捌きたての肉を食べて辺境の地で地元の人と仲間になるということ
私はとてもここ南ラオスのシノムノー村が気に入っている。
心の底から農場にきてくれているみんなを尊敬しているし、本当に仲間だと思っている。
でも時々"ふっ"と「とは言っても外からやってきた人だしな・・・・」
なんて物思いにふけることもある。
薄い透明なカーテンが周りにあるような錯覚。
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そんな折ウォンさんからお誘いがあった。
「明後日はお祭り。明日その準備で牛を一頭殺して捧げるんだよ。だから明日の朝、うちに来ないか?牛肉を食べれるよ」
私は特に牛を食べたかった訳ではないけども、せっかく誘ってくれたし
「うん。ありがとう」
と当たり障りない返事をした。
別に嫌でもないし、一食浮くし(せこい!)、自分の料理以外のものを食べるってのもあまりないから、気分も変わるし。ま、いっか。
でも朝からみんなでお酒飲みながらとかだと、ちょっとめんどくさいな〜 (心の声)
なんて調子。
ウォンさんが誘ってくれた意味を理解できないまま、自分のことばかり考えて誘いに乗ったって訳。
そして翌朝7時にウォンさんがきて、
「牛肉の準備できたよ〜」って。
「うんわかった。ありがとう!洗濯物を干したら行くから先行っていて!」なんて長い言葉はとても喋れないけど、ジェスチャーと片言のラオ語でなんとか伝えると、ウォンさんは「わかったよ」と行って先に家に帰って行った。
洗濯物を干した私は「今日は何人くらいいるんだろう?」なんて想像しながらバイクを走らせた。
村はすぐそこ。3分ほどでお家に到着
。。。したのだけどあら不思議。
誰もいない
ウォンさんと奥さん、お嬢さんだけだ。
ウォンさんがさぁさぁと家に案内してくれる。
奥さんとお嬢さんは厨房でお皿に料理を盛っているようだ。
で、しばらくするとお盆に乗った料理が運ばれてきた。
今回のはマジの肉料理。祭りの時しか食べない捌きたての牛肉料理だ。
聞けば朝5時からさばいていたのだと言う。
それを寺からいただいてきて、今さっき料理したと言うことらしい。
(なので前回の時に比べても肉が多くかなり贅沢な食事内容となっている。)
と料理の感想はそこそこに
「あれ?今日親戚は?」
って聞くと
「今日は二人だよ。さぁ一緒に朝ごはんを食べよう」
と言い贅沢な朝ごはんが始まった
「え!?二人?ラオスでこんな贅沢な料理を二人で食べるの?」
奥さんもお嬢さんも配膳が終われば後ろに控えている。この辺りは昔の日本の風習にも似ている。
さぁさぁと促されるので、まずは炭火焼を一切れ。
「お、美味しい!なんて新鮮な!」
お次は日本では絶対に食えない"生"のラープを相変わらずの野草に包んで食べる
「やっぱり上手い!」
生のラープ、そして骨つき肉と内臓のスープと次々口に運ぶ。
やっぱり野草はどんどん追加される。
どれも美味しい!余計な味付けなく、化学調味料も使わず、素材の味。そしてハーブや野草、唐辛子などとぴったりあった伝統的な肉料理。
するとウォンさんがさりげなく語る。
「こうやって、祭りの日に呼んで二人で食べるって言うのは、とっても特別なんだ。仲間・家族だと言う証なんだよ」
やっぱりラオ語は全然わからないんだけど、単語単語、そしてウォンさんの表情と心が内容を伝えるには十分だった。
いつもの笑顔でそう言うと、何食わぬ顔でまた肉を食べだした。
「コプチャイ(ありがとう)」
私はその心遣いがたまらなく嬉しくなり、短いながらも心からお礼をいった。
そしてまた同じようにお肉を食べ続けた。
会話をさほどするわけでもなく、中年の男が二人でただ肉を食べている。
時々明日の祭りの話とか、料理のこととか、たわいもない話を挟みながら。
でもさっきまでと何か空気が変わった。
ラオスのウォンさんの家だったここは、昔から知っている親戚のおっちゃん家のようだった。
ずーっとここにいてもいい空気感が漂っていた。
ただ二人で膝を突き合わせ一緒にご飯を食べただけ。
たったそれだけの出来事。
「ごちそうさま」と言って、私はまたバイクに跨ってウォンさんの家を後にした。
家に着きデッキに腰を下ろした。
いつものように緑は綺麗に輝いているし、空は高く綺麗だ。
雨期の間の晴れ間から涼しい風がびゅっうっと吹いた。
「あぁ気持ちい風」
勝手に作った透明なカーテンはいつしか姿を消していた。