だから今日も私は眉毛を描くし、口紅も塗るよ。
予定がない、というのはこんなにも人を堕落させるものなのか。バイトもなく、大学も始まらず、本来は就活の面接の調整などでバタバタしてるはずなのにそれもなく…。外出自粛要請が出たての頃はただただ惰眠をむさぼっていたのだけど。こう自粛ムードが続くと(しかも状況は悪化の一途だし)惰眠をむさぼるのですら嫌気がさしてくる。
午後になってのっそり起き、雑な食事をとって締め切りが迫るESを書く。そして日付をとうに超えた時間に寝る。(ESの合否発表の前日は眠れないのが常だったので合否のメールが来てから寝た。)そんな生活を二週間ぐらい続けていたら当然、精神バランスはめちゃめちゃになるに決まっていて。
ある日の昼下がり、鏡を見てぎょっとした。睡眠時間は十分すぎるほどとっているのに鏡の中の自分はひどく疲れた顔をしていて。目の焦点があってないというか、ぼんやりしているというか。なんかわからないけれど直感的に”やばい”と思った。とりあえず、次の日は午前中に起きることを決めた。
「早起きしてもダメか…」
翌朝、鏡の中に疲れた顔の自分を確認し、深いため息をついた。
特に、まばらな眉毛が自分のダメさを強調しているように見えて。そんな自分を見ていられなくて、思わず私はメイクポーチを手に取った。
眉尻を伸ばし、眉毛が少ないところに色を足す。眉毛を描いた後の私は心なしか少ししゃきっとして見えた。そうすると、今度は血色の悪い唇が気になってたまらない。
少し悩んで手に取ったのは就活のお守りにと気合を入れて買ったDiorのリップ。キャップを開けるとバニラの香りが広がる。Dior特有の香り。少し、胸が高鳴る。
明るい赤が唇に足された後の私の顔は、私が知る普段の私の顔だった。
「ちゃんとした服、着ようかな。」
ここ数日、文化祭の時のTシャツだとか、サークルの公演の時のスウェットで過ごすことが多かったけれど、それじゃあ今の顔と不釣り合いだから。そう思って久しぶりに、お気に入りのニットにそでを通す。少し、気持ちが晴れたような気がした。「私は多分、大丈夫だ。」そう思った。
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外出する予定が何であろうと、外出する、という行為は気持ちを切り替える行為なんだと思う。例え切り替わってる実感がなくても。そしてその切り替えのスイッチは人にとって大切なものなんだろう。ここ最近、学んだことだ。
だから、意図的に気持ちを切り替えるきっかけを作ってやることって意味がある事なんだろうなって。そう思うんだ。事実、私は眉毛描いて口紅塗ったら少し気持ちが前向きになったわけで(笑)
だから今日も私は眉毛を描くし、口紅も塗るよ。
外出はしないけど、それが気持ちを前向きにするスイッチだから。