精神薬の話
夏だ。夏と言えば恋。恋と言えば狂い。ということで、今年も狂気の季節がやってきましたね。僕のXのフォロワーも気づけばいつの間にか1,000人を越えており、恐らく皆さんこのアカウントになんらかの有益な情報を期待されていることと思います。僕も定期的にフォローバックを返しているのですが、出るわ出るわ、発達障害、躁鬱病、統合失調症、ありとあらゆるメンタルヘルスに問題を抱えている人間のオンパレード。やはり類は友を呼ぶということなのでしょう。僕はXの知り合い以外、つまりオフラインでの同期の友人はほとんど健常者ですが、僕のTLは何度見ても岩をひっくり返したときのダンゴムシの群れみたいな光景で最高ですね。もちろんメンヘラ女性からのアプローチも常に募集しております。
さて、新しいフォロワーの方々もいらっしゃるということで、ほとんど持ちネタと化している僕の病気ネタですが、そういえば薬についてまとまったことを言っていなかったなと思いました。障害年金や病歴の記事もありがたいことにそこそこ読まれておりますが、やはり疾患ビギナーや2,3年目のルーキーの皆さんも早いところ自分のベスト処方に辿り着きたいところ。もちろんレシピは人それぞれですから、僕のレシピを公開したところで特に皆さんにメリットがあるわけではありませんが、これまでの遍歴を服用した実感と共に書いて残しておくのはそれなりに意味があるかなと思った次第です。これはVtuberデビューした暁に企画配信でやろうと思っていたネタで(本当に準備してるんですよ)、先出しするのも自らネタを枯渇させるようではあるのですが、文字媒体の方が残るしね。短い記事ではありますが、皆さんが少しでも健やかに過ごせるようにお役に立てていただければ幸いです。
・はじめに――そもそもなぜ薬を飲むのか?
なぜ薬を飲むのかって、治りたいからに決まってるでしょう、アホか、と言いたくなる気持ちも分かりますが、これは結構大事なことです。というのは、精神薬(SSRI、発達障害の薬も含む――厳密には違うのですが、この記事ではまとめて「精神薬」と呼ばせてください)は風邪薬などと違い、いわゆる健常者が飲むと逆に異常な作用が出てしまうものである、ということはベテランのお歴々はもちろん、ビギナーやルーキーの方々も頭では分かっていることかと思います。
しかし、「治りたい」「寛解状態を維持したい」と頭では分かっていても、享楽的な方向に流れて行ってしまうのも疾患者の宿命。オーバードーズ、酒とのチャンポン、気持ちは痛いほど分かります。そしてサイレースをいちごミルクに溶かして青くするトー横キッズがヤブ医者から薬をもらっているように、世の中には「おくすり自販機」状態でろくにカウンセリングもせず適当にベンゾジアゼピン系の薬を処方して金を稼ぐ悪い医者もいます。だから、「なぜ」薬を飲み、「どうやって」回復し、「どんな」効き目があるのかを把握する責任が患者にもあるという点が、他の色んな器質的疾患とも精神疾患が異なる理由なのです。僕は薬理学の専門家ではないので恐らく以下の記述には正確さは欠けるかもしれませんが、「正常な生活を送りたい」という気持ちを捨てて病人であったことはただの一回もないと断言できます。健康さというものはそうであろうという意志によってしか可能になりません。
なぜOD(酒とのチャンポン含む)がいけないのでしょうか。明確に二点の理由があります。ひとつは肝臓を壊します。薬を分解するのは肝臓ですが、過剰な薬や酒による負担は確実に体を痛めます。単に酒を飲むことや、あるいはタバコによる肺への負担も同じではないかという話もありますが、個人差や程度はありますがODの方が短期的なスパンで見て死のリスクが跳ね上がります。これを読んでいる人にもう死んでしまいたいと思う人がいて、いつ死んでもいいから、ということでODを恒常的にやっている、という場合もあるでしょう。完全にビッグなお世話ですが、ODで死ぬことほどもったいなく、バカバカしい死に方もありません。生きるも死ぬも美学を持つべきですが、個人的な考えではODによる健康への負担と死のリスクは美学と天秤にかからないほど軽薄であると思っています(まあ、哲学的な話をするつもりもありませんが)。二つ目に、ODはゲートウェイドラッグとしての機能を持ちます。もっと激しく、もっと強い、あるいはもっと恍惚とした刺激や体験を、と求めてしまうことに、よっぽど強い意志を持つ人でない限り流されます。最初はブロンだったのが、ロラゼパムになり、デパスになって、それでも飽き足らずイリーガルドラッグに……という筋書きの人を留置所や精神病院で何人も見てきました。イリーガルドラッグが法律に抵触するからどうこうというのではなく、人生そのものがそれに支配されてしまうという意味で、ドラッグには手を出すべきではないのです。以前、友人たちと違法化される前のTHCHリキッドを回して吸ったことがあります。もちろん、半信半疑な面もありました。効いてくると、人生の困難ごとがすべて吹き飛び、脳内にはお花畑が咲き、笑いが止まらなくなりました。マンチーで食べたピザもブラウニーも、人生で食べたものの中で一番おいしかったと記憶しています。そしてふと過ぎったのは、「合法のものでこれだけすごいんだから、本物はどれだけすごいんだろう……」という考えでした。もちろんマリファナには手を出していませんが、ドラッグというのは簡単に人の考えを変えてしまいます。そしてODは、その端緒になりえます。
「なぜ薬を飲むのか?」――治りたい。治って、普通の人と同じ生活をしたい。治らないまでも、健康である時間を少しでも長くしたい。学校に通いたい。仕事に行きたい。友達やパートナーと思う存分人生の春を謳歌したい。そう、だから薬を飲むのです。いっときの享楽で人生を壊していい理由なんてどこにもありません。もちろん何かに依存することは重要です。僕は主治医にタバコをやめるなと言われています。適量のお酒でもいいし、タバコでもいいし、ゲームでもインターネットでも、ODにハマって惨めに死ぬよりはよっぽどいいでしょう。あなたの人生はあなただけのものです。どうせアナーキーであるなら、美学と規律を持ったアナーキーになりたいものですね。
・おくすりレビュー
申し遅れましたが、僕は診断名が統合失調感情障害とADHD、手帳・年金2級です(国への申請病名は統合失調症)。閉鎖・開放病棟の入院歴はそれぞれ1回、過去に錯乱状態から傷害事件を起こし留置所に入っています(示談により不起訴)。しかし、自傷もODもしたことないし(自殺未遂の未遂みたいなことは何回かありましたが)、第一今ではほぼピンピンに健常者と変わらない生活を送れています。それもこれも、普段の心がけだけではなく、というか、精神薬がなければありえませんでした。正しいレシピを正しく服用すれば(波はあれど)なんとかなるものです。以下、順不同で自分が飲んできた・飲んでいる薬のレビューをしていきます。星は5段階評価。また、カッコ内は別名ですが、特に薬理学上の厳密な分類を自分がしているわけではないことを断っておきます。
①ランドセン(クロナゼパム)
飲みやすさ:☆☆☆☆☆
効き目:☆☆☆
継続性(持続的に服用して効果があるかどうか):☆☆
最初はパニック障害で精神科にかかりましたが、そこで最初に出されたのがランドセン。ベンゾジアゼピン系(分からない人はググって)の抗不安薬です。粒がちょうどよく、非常に飲みやすい。効き目も人によりますがゆるやかなので(いきなり0.5を一粒まるまる行くと眠気で立っていられなくなりますが、各自で四等分とかにしましょう)、不安神経症系のビギナーに大変オススメです。ただ、頓服でも効くオールラウンダーな分飲み続けることで体調に変化があるタイプの薬ではありません。
②ロラゼパム(サワイ)
飲みやすさ:☆☆☆☆☆
効き目:☆☆☆☆
継続性:☆☆
デパスが法規制された今、カジュアルなODで使われがちですね。これもベンゾ系抗不安薬です。Xでロラゼパムの話をしたらDMで売人に「ワンシート1500円アルヨ~」と声をかけられたことがあります。もっぱら頓服ですが、効き目はかなりすごい。不安が消えるのを通り越して元気が出てくるのは危険ですらある。悪用厳禁です。不安がひどかった時期は常にこれがバッグに入っていました。
③サイレース(フルニトラゼパム)
飲みやすさ:☆
効き目:☆☆☆☆☆
継続性:☆
眠剤の王(ベンゾなのでこれも不安薬なのですが、眠気が強く出るのでほぼ眠剤扱いですね)であり、トー横のゴールデン・スタンダード。はっきり言って飲めたものではありません。健常者なら錠剤1/4で失神します。レイプドラッグにも使われるため、水に溶かすと青く反応します。躁病がひどく3日間起きっぱなしのときとかに強制的に意識を失うために飲んでました。
④デエビゴ(レンボレキサント)
飲みやすさ:☆☆☆☆
効き目:☆☆☆☆
継続性:評価なし
デエビゴは完全に睡眠薬ですね。サイレースよりもクリアに眠れて、入眠もスムーズかつ穏やかなので一時期重宝してました。ただ寝起きがなかなかきついのと、毎日飲んでいると耐性がついてきて効かなくなる(これはどの薬にも言えますが)ため完全に頓服専用であり、継続性は評価なしとしています。
⑤クエチアピン(クエチアピンフマル酸塩)
飲みやすさ:☆☆☆☆☆
効き目:☆☆☆☆☆
継続性:評価なし
僕は躁病エピソードがかなり強く出るので不眠は長らくの課題でしたが、クエチアピンの登場で大部分が解決しました。統合失調症用の向精神薬というのが表向きであり、成分の問題で禁忌の組み合わせがあるため眠剤としてオススメすることはできないのですが、統失系で不眠が強い人は飲んでみるといいかもしれません。バコーン!と寝れてシャキッと起きれる、理想的な薬です。これも完全に頓服なので継続性は評価なし。
⑥レクサプロ(エスシタロプラムシュウ酸塩)
飲みやすさ:評価なし
効き目:評価なし
継続性:評価なし
これ、SSRI(抗鬱剤)なんですが、僕は後述のリチウムとデパケンを服用している関係(確か躁鬱系の薬とSSRIが禁忌)で一瞬で飲むのをやめたのでレビューはなしです。SSRIにも種類はいっぱいあるので、もし双極Ⅱ型や鬱病で苦しいという人は主治医の他にもネットワークを頼ってみてください。SSRIについて知りたくてこの記事を読まれている方がいたら申し訳ない!
⑦オランザピン(明治)
飲みやすさ:☆☆☆
効き目:☆☆☆☆
継続性:☆☆☆☆
20歳で統合失調症の診断が下ったときは世界が終わったかのような絶望でしたが、オランザピンが僕をまともにしてくれたので、個人的に思い入れが深い薬です。基本的には統合失調症用の向精神薬で、気持ちを落ち着けたり観念奔逸を治める作用があります。周りの話を聞いていると割とカジュアルに出される薬のようで、これは向精神薬全般に言えることですが合う合わないが個人差かなり激しいので使うときは主治医とよく相談しましょう。あとこの薬、めちゃくちゃ太ります。15kgぐらい太ってお気に入りのレザージャケットが入らなくなりました。糖質制限で絞ったのが懐かしいです。
⑧液状エビリファイ(アリビプラゾール)
飲みやすさ:☆
効き目:☆☆☆☆
継続性:評価なし
これも向精神薬ですが、錠剤ではなく(錠剤のエビリファイもあります)、駄菓子みたいな袋に入ったシロップ状のものを一時期頓服としてよく飲んでいました。昏迷(意識はあるのに体が動かない状態、あるいは意識を失う)という統合失調症特有の症状があり、僕は20~21歳ぐらいのときは軽い昏迷(亜昏迷)にしょっちゅうなっていたのですが、そのときにこれをズルズル~っと。確かに効きますし、助けられたこともしばしばですが、めちゃくちゃマズいんですよね……。一応オレンジ味なんですが、感じとしては漢方っぽい甘苦さにケミカル感が加わって、そこに申し訳程度のオレンジ味。しかも何本も飲まないと効かないので飲むときはジュース必須。発作的な昏迷に効く他、観念奔逸、不眠にも。
⑨リチウム(リーマス)
飲みやすさ:☆☆
効き目:☆☆☆☆
継続性:☆☆☆☆
出ました、躁鬱病と聞いたら俺を呼べ、のリチウム。主に躁状態を落ち着けるのに効きます。東映のアバンみたいな荒々しい波をバックに「躁」の文字が躍るポスターも有名ですね。僕はめちゃくちゃ効いたんですが、周りの声はどうも手ごたえイマイチのようで効き目の星は四つです。ずっと飲むことによる効き目もあるので継続性の評価が高め。僕の統合失調感情障害という病気は躁エピソード、鬱エピソード、統失エピソードがランダムの周期でやってくるというやつなんですが、困ったのは鬱で、というのも僕の鬱って他の人と違って気分が落ち込むとかではなくそわそわしたり落ち着かなくなったりするんですよね(Agtated Depressionというらしい)。で、リチウムは躁にも鬱にもどっちにも効いたのでかなりありがたかったです。難点は、とにかく苦い。錠剤もデカいので一日六錠ぐらい飲んでたときはかなりつらかった。あとチンチンの勃ちが悪くなります。
⑩デパケン(バルプロ酸ナトリウム)
飲みやすさ:☆☆
効き目:☆☆☆
継続性:☆☆☆☆
これも躁鬱系の薬ですが、個人的にはリチウムのサブウェポン的な服用が多かったかな。飲み始めたのがリチウム服用し始めてしばらくで、効き目にブーストをかけるためにデパケンを飲み始めたので、あんまりこれ単体でどうこうという印象はない。でも、今はリチウム切ってるけどデパケンは飲み続けてるので、効いてるんでしょうね。リチウム以上に錠剤がデカくて飲みづらい。
⑪ラツーダ(ルラシドン塩酸塩)
飲みやすさ:☆☆☆☆
効き目:☆☆☆☆
継続性:☆☆☆☆
僕の今の最終的なレシピに最後に加入してきたメンツです。向精神薬なので統合失調症用ですね。バランサーというか、ちょっと躁鬱系と抗精神病系の均衡が取れてないな、というときに一錠加えるだけで全然違う。ラツーダの一手で自分の今の体調が整ったという実感があります。8年選手の僕が一錠飲んでこれだけ効くので、服用には主治医とよく相談してください。
⑫ビペリデン塩酸塩(アメル)
飲みやすさ:☆☆☆☆
効き目:評価なし
継続性:☆☆☆☆
これはパーキンソン病用の薬なのですが、リチウムや最後に紹介するロドピンをはじめとして精神薬にはアカシジアというのがあり、副作用で手が震えるんですね。あと主治医から聞いた話だとアカシジアでヨダレが止まらなくなるとかいう恐ろしい症例もあります。ビペリデンはこれを止める薬で、これ単体でどうこうという話ではないのですが、精神薬ユーザーには欠かせないサブウェポン。継続的に飲んで効果があるのはビペリデンですが、頓服的にすぐ効くのはアキネトンだったかな。アキネトンに関しては効果は同じなので割愛します。
⑬ロドピン(ゾデピン)
飲みやすさ:☆☆☆☆
効き目:☆☆☆☆☆
継続性:☆☆☆☆☆
ロドピンがこの世になかったら、多分僕は今ごろ生きてこの文章を書いていなかったと言えるぐらい僕の運命を決定づけた薬です。というのも、ロドピンを飲み始めたのは3年前ぐらいからなのですが、飲み始めた当時はほぼ廃人でした。統合失調症って極まるとパーキンソン病的に四肢の感覚がなくなっていくので、一人での入浴も危うく、もちろん生活は昼夜の区別も自己と世界の区別もなくなり、親ももう息子の社会復帰は無理で、一生病院暮らしを覚悟したとあとから聞きました。そこで最終兵器的に投入されたのがロドピンで、大変古い向精神薬ですが、またの名を「ドロピン」、つまりドロドロになるぐらい意識を押さえつけるという異名もついているほど強烈な薬です。これが大変マッチしまして、今のレシピにも欠かせない薬です。効き目としてはエビリファイやオランザピンの強化版ですね。
⑭おまけ 発達障害の薬
僕は言語性IQと動作性IQがピッタシ50離れているフダ付きのADHDですが(動作性IQはいわゆる知的障害者レベルです)、ADHDで困ったことって実はそんなにないんですよね。時間も守れるし、散らかりも常識の範囲内だし。先延ばし癖はありますが、それで何かが決定的に破綻したことはありません。ストラテラを一時期飲んでいましたが、何が効いているのか分からずやめてしまいました。恐らく発達系の薬は結構記事があるはずなので、それを見てみてください。
・おわりに
というわけで、精神薬をめぐるショート・トリップでしたが、どうでしたでしょうか。生涯の伴侶となる薬を見つけることはなかなか楽な道ではありません。かくいう僕でさえ、明日には統合失調症が再発して地獄へ真っ逆さま、ということも考えられます(事実、今年の夏は軽躁状態です。寝れない!)。それでも、薬を杖として――あくまで杖でしかないのですが――生きていくことが、せめて精神疾患患者の幸福で倫理的な生を保証するよすがであってほしいと思っていますし、同時に美学と規律を重んじる人々にとって、「病気のせいで」失われてよい命などないのだ、ということを強調しておきます。それでは、すべてのメンタルヘルス・アナーキストの方々におかれましては、よりよい明日を過ごされますよう。