2024 J3第22節レビュー 福島ユナイテッドFC🆚テゲバジャーロ宮崎
第1部 再生の満月
イチョウ並木と、ぼくらの七月
7月20日(土)、イチョウ並木に導かれるように、サポーターたちはスタジアムへと足を運んだ。暑い。空気はまだ湿っていて、ギンナンの匂いが鼻をくすぐる。これから始まる熱戦への期待を静かに掻き立てていた。
スタジアムに着くと、何かが違った。そう、堂鼻がいない。彼は先週、突然姿を消した。まるで、長年連れ添った恋人が、何の前触れもなく旅立ってしまったかのように。その喪失感が、僕の心に空虚な穴を穿っていた。
チームは3試合連続の逆転負けという苦しい状況に陥っていた。チーム内に動揺が走る中、寺田周平監督は変化を求める声を押し切り、前節と同じスターティングメンバーを選択した。それは、自身の采配に揺るぎない自信を持っている証だったのかもしれない。
わらじ色の記憶が歩き出す夜
選手たちが登場する、そこには見慣れない光景が広がっていた。ユナイテッドの選手たちが身にまとうのは、わらじ色のユニフォーム。わらじ。旅人の足を守り、長い道のりを支えるもの。その色が、今宵のユニフォームになっている。
試合は、キャプテンを務めた宮崎智彦の鮮やかなミドルシュートで幕を開けた。続く針谷岳晃のゴールで前半を2-0でリード。綿密に練られたビルドアップから生まれたこれらのゴールは、チームの戦術が結実した瞬間だった。しかし、2点差は最も危険なスコアだ。2試合前の今治戦での苦い経験が、選手たちの記憶に鮮明に残っていた。
逆転という名の井戸の底で
後半、予想通りテゲバジャーロ宮崎は猛反撃に出た。黒い影が押し寄せてくる。幾度となくゴールポストやクロスバーに救われる福島。しかし、運も実力のうち。選手たちの必死の守備が、勝利への執念を物語っていた。
試合終盤、運命の分かれ目が訪れた。GK吉丸絢梓の正確なロングフィードが、途中出場の清水一雅を捉える。抜け出した清水がペナルティエリア内で倒され、PKを獲得。この瞬間、吉丸に駆け寄るDF陣の姿が印象的だった。ハイプレスの相手の背後を突く戦術が、ついに実を結んだ瞬間だった。
PK成功の大役を任されたのは、ベテランの樋口寛規。キックを待つ間、吉丸は背を向け、静かに結果を待った。大歓声が響き渡り、ゴールが決まったことを知った吉丸の表情には安堵の色が浮かんだ。そして、寺田監督の勝利を確信するガッツポーズが、チーム全体に喜びを伝播させた。
月は満ちて
試合後、再びイチョウ並木を歩く。家路に着こうとしたその時、ふと空を見上げると、大きな月が僕を見下ろしていた。「明日は満月だ」、7月の満月。バックムーン。鹿の角が生え変わる時期を指す言葉だと、誰かが言っていたのを思い出す。
再生の月。
サッカーボールと満月。全てが円を描き、全てが人を惹きつける。そして今宵、全てが再生をもたらした。この街に。このチームに。そして、僕自身に。僕は空を見上げ、深呼吸をした。夜気とギンナンの香りが、僕の肺を満たしていく。
バックムーンの柔らかな光が、僕の靴を照らす。ギンナンの匂いが、かすかに鼻をくすぐる。明日、目覚めたとき、全てが夢だったのではないかと思うかもしれない。でも、靴についたギンナンの匂いが現実だったことを僕に教えてくれるだろう。
僕は深呼吸をして、再び歩き出す。靴底に残るギンナンの香りと、頭上で輝くバックムーンが、僕の歩みを静かに見守っていた。この夜は終わる。でも、再生の物語は、まだ始まったばかりなのだ。
第2部 戦術分析
本稿では、福島ユナイテッドFCとテゲバジャーロ宮崎の試合について、戦術的観点から詳細な分析を行う。戦術スタッツは以下の通り。
初期配置とビルドアップの攻防
試合開始時の両チームの配置は、福島が4-3-3、テゲバが4-4-2を採用した。特筆すべきは、福島のビルドアップに対するテゲバのプレスの方法である。
テゲバは2トップでピボーテを制限しながらプレスを展開した。この戦術により、2トップで2センターバックとピボーテを消す状況を作り出そうとした。
これに対し福島が攻略する。インサイドハーフ(IH)を下げる動きを見せた。テゲバのCMFがこれに対応すると、バイタルエリアにスペースが生まれる。福島はこのスペースを以下の方法で活用した:
中央化したウイング(WG)の侵入
トップ下がる動き
IHがリターンパスを受けてターン、前方への展開
これらの動きにより、福島はテゲバのプレスを効果的に攻略した。
1点目サイドの攻防
テゲバの4-4-2フォーメーションでは、サイドにサイドバックとサイドハーフが配置される。これに対し福島は、ウイングとサイドバックにインサイドハーフを絡ませ、サイドで数的優位を作り出す戦術を展開した。
1点目のシーンでは、右サイドで塩浜選手(WG)、松長根選手(SB)、針谷選手(IH)が連携し、数的優位を作り出してボールを保持した。深い位置まで侵入したことで、テゲバは2ラインを下げざるを得なくなり、そこを宮崎選手がミドルシュートで決めた。
2点目 4-4-2の弱点バイタルを広げるビルド
2点目も福島の戦術が効果を発揮したシーンである。ボールを保持しながら前進し、相手がブロックを形成したら一旦センターバックまで下げるという動きが見られた。
この動きは相手チームのプレスを誘発する効果がある。失点直後のテゲバは積極的にプレスに出てきた。右サイドハーフ、右サイドバックが前進する中、福島は大関選手をボールレシーバーとして降ろした。テゲバのCMF㉞がこれに対応したが、その背後のスペースを宮崎選手が活用。
さらに、サイドバックが上がった裏のスペースに流れた澤上選手に展開、大関選手、鈴選手、森選手がサポートに入り、最終的に針谷選手が決定機を決めた。このゴールは、チーム全体の連携が生んだ結果と言える。(詳しくはハイライトだと写っていないのでフル動画で見てください。パスが21
本つながっています)
テゲバの攻撃分析
テゲバの攻撃においては、右サイドバックを高い位置に置き、センターバック2枚と左サイドバックで3枚気味のビルドアップを試みた。
しかし、福島が3トップでプレスをかけたことで数的同数となり、テゲバの前進が困難になった。この前半の攻防が、福島の優位性につながった主要因の一つと考えられる。
後半の展開
後半、テゲバは長身188cmのFW橋本選手を投入する采配を行った。この戦術変更により、橋本選手へのボール供給で息を吹き返す。
また、福島が殴り合いの展開にしてしまったことでお互い攻撃回数を増やすことになってしまった。それによりテゲバ2トップvs福島2CBの数的同数を作り出す場面が増えてしまった
この戦術は福島に危機的状況をもたらし、ポストやバーに当たるなど、失点の可能性が高まった場面が見られた。
今後のリードしているときの課題として、ボール保持時間を増やす戦術の採用も検討の余地がある。
終盤の戦術
終盤、福島は野末選手を投入して5バックに移行した。より早い時間帯での5バック採用も一つの選択肢として考えられたが、寺田監督のインタビューによると、受動的になることを避けたとのことである。
3点目の分析
アディショナルタイムの3点目は、疑似カウンター攻撃の好例となった。テゲバがキーパー吉丸選手にまでプレスをかける中、テゲバDFラインの裏へボールを蹴り込み、清水選手のスピードを活用。結果的にPKを獲得し、樋口選手が落ち着いて決めた。
まとめ
本試合は戦術的観点から非常に興味深い内容であった。福島の多様な攻撃パターン、テゲバの後半の戦術変更、そして両チームの緻密な駆け引きが見られた。
さらに、夏休み期間中の試合ということもあり、多くの子どもたちが観戦に訪れた。3得点が生まれたことも相まって、サッカーの魅力を十分に体感できる試合となった。
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