死生観 残されたものの気持ち
ここまで、死にゆく人に焦点をあてて書いてきたが、故人を見送る側の気持ちも同じくらいに大切だろう。なので最後は残された人について書く。
愛する家族や友人と死別した人は深い悲しみと喪失感を感じる。それをグリーフ(悲嘆)と言う。
例えば夫を亡くして深い悲しみのために何もする気になれない、とか、ふと亡くなった友人のことを思い出して泣いてしまう、と言った状態である。
グリーフには心理的、身体的、社会的な反応がある。心理的な反応とは孤独感、不安感、恐怖感、罪悪感、イライラなど辛い感情にとらわれることである。
身体的な反応とは、眠れない、食欲がない、倦怠感があるなど身体の不調を感じることである。
社会的な反応とは、家事や仕事が出来なくなったり、誰にも会いたくなくて家に閉じこもったりなど生活に支障が出てしまうことである。
ただ愛する人を亡くした時は辛い気持ちになるのは当然であり、誰にでも起こりうるでも自然な反応である。
グリーフは以下の様な段階で回復していくとされる。
1.ショック期
2.喪失期
3.閉じこもり期
4.癒し・再生期
ただ必ずしもこのプロセスを順序立てて経ていくのではなく、行きつ戻りつ回復していく。大切なことは自分の気持ちに蓋をせず、吐き出して受け入れていくことであろう。後はよく「時薬」と言われるが、時間がたつことによって癒されていくだろう。
この様な辛い状況に対する手助けがグリーフケアである。一般の病院ではまたあまり行われていないが、ホスピスや緩和ケア病棟ではグリーフケアを行なっているところも多く、手紙やカードの送付、追悼会、遺族のサポートグループ、電話相談や面談、情報提供、講演会などを行なっている。
大切なことは、遺族の悲しみに寄り添い、その気持ちを傾聴し、一人で抱え込まない様に支えることであろう。グリーフケアアドバイザーというケア資格もある様である。
伝統的に行われる葬式や法事などの儀式にはグリーフケアの役割が大きいだろう。厳かな式典を行うことで故人の死を受け入れるきっかけになるし、悲しみを共有する人とグループで会うことでお互いに支え合うことが出来る。日本の伝統では四十九日までは手厚い法要を行うが、一番不安定な時期を親族で支えあう事ができ、意味がある事と思う。
死別は辛い経験であるが、そこから立ち直ることでは学び成長するといわれる。人生について考えるきっかけになるし、家族や友人への感謝も生まれるだろう。
という言葉があるが、故人の過ごしたかった日々を考えると、今の何気ない日常が貴重で光り輝いたものに感じられる事だろう。また、故人の思いを引き継いで、次の世代が新しいものを生み出して行ければ、それは一番の供養になると思う。
最後に亡くなってしまった大好きな先輩S先生に感謝と哀悼の意を捧げて終わりとしたい。