2024 J3第20節レビュー 福島ユナイテッドFC🆚FC今治
魂を焦がす熱気
あの日、空にはトンボが舞っていた。七夕だというのに、気温は35℃を超えていた。記憶というものは不思議なもので、試合の詳細は曖昧になっていくのに、あのトンボだけは鮮明に覚えている。まるで、これから起こる出来事の前触れのように。
福島ユナイテッドFCとFC今治の試合が始まった。芝生の匂いが、熱気とともに立ち昇る。選手たちの額には、まだ試合が始まったばかりというのに、大粒の汗が浮かんでいた。
福島は通常の4-3-3フォーメーションで臨んだのに対し、今治は3-4-2-1を採用。
過去の亡霊、そしてブーイングの意味
サポーターの記憶の中には、前回の対戦での出来事が染みついていた。それは消えることのない染みのようなものだ。今治の④市原選手がボールを持つたび、スタジアムにブーイングが響く。その音は、過去の亡霊を呼び覚ますかのようだった。
福島圧倒の前半戦、巧みな戦術で2点リード
前半は福島が圧倒的に優勢で、今治はシュート数ゼロに抑え込まれた。今治はミドルゾーンで守備を固め、トップの⑪阪野選手が福島のピボーテ㊶上畑選手をマーク。福島のCB間の横パスを合図にシャドーが前進し前線からプレスをかける戦術を取った。
一方、福島はビルドアップの際、CBから中盤へパスを出し、一度バックパス。このバックパスに今治が食いつくのを利用し、バイタルエリアのスペースを作り出す狙いだった。そこにトップ⑨澤上選手が落ち、ウイングが飛び出すいつもの攻撃パターンを展開した。
戦術の結実
福島の2点目は、この戦術が見事に決まったゴール。キーパーからバイタルに落ちたトップ⑨澤上選手の落としを、LWG⑩森選手が拾って3人を置き去りにし、上畑選手、塩浜選手とつないでゴールを決めた。
後半、試合が一変
後半、今治は戦術を大きく変更。CMFの㉕楠美選手に代えてFWの㉑日野選手を投入し、3-1-4-2に変更。寺田監督が「後半も相手がちょっと形を変えてきたからと言って、特にやりにくさも無かったように見えましたし、内容も失点のところ以外決して悪くなかったと思っています」というように戦術的にやられたわけではなかった。
しかし何かが変わった。それはシステム変更だけではない、目に見えない何かだったが、確かに空気が変わったのを感じた。この交代が功を奏し、後半開始直後のカオスの中で2点を奪い、同点に追いついた。
システム変更により、今治の2トップが福島のピボーテ㊶上畑選手を背中で消しながらCBにプレス。中盤も3枚になったことで、バイタルのスペースが減少し、福島の攻撃を沈静化させることに成功した。さらに、福島の攻撃の要であった森選手が下がると、福島の攻撃は完全に停滞。最終的に今治が逆転ゴールを決め、勝利を手にした。
福島としては、相手の3-1-4-2(実質5-3-2)に対して、3-4-2-1と同じ攻め方をしてしまったのが敗因の一つと言える。5-3-2フォーメーションの弱点である3バックの脇を狙い、じれずにサイドチェンジを繰り返して中盤3枚を揺さぶる戦術、そしてサイドからのアーリークロスが有効だったかもしれない。
消えゆく夢、そして新たな希望
試合終了のホイッスルが鳴り、スタジアムに静寂が訪れた。福島の選手たちの表情には、消えかかった夢の残像が浮かんでいた。2試合連続の逆転負け。
敗戦から2日後、チームの魂とも言えるキャプテンの移籍。
しかし、物語はここで終わらない。むしろ、新たな章が始まろうとしているのかもしれない。サポーターたちの心の中で、希望の灯火が静かに、しかし確かに燃え続けている。
夕暮れ時、スタジアムを後にする時、再び空を見上げた。トンボの姿はもうなかった。ただ、どこかで鈴虫の音が聞こえた気がした。それは、これから始まる新しい季節への序曲のようだった。