2024 第36節 福島ユナイテッド×アスルクラロ沼津
2024年11月17日、福島。 とうほう・みんなのスタジアムへと続くイチョウ並木は、既に半分ほどの葉を落としていた。 黄金色のじゅうたんの上を、サポーターたちが今季最大の一戦へと足を進める。
この時期としては温かい風が、残された葉を揺らす。 まるで木々も、この試合の行方を見守っているかのように。
大宮と今治。 すでにJ2への自動昇格を決めた両者を除き、残された切符はわずか1枚。 プレーオフに進出できるのは3位から6位までの4チーム。 この、残された最後の昇格への望みをかけた戦いが、今、始まろうとしていた。
すべてが詰まった一戦
6位・福島ユナイテッドFC。 7位・アスルクラロ沼津。 勝者のみが夢の続きを見ることを許される。生き残りを懸けた大一番。 その重圧の中、寺田周平監督は、あえて「楽しもう」という言葉を選んだ。
「楽しんでサッカーをすることが我々のアドバンテージになる。僕自身もこういったシチュエーションを目いっぱい楽しみたいです」
信念の継承
川崎フロンターレ。 寺田が選手として、そして指導者として研鑽を積んだ場所。 2020年からは鬼木達監督の右腕として、数々のタイトル獲得に貢献した。
そして今季—。 恩師・関塚隆TDの招聘を受け、福島の地に降り立った。 初のJ2昇格を目指すクラブの、新たな希望として。
「選手がトライしてくれるなかで課題が見つかり、いろんなトライを繰り返すうちに、多くの形を積み上げることができました」
戦術の応酬
この日の沼津は、持井がインサイドハーフから前線へと押し上げ、4-4-2の布陣を形成する。 中山雅史監督の戦術的意図が見え隠れする展開。
しかし—。 その布陣こそ、今季の福島が得意としてきた相手だった。
4バックの相手には、10勝2分4負
この日も例外ではなかった。
チャンスの数は限られた。 しかし、それは相手にとっても同じ。 緻密に組み立てられた守備陣形が、沼津の攻撃を寸断していく。 チェスのような駆け引きの中、福島は確実に主導権を掴んでいった。
「選手たちが成長してくれたというのをすごく感じています」
寺田監督の表情に、わずかな笑みが浮かぶ。
運命の90分
25分、最初の試練。 FKからの失点。 しかし、このチームは決して諦めなかった。
36分、左サイドを切り裂くドリブル。 森晃太が仕掛け、グラウンダーのクロス。 大関友翔が走り込み、渾身の同点弾。
そして78分—。 運命を変えるゴールが生まれた。 コーナーキックからのこぼれ球を、松長根悠仁が豪快に叩き込んだ。
「今までであれば敗戦、頑張っても引き分けに終わっていたようなゲームを最後、勝ちきって、最後の苦しい時間を耐えた」と寺田は振り返った。
夢は手の届く場所に
この勝利で、7位・北九州との勝点差は「3」。 そして何より、得失点差では「11」上回る。 プレーオフ出場まで、あと一歩。夢の舞台が、確かな形となって見えてきた。
「だって点が入ったほうが面白いじゃないですか。やっぱりそっちのほうが観ている人たちは面白いはずですし、絶対盛り上がる」
寺田は、チームの未来を確信を持って語る。 多くの師から学んだものを、今、この福島の地で開花させようとしている。
技術を大切にし、ボールを大事にする。 その信念は、決して揺らぐことはない。 プレーオフという未知の領域に向けて、 福島の新たな挑戦が、動き始めていた。