「人類は,その優れた知能を武器に最も繁栄した種族として地球の支配者となったが,引き換えに,多くの能力を失った」というようなことが,漫画などで尤もらしく語られることがあります。 ツッコミどころが幾つもあるのはともかくとして,多くの動物種において,人間よりも優れた能力が見られるのは事実ですね。 で,今回は,ワンちゃんの優れた能力についてのお話です。
「イヌの気持ち,わかります」? 米国で長年活躍している,有名なドッグ・トレーナーCesar Millan氏のTV番組「ザ・カリスマドッグトレーナー 〜イヌの気持ちわかります」は,日本でもCSで 放送されていたので,ご覧になった方も少なくないでしょう。 番組中,ときおり彼は「I am the dog whisperer」と述べ,確信に満ちた態度で,問題を抱えたワンちゃんと飼い主(Cesar曰く,ほとんどの場合,問題は飼い主にあり,『イヌにはリハビリ,飼い主にはトレーニング』が必要)に向き合っていました。 日々,ワンちゃんと生活を共にしている皆さんは,自分のワンちゃんの気持ちは,かなり理解できると想像しますが,私自身も含めて「ワンちゃんが話をしてくれたら」と思うことはありますよね。 逆に,ワンちゃんの側はどうなのでしょう? 私たちの気持ちや状態,またその他の何を感知できて,何を識別できずにいるのでしょうか? 米国でイヌの行動に関わる多種の認定(CBST, CDBT, CDBC, CPDT-KA)を取得している行動技術者もしくはコンサルタントであるErika Lessaが,先日(2023年9月29日),PetMDに "8 Surprising Things Your Dog Can Sense" なる記事を寄稿したので,その内容を紹介します。
あなたのワンちゃんが感知できる8つの驚くべきこと イヌはヒトとは異なる世界を経験します。 彼らは高度な身体感覚を有し,私たちには認識できないものを認識するのです。 感情,生理学的変化(身体機能の変化),病気,また天候などの環境事象を検出できます。 この感受性は,見る,嗅ぐ,聞く,感じる能力に関係しています。 イヌは色覚が弱いために見える色が少なく,より高いコントラストで見えます。 これにより暗闇における視認性は高く,動体を追尾する高い能力を備えています。 周辺視野は広いのですが,細部は見にくいようです。 イヌとヒトの嗅覚は比べものになりません。 イヌの嗅覚受容体は約3億個あるのに対してヒトのそれは約600万個しかありません。 聴覚も私たちとは異なります。 ヒトよりも高い周波数を聞き取れますが,私たちほど音程の変化を認識することはできません。 実際,イヌとヒトの聴覚には他にも多くの違いがあります。 イヌの被毛と皮膚は,ヒトを含む他の動物との相互作用を感じ取り,処理するのに役立ちます。 子犬の遊び相手の歯からの圧力は,もう少し穏やかな遊びの必要性を伝えるのに役立ちます。 イヌはそうした驚くべき感覚をすべて備えており,あなたを驚かせるかもしれないものを感知する能力を持っているのです。
1. あなたの気分を察知できる? あなたが悲しんでいたり動揺しているとき,イヌはそれを察知できるのだろうかと思うかもしれません。 悲しみ,苦痛,不安,怒りは感情であり,私たちの生理学的反応を引き起こします。 これにより,私たちの話し方,動き,姿勢,匂いが変化する可能性があります。 イヌの感覚は非常に優れているため,これらの信号を感知し,次に何が起こるかを理解することができます。 たとえば,あなたが笑顔で帰宅し,イヌに両腕を広げれば,イヌはあなたが幸せであると解ります。 彼らは飛び跳ねたり,身を乗り出して擦り寄ったりします。 このような行動の次には遊んでもらえることが多いため,おもちゃを手に取ることもあります。 あるいは,あなたが怒って帰宅したり,黙って寝室に直行したりすると,イヌは避けるべきと理解します。 ヒトのストレスや不安はイヌにも伝染します。 慢性的にストレスを抱えているヒトと暮らすイヌは,長期的には悪影響を受けるでしょう。 この研究は,イヌの感情のミラーリングと,飼い主とのストレスレベルの同期を捉えたものです。
2. 妊娠を感知できる? イヌの妊娠検知能力を確認した研究はありませんが,飼い主に子供ができるとイヌの行動が変わるという話はたくさんあります。 イヌがホルモンやフェロモン(交尾などの行動を知らせる香りなどの化学物質)を嗅ぐ能力があることを考えると,飼い主の妊娠を感知できる可能性は十分にあるでしょう。
3. 恐怖を感じる? イヌはヒトの恐怖感情に敏感です。 イヌが匂い,行動(ボディランゲージ)または顔の表情を通してヒトの恐怖を感知すると,そのことが,かれらの行動に現れる可能性があります。 これは,イヌが恐怖に満ちたヒトに直面した場合,恐怖に基づいた反応を示すことを意味します。 恐怖の強さに応じて,この相互作用はイヌの闘争または逃走反応を導く可能性があります。 反応は回避的な行動から反応的行動まで多岐にわたります。 イヌが怯えて逃げる(回避)あるいは噛む(闘う)場合,それはヒトの緊張や不安,恐怖の感情により引き起こされた可能性があります。 ある研究では,汗のサンプル(一方は幸せなヒトから採取したもの,他方は恐怖を感じたヒトから採取したもの)にイヌを曝露し,その後の見知らぬ人に対する行動反応を調べた。 総体的に,イヌは「幸せ」サンプルを経験した後は中立的な見知らぬ人に対してより社会的な行動を示し,「恐怖」サンプルを経験した後は回避行動を示すことが多く見られました。
4. ネガティブなヒトを感知する? ネガティブな感情は,感情というよりも態度であるため,イヌにはあまり影響を与えないかもしれません。 とはいえ,ネガティブな感情がストレスや不安を引き起こすと,感情や気分が再び混ざってきます。 そうなると,イヌも影響を受ける可能性があります。 感情が予測できないネガティブな人は,イヌが感知できる独特の化学シグナルを持っています。 これらの香りが爆発的行動や危険な行動の予兆となる場合,イヌは危険な環境を予測することを学ぶでしょう。
5. 病気を感知する? イヌが病気の匂いを嗅ぐ能力があるとする報告,記述は豊富にあります。 通常,病気の最大の指標は臭いによるものです。 イヌは私たちの息や皮膚を通して代謝の変化を感知することができるのです。 最近,イヌの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検出能力に関する研究が行われました。 全体として,平均検出成功率は 94% でした。
6. 発作を感知できる? 発作はヒトの外見や表情に変化を引き起こし,何かがおかしいことをイヌに知らせます。 発作を経験した飼い主は,いざというときに助けてもらうようイヌを訓練できます。 ただ,差し迫った出来事を感知できるとしても,すべてのイヌが人間に差し迫った出来事を警告するわけではありません。
7. 癌や糖尿病を感知できる? イヌが癌や糖尿病を発見できるかを調べる研究が行われています。 癌の場合はヒトの組織,糖尿病の場合は呼気などをサンプルとして,イヌは罹患したヒトのサンプルを嗅ぎ分け,糖尿病患者の低血糖を検出することができました。 特に,イヌはヒトの皮膚がんの一種である黒色腫の存在に気づいているようです。 しつけが十分でないイヌでは,これらの病気と診断された飼い主の,特定の箇所の皮膚の匂いを繰り返し嗅ぐことがあります。
8. 天気を感知できる? 雷鳴とともに,嵐は気圧や静電気の変化を引き起こします。 気圧が下がると香りは下に移動し,地面に集まります。 これはイヌに気象条件の変化を知らせます。 静電気はイヌの被毛に蓄積(帯電)し,イヌが動くと小さな衝撃を引き起こします。
イヌは,私たちの周囲の世界に対する高度な感覚を備えた,非常に能力の高い伴侶です。 自分の気持ちがわからない,または周囲で何かがおかしいと感じるとき,あなたのワンちゃんをよく観察してください。 彼らはあなたにさらなる洞察を与えてくれるかもしれません。
結論 上記記事のまとめ部分,共感できますね。 様々な環境変化やストレスによって自分を見失いそうになったとき,我が子の顔や行動を見て,思わず「ハッ」と我に返るというのは,映画やドラマでもよくあるシーンです。 同様に,ワンちゃんの様子,行動を観察することで,自分自身の姿や状態に気付くことができるかもしれません。 「ワンちゃんは大切な家族の一員」であるのは言を俟ちませんが,こうした側面でもヒトとワンちゃんは互いに助け合い,依存し合って,より幸福な毎日を送れるのだと思います。 そして,出来れば,お子様やワンちゃんだけでなく,夫、妻、パートナーの方もよく見てください。 もしかすると,あなたが発している信号を感知して,次に起こることを怖れているかもしれません。
雑記 この記事の冒頭で,Cesar Millan の言葉「I am the dog whisperer」を紹介しましたが,実は,私たちLapin Ange も,その行動理念として To Be Dog Whisperers For Your Companion Dogs For Your Family と謳っています。 ご存知かと思いますが,"whisper" は「小声でささやく」という意味ですので,"dog whisperer" は「イヌにささやく者」となりますが,もちろんそうではなく,「イヌと心を通じ合える者」という意味で用いています。 物の本によると,元は "horse whisperer" だそうで,英国の馬の調教の達人が,馬に顔を近づけて話しかけるようにしていたので,そう呼ばれたそうです。 なお,"whisper" と聞いて即 Wham! のヒット曲 "Careless Whisper" が頭に浮かんだ方は,多分,私と同年代ですね。