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クリスマスを知らない人たちとイブに鳥料理を食べた話
クリスマス・・・南ラオスの雄大な自然の中にいると忘れてしまいそうになる。
いつもの長閑な空気の中、太陽のリズムでの生活にはクリスマスなんてない。
クリスマスイブの日も、いつも通り朝日が登る前に目がさめる。
しばらくぼーっとして、朝ごはんを作って、朝食を終え携帯の電源を入れる。すると携帯の液晶には、見覚えのある数字。
12/24
なんだっけ?なんの日だっけ?
あ、クリスマスイブだ。
思い出したは良いけれど、「まぁなんもしなくても良いかな〜」なんて半分は考えている。
しかし少し時間が経つと「少しクリスマスっぽいことをしてみようか?」とも思い始めた。何せ、この日のためにせっかくビエンチャンから重い思いをして持ってきた赤ワインがあるのだ。
とはいえ、この地でできるクリスマス。
・・・・
さぁどうしようか。
と思いつつ、頭の中にはすでに地鶏がうかんでいる。
あの、野を走り土を掘り起こしながら、自然のものを食べて育った地鶏。
若冲の絵にでも現れそうな力強い地鶏。
実は鶏を食べたいというよりは、鶏の捌き方を習いたかったということもある。
と決まれば善は急げだ!
オンちゃんを呼んで鶏を手に入れる算段を取ろう。
「オンちゃんオンちゃん、今日は鳥食べよう!」
「ん?なんで?」
な、なんでって!!
そら、クリスマスイブだし・・・っと言いそうになって言葉を飲み込む。
クリスマスイブ・・・・クリスマス?
当たり前のように世界共通言語だと思っていた、クリスマスの概念はこの村にはないのだ。キリスト教なんてのも知らないかもしれない。そんな彼らになんて説明しようと悩んでいると、続けてオンちゃんが
「今日は竹を切りに行かなきゃね。」
とクリスマスディナーは竹をカットする行為に負けてしまった。
このままでは鶏を確保できないと思った私は
「今日、日本の祭り。鳥食う祭り!」
・・・・・・
つい出た言葉がこれだった。
が、これが効果覿面。
一発で理解した彼らは、よ〜し今日は鳥を食べよう!となったわけ。
ただ、きっと朝からお寺に鶏を捧げて、おすそ分けをいただく祭りみたいなイメージをしているだろうが・・・・。
<日本の皆様、ラオスに「鳥食う祭り」を広めてしまいましたこと、ここでお詫び申し上げます。>
鳥食う祭りと言っても、こちらにローストチキンが売ってるわけでもなく、ケンタッキーフライドチキンがあるわけでもなく、モモ肉やムネ肉がパックされてるわけでもない。
選択肢は一つ。そう一羽買い。
これなら捌き方を教えてもらえる。
ということで朝から鶏おじさんのところに行って鶏を入手。少し小ぶりのしかいなかったけど、まぁ良しとしよう。
なんの躊躇もなく足を縛るとバイクのカゴに鶏をすっぽりと入れた。
「いや、こんなんでは大人しくしなてないやろ!」
と突っ込みたくなったが、なぜか大人しくしている。
バイクを走らせても大人しくしている。
どういうことなんだ?足を縛ると大人しくするのか?
など考えるうちに農場に到着。
バイクのカゴに鶏が入ってる風景は日本では驚きだけれど、ラオスではなんの違和感もないから不思議だ。
ラオス流鶏料理開始
さぁお昼の時間だ。
(ディナーのつもりだったけど、もうみんな止められない。)
鳥食べるぞ〜って勢いで、木を拾ってきて早速火をつける。
よく燃える乾季の木でお湯を沸かしたら、早速〆た鶏をつける。
軽く茹でたら毛をむしっ
・・・・・・
・・・・・・
と具体的な捌き方は控えよう。
物の見事に数分で下処理がどんどん進んでいく。
二羽いるうちの一羽は私の当番。
負けじと捌いていくが、まだまだ慣れず遅れを取ってしまう。
みかねたペッがお手伝いを買って出て、無事に二羽の下処理が完了した。
直火で表面を炙りながら塩を揉み込んで鶏を用意する傍ら、一人が農場のあちこちに足を運ぶ。なんとも慣れた連携プレーだ。
「何取ってきたの?」
と見せてくれたのはノコギリコリアンダー。最近居場所ができてまるで雑草のように絶賛勢力拡大中のハーブだ。
これ美味しいよね〜なんて話をして居る傍らで、別の一人が鍋に別の葉っぱを入れて居る。
「ちくしょう!知らぬ間に入れてしまったな!さては秘伝の隠し味を教えぬつもりか?」
なんて意地悪なわけはなく、手馴れすぎてて素晴らしく早いのだ。その証拠に
「サイニャン?(何入れた?)」
って聞いたら「ソンポディー」だって答えてくれる。
で、「ソンポディー?」
なんだその保険プランような名前はと聞き返してみたら
「あれだあれ!」
「あ、あれね!」そう、あれでした。
知ってますこの雑草。酸味を出すときに使う葉っぱ。
トマトの代わりにも使う雑草。
そんな会話中にもすでにまた別のハーブが入っている。これはわかる。レモングラスだ。
そんなわけで、鶏を丸ごと内臓も一緒に、唐辛子やらっきょう、ハーブに雑草、そして塩を入れたらあとは待つばかり。
ラオス流鶏料理の完成!
茹で上がった鳥の実をほぐして、もう一度スープいいれたら完成。
美味しそうな香りが漂います。
「ギンカオギンカオ〜」(ご飯食べよ〜)
「サヨ〜(乾杯!)」
とサイゴンビールを片手にクリスマスパーティーが開始。
メリークリスマス!の掛け声も、いちごのショートケーキもクラッカーもない。
「ただ鶏を食べる祭り」というクリスマスイブ。
鳥のスープとカオニャオを食べながら、ビールを飲んでワイワイと騒いだクリスマスイブのランチ。
ふと、オンが真面目な顔して今までを振り返り始めた。
「ここにきてもう三年だね。」
「一番最初、草刈りしたときに、あなたがとっても喜んでくれたこと、僕は本当に嬉しかったんだ!」
「僕は今まで色々な国の会社の草刈りとかしてきたけど、みんな私たちと違う人のように一緒にご飯なんて食べなかったよ」
「こうして一緒に食べてくれるあなたは家族みたいだ」
「あなたじゃなかったら、僕はやっぱりこんなに続いてないと思う」
次々溢れるオンの言葉に、私はただただ涙を堪え聞いている。
「違う人が来たらやだよ」
なんて泣かせ文句を言ったあと、最後にこう結ぶ
「みんなの家族がここで集まって、50年後も一緒に居れるといいね」
私は堪えきれず涙を拭った。
サンタクロースもクリスマスも無いと思っていた、南ラオスの鳥食う祭り。
結局そのとき赤ワインは飲まなかったし、クリスマスらしいこと一つもないイブになると思ってたけど、何にも代えがたいプレゼントを運んでくれた。
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