【Twitterで最も注目を集めた漢越語】(01: đam mỹ[耽美]: ボーイズラブ)
ページ運営者の佐藤と申します。
運営者は、Twitterにて、ベトナム語の漢越語を1時間おきに呟くボットアカウント(「漢越語bot」@tuhanvietbot)を運営しており、2021年2月初め現在、1100人を超える方にフォローしていただいております。
このアカウントにて2021年1月の間に最も注目を集めた(=インプレッション数が多かった)以下の3つの漢越語のうち一つを取り上げて、さらに詳しく解説していきたいと思います。
こちらの記事では、以下の言葉について説明します。
"đam mỹ"【耽美】:ボーイズラブ
まず、「ボーイズラブ」に関するウィキペディアページ(日本語、ベトナム語、中国語)の項目名を確認してみました。すると、
・日本語:「ボーイズラブ」(https://ja.wikipedia.org/wiki/ボーイズラブ)
・ベトナム語:"Đam mỹ"(https://vi.wikipedia.org/wiki/Đam_mỹ)
・中国語:"耽美"(https://zh.wikipedia.org/wiki/耽美_(腐文化))
とあり、ベトナム語の漢越語"Đam mỹ"【耽美】は、中国語の語彙に由来することが予想されます。また、上記のベトナム語ウィキペディアページには、この語彙の変遷について、以下のような説明がありました。
“Thuật ngữ "Đam mỹ" (たんび) xuất phát từ Nhật Bản, ban đầu đề cập đến chủ nghĩa thẩm mỹ. Từ thập niên 2000, nó chủ yếu được sử dụng để chỉ những bộ tiểu thuyết nói về tình yêu đồng tính nam ở Trung Quốc.”(https://vi.wikipedia.org/wiki/Đam_mỹ より引用)
(筆者和訳: “Đam mỹ”(たんび)という専門用語は、日本から生まれ、はじめは耽美主義を指していた。2000年代から、これは中国にて男性同性愛者の愛情についての小説を指すために主に使われている。)
このように「耽美」は和製漢語であり、近年中国にて「ボーイズラブ」を表す語彙として使われるようになったことがわかります。
また、「現代中国語の日系外来語」を研究した劉喆さんの博士論文の中でも、「耽美」は「ネット上の日系外来語」として分類されており、このような語彙が中国語に流入する原因を以下のように述べています。
「中国では、近年、日本文化の影響を受け、日本ドラマ、アニメ、バラエティなどの中に 出てきた漢字が中国人の注目を集め、研究され、改造して使用されるようになった。日中 両言語の漢字使用上の類似性が、日系外来語新語の中国での流行を促したといえる。この ことによって中国人は日系外来語を受け入れやすくなり、特に若者は新語を受け入れる能 力が高いので日系外来語の流入に拍車をかけた。 」(https://nagoya.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=28538&item_no=1&page_id=28&block_id=27 、101ページより引用)
ただ、日本語では「ボーイズラブ」という意味では「耽美」は使わないため、なぜこの概念が日本から中国へ流入した際に、「耽美」という語が選ばれたのかが個人的には不思議です。
この中国語の語彙が、さらに漢越語としてそのままベトナム語の中でも受容されたものと考えられます。
なお、この語は広辞苑並に分厚い大型のベトナム語辞典*には載っておらず、社会全体に普及している語彙ではないことが伺えます。「ボーイズラブ・男性同性愛」という概念については、
"đồng tính nam"【同性・男】
という漢越語で表すのが一般的だと思われます。
(*Hoàng Phê (chủ biên) (2015) Từ điển tiếng Việt, Nxb.Đà Nẵng. を参照)
次回(パート2)では、二つ目の漢越語("Đội Diệt quỷ"【隊・滅鬼】:鬼殺隊)について説明します。乞うご期待!