縦割りビルヂング ~見本市と玄関口のビル~ 東京交通会館ビル・後編
B1F・1F(追記)
結局半日では回れない場所も多かったので、日を改めてやってきた!
まずは人がごった返していた北海道どさんこプラザへ。ここでソフトクリームを食べられなかったのは惜しかったので、リベンジに向かう。幸い午前中だったこともあってさほど混んでおらず、周りを気にすることなくメロン味のソフトクリームを楽しむことができた。
クリームのサイズが大きく、ずっしりと重みがあることにまず感動する。風味もオレンジ色から連想される完熟のメロンそのままの味だ。かと言って甘味がひどく強いということはなく、舌触りや後味はかなりすっきりしている。食べてる内からもういいです…とさせないための絶妙な塩梅なのかもしれない。136軒のメロン農場から厳選したものを使用しているというのも相当のこだわりだなぁ…現地で製造したものを直送しているという点も、一大生産地としてのプライドを感じた。
イートインスペースは決して広いとは言えない大きさだが、傍に北海道新聞が撮影した道内のニュース映像が流れていて雰囲気は十分だ。農作物の収穫やドローンで撮影した湖等、スケールが大きいニュースが多い。何より映像として綺麗な事柄ばかりなのがずるいな…大喜利を始めて北海道にも知り合いが増えたことだし、いつかは道内を回りながら写真を撮るなんて旅も楽しんでみたい。
地下1階の横っちょ横丁にもついでにリベンジする。今回は以前食べられなかったラーメンを食べてみることにした。「麺屋ひょっとこ」さんはカウンターに10席程椅子が備え付けられている小規模なお店だが、お昼時ということもあって10人以上が並んでいた。店の前で列を折り返す位置も看板で指定されていて、相当な人気店であることが伺える。流石に周りは昼休憩の合間を縫ってやって来たビジネスパーソンばかりだったので、写真をパシャパシャと撮るのは遠慮することにした。
それにしても少しご高齢の店主とそのご伴侶がちゃきちゃきと働いている、"昔ながら"を地で行くようなラーメン屋さんだ。20分程並んでようやく自分の番になった。チャーシュー麺の食券を渡して丸椅子に座る。先程まで自分のすぐ前で話していた男女の間に、偶然割り込むような席順になってしまったのは少し気まずいな。
ラーメンは凄まじい美味しさだった!柚子自体が好みなのは影響しているとは思うが、あっさりしているスープと麺が絶妙にマッチしていて箸がズンズン進む…こってりしたラーメンは途中ちょっと休憩したいな、と思ってしまう瞬間があるが、今回いただいた麺にはそれが無かった。それでもってチャーシューはチャーシューで美味しいのが困る。5時間以上は煮込んでいるらしく、肉厚な割にホロホロと崩れた時には「おおっ…」と声を出しそうになった。肉そのものの美味しさで勝負してくれているおかげで、スープと喧嘩することなくどちらも楽しめるのが有難い。ただ無心になっていて、気が付くと完食してしまっていた。大勢のお客さんが並ぶのも納得のクオリティだったな…
ラーメン以外にもいろいろな場所で列が出来ていたのを見ると、まだまだこのビルにはグルメがあるんだなとワクワクしてしまった。とはいえ腹ごしらえは十分できたので、前回足を運べなかった6階と8階へ上がってみる。6階は体調の観点から考えて最後に回すとして、まずは8階から覗いてみることにした。
8F
まずは8階から。「認定NPO法人 ふるさと回帰支援センター」は、全国に移住したい人のための相談所と呼ぶべき施設だ。職員の方と対面で相談する際には予約が必要だが、見学だけであれば許可してもらえるようだ。チラシと案内図をもらって所内に入ってみる。
交通会館のホームページではあまり伝わらないかもしれないが、47都道府県の窓口とパンフレット置き場が並んでいるのは圧巻だ。じっくり見学していくと、各地のアピールポイントがそれぞれ違って面白い。地域に残されていた歴史的な街並みや蔵を押し出す町、農業をとにかく紹介する町、子育てのしやすさを家族写真で表現する町など、色々な方向性を模索している様子がチラシの表紙からも伝わってくる。近頃人気のワーケーション(離れた観光地で仕事をする→ワーク+バケーション)辺りも紹介されていた。 それにしてもよくここまで相談窓口が集まっているなぁ…都会のど真ん中で各地へのビザが発券されているようなものだと思うと少し興奮する。驚くべきはこの施設が全てNPOで運営されていることだ。実際に自治体から派遣されている職員さんはほぼいないという。にもかからわず最近は移住を題材にしたNHKの番組にも協力しているらしい。ここ数年のコロナ禍でリモートワークの利便性も浸透しているはずだし、まだまだⅠターン・Uターンの流れ、そして回帰支援センターの勢いは止まらないのかもな。
流石にウロチョロしすぎたのか、職員の方にも何人か話しかけられた。広島県を担当されている方は特に気さくで、こちらも聞かれていないのに広島に関する思い出を話してしまった。特に移住する気も無いのに見学していた負い目というか、申し訳なさも影響していたというべきか・・・職員さんはとても聞き上手な人だった。都会から強い決心をして移住する人のことも、何となく新天地を探している人のことも分け隔てなく受け入れている職員さんだ。ふらっとやって来た野郎に付き合うなんて他愛のないことなのだろう。移住とまではいかなくても、広島に滞在する機会があればまた相談に行ってみようと思う。
6F
さぁ、意を決して6階へ。この階には「有楽町献血ルーム」があり、人生初の献血にチャレンジすると決めていたのだ。ラーメンをしっかりと食べたのはそのためでもあった。血糖値が上がる可能性はあるけれど、食べずに血を抜かれて倒れるよりはずっと良い。なお献血ルームでは流石に写真を撮ることはできなかったので、可能な限り文章で補足しようと思う。
部屋に入ろうとすると早速赤十字と赤新月が記された看板が出迎えてくれた。エントランスには2か所の受付と待合スペースがあり、これから献血する方と既に献血を終えた方が一緒にくつろいでいるようだった。
今回は短いスパンで献血できることも考えて成分献血を選択した。他のビルの献血スペースがあれば中を覗きたいし、各地の献血会場を巡ったコラムなんかも書けるかもしれないし…受付の方はとにかく低姿勢で、何だかこちらが恐縮してしまった。薬の服用の有無に加えて、海外渡航歴も詳しく質問される。幸い何も条件には引っかからず少しほっとした。
体から血漿を抜く関係でどうしても脱水症状になるらしく、事前によく水分を摂るように言われたので、休憩室でコーヒーをがぶがぶと飲んでみる。ペットボトルの自販機ではなく、紙コップに注がれて出てくるタイプの自販機には少しテンションが上がった。出かけた先でしかあまり飲まないしな…勝手なイメージだが、紙コップ自販機があると「事務所感」「公共施設感」が強まる気がする。ほうじ茶ラテやカフェラテに混じって、温かいポカリも用意されていた。流石は医療機関、効率よく吸収できる飲み物も揃えているんだな。
その日来ている人の年齢層はかなりばらけていた。50代は間違いなく越えているベテラン風なおじさまもいれば、午前で勤めが終わった女性会社員のような方もいた。毎日鍛えているんだろうなという体育会系の大学生もすぐ横に座っている。量が決まっているのは百も承知だが、こういう子からは何mlでも採れてしまいそうな気がするな。これだけ年も性別もバラバラな人が集まっているのに、皆同じ装置で血を抜かれるために来ているというのはちょっと不思議だ。
問診と血液検査が終わり、再び待合室で待つことに。フードコートのようなブザーを渡され、十数分暇を潰した。携帯の充電が心許なかったのでコンセントがあったのは有難かった。音楽でも聴いていれば時間も経っていくはずだし、気楽に構えるよう心掛けてみる。
いざブザーが鳴り、献血用のベッドへ通された。成分献血用のベッドが13~4台程並んでおり、自分はその中でも建物の角に近い場所に寝ることになった。形状としては歯医者のベッドに近いか。違いは横にそこそこ大がかりな装置がついていることだけだ。自分が横になる前から既に少し傾斜がついており、上半身を起こしたまま針を刺されることになった。
簡単な説明を受けた上で献血が始まる。血を抜かれていると寒く感じる場合もあるということで大量の毛布をかけてもらった。椅子に備え付けられたテーブルにもカフェラテを置いてもらい、イヤホンを繋いでYoutubeを開いた。かなり快適、なはずだ…!
だが、実際には快適な献血タイムが長く続くことはなかった。
最初の異変として、血管の中にドクドクと血が流れている感覚が強くなった。確かに成分献血はいったん採った血を遠心分離機にかけて戻す献血ではあるが、それにしてもこんなに戻るのか…?という感じだ。出した以上に入ってくることはないはずだが、既存の血流に逆らってもう一つ流れができているような錯覚に陥った。しかし献血に来ておきながら「僕の血が抜かれたり入ったりしてるんですが!」と叫ぶのも流石に阿保すぎるので、何とか自分の中で飲み込む努力をした。
しかし、”ドクドク感”なら我慢するつもりだったのだが、今度は体全体から力が抜け始めた。眠いというよりも失神しそうな、「漠然とした危機感」のある力の抜け方だ。スマホを持っているのが億劫になり、そのまま腹の上に落としてじっと耐えることに。挙句の果てに吐き気まで出てきてしまった。全身から冷や汗も噴き出していて、毛布が暑いどうこうの騒ぎではない。これは明らかにまずいことが起きている!医学に疎いせいで理屈や裏付けは全くないが、献血しようとした結果献血される未来が頭の中に浮かび始めた。流石に助けを呼ばなければ…
たった15分でかなり自分は衰弱していたらしく、1回目のすみませんは聞き取ってもらえず。2回目でようやく近くの看護師さんがグロッキーな自分に気付き、そこから看護師2名・医師1名による治療が始まった。献血ルームらしからぬ厳戒態勢だ。「これは迷走神経反射だね~」と冷静に分析する先生。「緊張でこうなっちゃう人も時々いるんですよ」と言いながら一通り診察すると、ゆっくりベッドの角度を変えてくれた。足の下にも大きめのクッションを挟んでもらい、広い献血スペースの中で一人痔を診てもらっているような姿勢になった。周りの人が「血を抜かれるとあんな感じになるのかな…」と緊張して迷走神経反射を起こさないための配慮なのか、3枚のパーティションが置かれて自分の姿は周囲から完全に見えなくなった。親切に対応していただいた先生には悪いが、余計に「痔」ぽいかもしれない。
少し余裕が出てきたのですぐ横の装置の方を見ると、本来満杯になるであろう血漿パックが5分の1程の量のラインで止まっていた。殆ど量は採られていないのにここまで大騒ぎになったのか。要約すれば「血液を採られて戻されたらびっくりしちゃった」だけなのに。あまりに情けなくなって看護師さんに「これ(採った血漿)は…」と聞くと、「大丈夫ですよ、どんな血も無駄にせず使わせてもらいますので~」と頼もしい回答が返ってきた。良かった、チキン野郎の血漿でも救われる人がいるんだ、と安堵する。後はどこかの病院で「今日のパックやけに少ねぇなあ」みたいな会話が起きないことを願うしかない。
血圧はかなり短期間で戻ってはいたのだが、念の為に用意された車椅子に乗り込む。あまり自分のような体型の人間がお世話になる代物ではないのにな… 何より自分で行く先が決められないのが余計に心細くさせる。このまま待合スペースまで突き進むことになったら「立てなくなるまで血を抜かれるのか」と皆を不安にさせてしまうと心配していたが、実際には問診室の裏に関係者用の通路があり、そちらを通してもらうことになった。奥の休憩室には少し硬めのベッドと枕が備え付けてあり、そこでもう少しだけ様子を見ることに。大分調子は戻ってきていたが、言われるがままに紙パックのお茶とスポドリを一本ずつ飲んだ。ぬるいスポドリが美味しかったのは初めてだ。
流石に一度血圧が下がった身ではあるので、家まで帰れるか看護師さんに心配される。自分が東京の外から来た事を告げると、なんでわざわざ有楽町に…?という至極真っ当な疑問を抱いた目を向けられてしまった。「ビルを回ってて、その一環で」と説明した所ですんなりとは飲み込んでもらえないだろう。調子が戻っていることと、実家に住んでいることを最大限アピールして乗り切った。
先生曰く精神的な影響もあるはずなので、しばらくは無理して献血に来ない方が良いということであった。「あんな献血もあったなぁ」と笑い飛ばせる位に時が経ち、それでもチャレンジしたいならする、程度の心構えで十分だそうだ。それに瘦せ我慢をして気を失いかける位なら、世の中にまだいるはずの「ポスト献血マニア」に対して宣伝してくれる方が良い、とも助言していただいた。ちなみに成分献血はどうしても長くなってしまうので、不安があるなら全血献血を選んでみても良いそうだ。血液をそのままがっつり抜かれるだけなので時間がかからず、かえって気持ちの面では楽らしい。先生はクールではあったが、本当に最後まで親切にしていただいた。つくづく初めての献血が有楽町で良かったと実感する。
流石に恥ずかしいので「いやぁ何か疲れちゃいましたね」という表情で待合スペースに出る。一応辺りを見たが、誰にも見られてはいなかった。こういう時に都会のドライな雰囲気は有難い。これで「どうでした?」みたいな目線を向けられていたらいたたまれなかった。受付で対応していただいた職員さんが、献血後の説明のついでに記念品として血液パック型のキーホルダーを渡してくれた。こちらは自分の血漿パックと違ってパンパンに詰まっているデザインだった。結局献血ルームでやったことといえば、タダでコーヒーとスポドリを飲み、気分が悪くなって介抱されただけなのに。トータルで圧倒的なマイナス値を叩き出した自分に、どれだけ優しくしてくれたら気が済むんだと情けなくなる。
結局人生初の献血は数十mlの血漿を提供するだけで終わってしまった。流石に申し訳なく思い、出口付近にあった箱にわずかながら募金を入れる。大げさに見える包帯も、血液検査用に注した右腕に貼られたシールも全部恥ずかしく感じてしまうな。いつかはもう一度あの場所に自分の意志で立って、ちゃんと血を採ってもらおう。
体調も万全ではなくなってしまったため、少し無念ではあるが帰路につく。最上階のレストランもチェックしてみたかったというのが本心と言えば本心ではある。まあ高級な分予算に余裕があったわけではない自分にとっては近寄りがたい部分もあったが…
しかしながら一応は交通会館を満喫できたんじゃないだろうか。初めて訪れたビルだったが、各階に特色があって歩くだけでも楽しかった。
何より海外に出ていく上で必ず寄らなければいけないパスポートセンターと、各地への旅情・郷愁を誘うアンテナショップが両立しているのが魅力的だ。旅行に対して官民の双方から様々なスタイルで後押ししている様子がたまらなかった。これからも都心から日本・世界に向かう玄関口として、色んな人を旅に巻き込んでほしいなと思う。
一度東京交通会館のルポは締めくくって、次はまた別のビルを訪問した時の思い出を綴っていくことにしよう。1回目に選ぶビルとしては非常に特色がある建物だったので、これからのブログに影響が出てしまいそうでもあるが、自分なりにレトロなビルを開拓していく予定だ。これからもちょこちょこ文章をアップしていくので、気長に待ってもらえたら有難いです。