『時をかけるゆとり』 朝井リョウ
『時をかけるゆとり』
朝井リョウ 2014年 文春文庫
学生という免罪符の失効にもどかしさと寂しさを覚える日々、おすすめしてもらってすぐ手に入れた一冊。
これはもはや活字で摂取するお笑い。
学生最後。好きなこと学んで遊べるのなんて今のうち。何でもやらなくちゃ。
常に心にあり、周囲にも同じ空気感が漂い、大人の口をついて飛び出す。
原動力となった一方で、ときに追い立て、多少の焦りをもたらす価値観でもあった。さながら牧羊犬。
さて本書、好奇心ではちきれそうな学生の心にプスっと刺さる針、と形容したい。
「大学生の間にやらなくてもいい20のこと」が原題であるからには、学生ならではの猪突猛進な体験がずらり。昼夜を捧げた地獄100㎞ハイク、目指すは京都の精神崩壊サイクリング、振り幅激しめ旅行出発前ログ、就活語りエッセイ、からのふり返っての採点版。
たのしい巻頭年表付録もお忘れなく。
興味の赴くままに行動すればそれでいい。肩肘張ってすべてを吸収しようとせずともいい。そういう意味で、あれもこれもと詰め込む心にひとつ風通しの穴を開けてくれるエッセイで、だが題材のなかなかの尖り具合に刺激をもらえるエッセイでもある。
純粋にページが眩しい。若い。瑞々しい。
たしかにやらなくても良いこと、だがその経験こそ、のちの自分をかたちづくる。人生とは偶然の無駄が必然に変わる瞬間の連続ではなかったか。
知らず知らずのうちに失われていく鋭い感受性こそ財産。
そうきっと、回り道こそ学生の信条だといま思い知る。わたしは真の意味でこの価値観が肌に浸透するのが決定的に遅かった。
やはり本とは、本が生む価値観とは、いや世界で触れるすべての経験とは、出会うべき時期がある。
そのときの自分の核としたい思いと刺激の融合こそ、人生を決定的に異なるものにする。人格形成とはそういうものだ。
私は若さを無敵と思ったことはあまりない。かつ地に足つくどころか、地に足つっこんで身動き取れなくなる瞬間もあるぐらいだけれど、それでも眼前に無限の可能性を感じる瞬間は少なくなかった。
社会人というレッテルを掲げる身となっても、疾走と好奇に満ちた学生魂の火種は燻らせておきたい。
いつでも火を灯して行く先を照らせるように。
堅くまとめたけれど、夢中で読んで笑えばそれでいいというわけ。