理由がないのも理由のうち
「好き?」と聞かれれば首がちぎれそうなほど縦に振れるのに、「どこが?」と聞かれればその首をゆっくりと横に傾けてしまう。
自分にとってそんな「訳が分からないが、どうしようもなく惹かれる人」がいる。
平成ノブシコブシ 吉村 崇さんだ。
昔からのファンじゃない。むしろピカピカの新参者なので、吉村さんをよく知るファンの方には怒られるかもしれない。だって、ネタすら見た事がない。YouTubeを探せばいくらでも出てくるけど、好きな物はじっくり寝かせてから派の私は見尽くしてしまうのが勿体なくて、取り敢えず「お気に入りリスト」に入れている。
最初は「ピカルの定理」だった。人気コントがたくさんあった中でも私が一番好きだったのがテブラーシカ。(いきおくれ女子会も甲乙付け難いくらい大好きです。)今では考えられない程に豪華なメンバーで、毎週、毎回、面白くて。仕事でグッタリしていても「ピカルの定理」を見てゲラゲラ笑っていると、笑えるならまだ大丈夫だなぁと思えた。めちゃめちゃ楽しみだった。
ただ、それだけ。
ピカルが終わっても、上半身ハダカで脇をならしていているのを見ても、ドッキリのハニートラップで仕掛けられた合コンでかなりの下ネタで場を盛り上げているのを見ても、それでウチのリビングが静まり返って「……わぁ…。」しか言えなくても、特に感想もなく「ピカルで体張って面白かった芸人さん」だった。
ところが、だ。
何がきっかけか、惹かれた。それはもう、吉村さんが運営している「吉村派遣会社」で吉村さんご本人と、15分間zoomで「夕景を見ながらお話しデート」というリターンを購入してしまう程に。コメント欄に「好きです。お会いできるのを楽しみにしています。」と、今考えれば通報モノのコメントを書いた程に。そんなヤバい奴と15分も一緒とか、画面越しでもご本人は怖かったんじゃないだろうか。
夕景デートは正直、緊張しすぎて何を話していたか覚えてない。でも、テレビともYouTubeとも違う、素の優しい「吉村 崇」さんを見れてこれで私はいつ死んでも良いな、と思えた15分だった。
この夕景デートの前、いそいそと準備をしている私に家族が「何で、今さら吉村なの?」と言った。
不思議なのも無理はない。それまで、しくじり先生や他のバラエティを見ていても何も言わなかったのに、突然の夕景デート。家族からすれば、今どきの芸人さんなら分かるが何故今になって平成ノブシコブシなのか?と言う事なんだろう。
私は何て答えて良いのか分からなかったので、「なんか、ごめん。」とだけ言った。
そう、理由がない。
コレがあったから好きになったという理由が、私には無い。それなのに夕景デートしてしまうのは、やはりヤバい奴なんだろう。
好きになった理由も無く、好きでいるための理由も無く、でも、なぜか惹かれてしまう。こんな人は初めて。ただの「面白い芸人さん」だったのに。
私にとって吉村さんは、
「違う角度から、もう一度好きになった人」だ。