マカロニ大論争
世の中には3種類の人がいる。
ギバー(GIVER)、与える人。
テイカー(TAKER)、受けとる人。
マッチャー(MATCHER)、ギブとテイクのバランスをとる人。
うちにも3種類の人がいる。
ノーマルが絶対な人。
ちょっとならアレンジしても良い人。
アレンジ大好きな人(私)。
何の話かと言うと、マカロニサラダの話。笑
うちはキッチンに立つ人の分だけ、その人の個性が出るご飯が並ぶ。その最たる個性が、マカロニサラダ。
例えば、妹が作ると絶対に塩揉みキュウリと細切りハム以外は認められない。
母が作ると、そこに甘酢に漬けた玉ねぎが入る。
私は、玉ねぎをリンゴに変えて甘塩っぱいマカロニサラダを作る。
何なら、具だっていい加減だ。冷蔵庫に眠るカニカマ、冷凍庫でピンチヒッターとして出番待ちの枝豆、とっておきの缶詰コーン。なんだってマカロニサラダにしてしまう私の所業は、上の2人からすれば考えられない事だろう。(いや、母は多少ならアレンジはOK派で、私のリンゴ入りも食べてくれる。)
番外編で言うと祖母はキュウリとハム、リンゴだけでなくセロリまで入れて、王道を歩む妹とセロリが嫌いな母からは敬遠されている。
夏休みの自由研究になりそうなくらい多岐にわたるマカロニサラダは、我が家では度々議論の的になる。まぁ、私のリンゴがお気に召さないと言うのが大半なのだけど。
今まで住み慣れた場所を「実家」と言うようになってから、よくマカロニサラダを作っている。開放感からなのか思いっきりリンゴを入れて、まるでリンゴのマヨネーズ和えみたいなのや、いつもは筒状のマカロニだったのを、リボンの形のマカロニ(パスタかな?)にして精一杯の可愛さを出してみたりして。
スーパーでもサラダコーナーを見るようになって、そこでふと他の人はどんなものを入れているのか気になった。
結果は、
他部署の上司→「キュウリ、炒めたベーコン、玉ねぎ」
うちの部署の神上司→「キュウリ、ハム、レタス」
隣の席の先輩→「マヨネーズが食べられないので、マカロニサラダは食卓に出てこないです。」
この言葉で他部署の上司がマヨラーでタルタリストということが判明したり、うちの神上司が「本当は、具がいっぱい入ったのが好きなんだけどねぇ」と寂しそうに家庭のイニシアチブが誰にあるのか、誰を想ってそのマカロニサラダを食べているのかが思わず溢れたりと、ここでもちょっとした論争が起こった。
せっかく教えてくれたのだから、これは作らなければなるまい。他部署の上司が「これは脂にまみれる為のマカロニサラダだから。」と言っていたベーコン入りのマカロニサラダを、少々手狭なキッチンで作る。
ベーコンは短冊にして、じっくりと焼き上げる。この時、同じくらいの大きさにした玉ねぎも一緒に炒めていく。私のレシピには【炒める】と言うコマンドがなかったので、この作業は新鮮。
炒めている間にキュウリを小口切りにして、塩揉みしておく。キュウリから水分が出る間にマカロニを茹でてしまおう。1人なのだから、量も1人で食べ切れる分だけ茹でる。しかし、どうしてこうもマカロニとパスタは私を惑わすのか。お湯を含んで乾いた時の何倍も膨らむとわかっているのに、どうしてもまだ足りないんじゃないかと、つい余計な一振りをしてしまう。
ほら、大量のマカロニが茹で上がった。
これはもう笑うしか無い。湯切りしたマカロニをボウルに入れると、少し小さいボウルはすぐに一杯になった。これからベーコンと玉ねぎ、キュウリが入るのに。
案の定、マヨネーズまでたどり着いた時にはかき混ぜる度に色々な具がボウルから飛び出して行って、その都度、勿体ないと拾って味見した。お陰で味の濃度は私にはちょうど良く、上司のいう「脂にまみれるマカロニサラダ」が完成した。
もう、今日はマカロニサラダだけ食べよう。大皿に山盛り入れて食卓へ持って行って、テレビをみながらマカロニサラダを食べる。ベーコンの脂と、一緒に炒めた玉ねぎからでる甘さがマカロニの筒の中に詰まってる。噛むとそれがマヨネーズと一緒にジワっと染み出て、旨味と脂に溺れていく…。
人様のお家の、マカロニサラダ。
なんだか、その人の食卓にお邪魔しているような気がする。
でも今、私はワンルームに1人で。
独りで。
作る人は食事のバランスを考えて、食べてくれる人の事を想って、その人の身体を気遣う。食べる人はその想いも、気遣いと一緒に飲み込む。
あの時の、神上司の言えない本音が全てだ。
マカロニサラダをかき込みながら、実家の食卓を想う。
今日のご飯はなんだろう。
誰が作ったんだろう。
父は、まだ晩ごはんの後は必ずお菓子を食べるんだろうか。
母は、もう諦めたと言う顔で洗い物をするんだろうか。
妹は自由人だから手伝いはしなさそうだな、と考えたところで大皿のマカロニサラダが尽きた。人様の食卓から退散して、手狭なキッチンで大皿を洗う。そんなに遠くはない実家だから、帰ってこいとも積極的に帰りたいとも言わないけれど、LINEだけじゃなくてたまには帰ってみようかな。
そして私のレシピでなくて、家族のレシピで食べてみたいな。
自分の中にそんな子供みたいな部分があったなんてと驚くが、その前に、大きなタッパーにギチギチに詰まったマカロニサラダを見ながら、遠のく実家への帰省と、フードファイターの様にタッパーの中身を消費していく日々に慄いていた。