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2024第28節 福島ユナイテッドFC×ガイナーレ鳥取

※戦術分析は2部です。


第1部 Rainy Night in ふくしま

雨が降っていた。そう、雨が降っていた。
福島の9月、夏の終わりを告げるような湿った空気が漂う15日の夜。とうほう・みんなのスタジアムは、芝生から立ち上る香りが、これから始まる90分間の予兆のように鼻をくすぐる。福島ユナイテッドvsガイナーレ鳥取。J3の終盤戦、両チームの命運を左右しかねない一戦の幕が上がろうとしていた。

キックオフ前、スタンドを見渡す。雨を押して集まった1600人超の観衆。その数字が物語るのは、単なる入場者数ではない。地域に根付いたクラブの存在意義そのものだ。彼らの期待と不安が、雨のように降り注いでいる。


試合開始。寺田監督の布陣に、意表を突く人選があった。右ウイングに長野星輝の名前。シーズン序盤からベンチ入すら危うかった彼の起用。そこには監督の読みがある。相手の想定外を狙うのか、それとも選手自身の覚醒を促すのか。その意図は、雨の中に霞んでいた。

ピッチ上の駆け引きは、チェスのように緻密で、ボクシングのようにスリリングだった。鳥取の電光石火の先制点。だが福島も黙っていない。森璃太のゴール。新潟からやってきたばかりの背番号15。スタジアムが揺れる。しかし、サッカーという競技は、時として残酷なドラマを演出する。前半に立て続けの失点。1-3。ロッカールームに引き上げる選手たちの背中には、重い現実がのしかかっていた。

後半。福島の猛攻が始まる。しかし、鳥取の守備陣は、まるで目に見えない糸で繋がれているかのように整然と動く。その姿は、単なる「壁」ではない。むしろ生き物のように呼吸し、相手の動きを先読みする。福島の攻撃は、その動く迷路の中で、出口を見失っていく。

ビルドアップの脆弱性は明らかだった。しかし、それはスリリングさの裏返しでもあった。まるでデゼルビのブライトンを見ているかのような錯覚すら覚える。攻撃の度に観客が息を呑み、そして相手のカウンターに肝を冷やす。負けているのに、なぜかピッチから目が離せない。それは、サッカーのプリミティブな魅力そのものだった。

試合終盤。福島にPK獲得のチャンス。この試合でも違いを見せていた大関友翔が自ら倒され、そして自ら決めた。しかし、時すでに遅し。2-3。敗戦が確定した瞬間、スタジアムに漂う空気が、一瞬にして変質する。観客の表情に浮かぶのは、単純な落胆ではない。そこには確かに悔しさがあった。だが、同時に何か別のものも垣間見える。まるで長い旅を終えた旅人のような、静かな充足感。90分間の激闘が生み出した、言葉にならない感動。敗れはしたが、心の奥底では何かを得たという感覚。その複雑な思いが、雨のように静かに降り注ぐ。スタジアムは沈黙していたが、その沈黙は雄弁に語っていた。今日の試合が、単なる勝敗を超えた何かを観客に与えたことを。

順位は9位に後退。だが、長野星輝のフル出場という収穫もあった。90分間走り続けた彼の姿は、チームに新たな可能性を示唆している。その姿は、雨の中でも輝いていた。

次の3試合は、大関不在の戦いとなる。ここからが、真の意味でのチーム力が問われる時だ。寺田監督の言葉が、その決意を物語る。「応援してくれている人がいる限り、最後まで昇格を目指して戦っていかなければいけない。」その言葉の裏には、チームと地域の絆が垣間見える。

気がつけば、雨はやんでいた。地面に染み込んだ水は、やがて新たな芽を育む糧となるだろう。次の試合、スタジアムに集う人々は、今日とは違う表情を見せるに違いない。

第2部 戦術分析

1.初期配置と変更点

  • 福島:4-3-3

  • 鳥取:3-4-2-1

福島の注目すべき変更点:

  • ゴールキーパーが吉丸選手から山本海人選手に変更

  • 右ウィングに今季初先発の長野星輝選手を起用

この変更は、福島が掲げるキーパーからのビルドアップ戦術にどう影響するか注目されました。

初期配置 赤:福島 緑:鳥取
戦術スタッツ

2. 鳥取の巧妙なプレス戦術

鳥取は非常に効果的なプレス戦術を展開しました:

  • トップの⑦松木選手が福島のピボーテ㊶上畑選手をマーク

  • 2シャドーの⑨富樫選手、⑲三木選手が前進して福島のセンターバックをマーク

  • ダブルボランチが福島のインサイドハーフ⑭大関選手と⑰針谷選手にマーク

  • 鳥取のウイングバックが福島のサイドバックをマーク

この戦術は事実上、オールコートマンツーマンの形となり、福島のビルドアップを著しく困難にしました。

鳥取のプレス。オールコートマンツーマン。

3. 福島の対応策

鳥取のプレスに対し、福島は以下の戦術で対応しようとしました:

  • キーパーを積極的に使用(唯一のフリーな選手)

  • ゴールエリアで相手を引き付け、トップの矢島選手へのフィードを試みる

この攻め筋は戦術的には理にかなっていましたが、実行の難しさゆえに課題も残りました。ゴールエリアという狭いスペースでの正確なパス交換は高度な技術を要し、プレッシャーの中では特に困難です。結果として、意図した質の高いボール供給が実現せず、鋭い攻撃に繋がらなかっただけでなく、逆にカウンター攻撃を許してしまう場面がありました。
しかし、この経験は今後のチームの成長に必ず活かされるはずです。選手たちの努力と向上心は疑う余地がなく、こういった挑戦的な戦術に取り組む姿勢こそが、長期的な強さにつながると信じています。

4. 失点シーンの分析

  1. 1失点目:CBへのプレスから野末選手のパスミスを誘発

  2. 2失点目:キーパーから⑱矢島選手へのフィードを鳥取が激しいプレスで奪い、ショートカウンターを決める

  3. 3失点目:ビルドアップの繋ぎのミスを奪われ、ショートカウンターから失点

鳥取は福島のミスを効果的に活用し、確実に得点に結びつけました。

5. 戦術的考察

  • 鳥取のマンマークにより、鳥取DFと福島FWは3対3の数的同数になりました。しかし、スペースが生まれたため、攻撃側(福島)に有利な状況が生まれました。

  • この状況を活かし、キーパーからDFの背後を狙う攻撃オプションがあっても良かったのではないかと考えられます。

6. 次節の展望

次節は6位FC大阪との重要な「シックスポインター」。FC大阪はソリッドな4-4-2を採用。中央を固める4-4-2だとサイドが鍵になります。福島にとって新たな戦術的課題となるでしょう。

福島ユナイテッドFCの今後には、いくつかの明るい兆しが見えています。

  • 長野星輝選手の復調

今季初先発を飾った長野星輝選手の活躍は、チームに新たな活力をもたらしました。右ウィングでの躍動的なプレーは、相手守備陣を揺さぶる大きな武器となりそうです。ストライドで走る推進力と技術を兼ね備えた長野選手の成長が、チームの攻撃オプションをさらに豊かにすることでしょう。彼の存在が、今後の試合でどのように相手の戦術に影響を与えるか、非常に楽しみです。

  • 塩浜選手の復帰

怪我から回復中の塩浜選手の復帰も、チームにとって大きな強化となるはずです。彼の決定力と最近上達しつつあるライン間で受けるスキルがプレーオフ圏進出の鍵となります。

  • 城定選手の飛躍のチャンス

大関友翔選手がU-19日本代表の活動で3試合の不在となる中、城定選手の出場機会が増えることが予想されます。これは城定選手にとって、自身の実力を証明する絶好の機会となるでしょう。彼の持つ創造性豊かなプレーと、チームに新たな戦術的オプションをもたらす可能性があります。この期間での活躍が、和製ベルナルド・シウバこと城定選手のキャリアの転換点となることを期待しています。

  • チーム全体の成長

これらの個々の選手の成長と変化は、チーム全体のダイナミズムにも良い影響を与えるはずです。新たな戦力の台頭と、中心選手の復帰によって、チームの戦術的多様性が増し、相手チームにとってより予測困難な存在となることでしょう。

また、このような変化は、他の選手たちにも良い刺激となり、チーム内の競争を活性化させることが期待されます。それぞれの選手が自身の役割を再認識し、さらなる努力を重ねることで、チーム全体の底上げにつながるはずです。

福島ユナイテッドの今後の戦いに、より一層の期待が高まります。これらの選手たちの活躍と、チーム全体の成長が、リーグ戦でのさらなる躍進につながることを心から願っています。

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