら、どのような様子なのかを空想して書いてみた。リアリティーと同時に生々しさを感じ取ってもらえると嬉しい。一行目から実際の地名が登場するのもこのリアリティーを補強する演出意図がある。

個人的なポイントは息根とめるを登場していただいている点である。とめるを物語に組み込むのは少々骨が折れるが、なかなか収まりの良いアプローチができたのではないだろうか。

終わり方が気に入っている。

おわりに

ということで息抜きがてら、こういうものを書いてみた。

思えば創作を始めて一年以上になる。
経験がないゆえに稚拙ながらも、読んでくれる人が嬉しい。

今は泣く泣く小説は小休止気味であるが、アイデアはたくさんあるのでまたそのうち公開できると嬉しい。まだまだ書きたいことがある。
これからも上達できるように、もっと多くの人に突き刺さるように精進していきたい所存である。

実はSSというものを読んだことはあるが、そこまで幅広く知っているわけではない。SSというのは、ショートショートと言うくらいだからもう少し短く、読みやすく、分かりやすい方が望ましいのも分かる。
しかし、僕が好きなのは決して普通ではなく、そんなところが魅力的なVTuberたちである。そんな彼らを題材にした物語だからこそ、ここまで大胆に外したものでも許してくれるだろう。と、勝手に思っている。

このようにまとめてみて改めて思うのは、自分は二次創作を書きながら常に普遍的な物語を書こうとしているということである。端的に言うと難しい。そして重い。作者の人格が滲み出ている。しかし創作を通して僕が書きたいのがまさにそこなのである。
だが彼らへのリスペクトを忘れてはいけない。分かりづらくとも、真剣に、大真面目に、一本一本書いていることが伝わっていると嬉しい。
自分が受け取ったことをすべてぶつけている。それが誠実な態度であると思う。

ただ、ゆるく気軽な作品もそのうち書けたらなとも思う。
あとこういうのを書いてほしいというリクエストがあればそのうち実現するかもしれない。

それでは、また。

解説:微糖

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