【Twitterで最も注目を集めた漢越語】(04: đáo để[到底]: 厚かましい)
ページ運営者の佐藤と申します。
運営者は、Twitterにて、ベトナム語の漢越語を1時間おきに呟くボットアカウント(「漢越語bot」@tuhanvietbot)を運営しており、2021年4月頭現在、1200人を超える方にフォローしていただいております。
このアカウントにて2021年2月の間に最も注目を集めた(=インプレッション数が多かった)漢越語のうち一つを取り上げて、さらに詳しく解説していきたいと思います。
“đáo để”【到底】:厚かましい、しつこい
「到底」が「厚かましい」??と思われるかもしれません。日本語では「わたしには到底できない」など、否定文で否定の気持ちを強めるために使われる「到底」。
しかし、この語の漢字をよくみると、「底に到達する」なんですよね。これをどのように解釈するかによって意味の違いが生じていると考えられます。
実際、漢和辞典で「到底」と引くと、以下の意味も載っていました。
漢文では文字通りの意味①だけでなく、「底」=「最終的にいきつくところ」と解釈して派生的意味②も生じていることがわかります。ちなみに、この②の意味は現代中国語にも引き継がれているようで、以下の(1)(2)の意味と用法がありました。
さて、ではベトナム語の意味ですが、南北統一前のものから見てみましょう。
ベトナム戦争期(南北分裂期)の南ベトナムで出版されたベトナム語辞典
❶サイゴン・1951年出版(Đào-Văn-Tập (1951) Tự-điển Việt-Nam phổ-thông, Nhà sách Vĩnh-Bảo より)
❷サイゴン・1967年出版(Thanh Nghị (1967) Việt-Nam Tân từ-điển Minh-hoạ, Nhà sách Khai-Trí より)
ベトナム戦争期(南北分裂期)の北ベトナムで出版されたベトナム語辞典
❸ハノイ・1963年初版、1977年再版より)
(筆者撮影:❸の辞書の "đáo để" の項目)
このように統一前の辞書を見ると、❷には原義「底に至るまで」が、❶❷には漢文の意味でも出てきた「終わり・最後まで」という意味が辞書にも書かれています。
後者はさらに、「ものすごく頭がいい/美しい」「とてもおいしい」のような肯定的意味で解釈されている場合もあれば(❶❸)、一方で「最悪だ」「ずうずうしい」のような否定的意味で解釈されている場合もあることが分かります。
では、現在のベトナム語辞典を見てみましょう(Hoàng Phê (chủ biên) (2015) Từ điển tiếng Việt, Nxb.Đà Nẵngより)。
このように、現在のベトナム語では肯定的意味と否定的意味の2つの派生的意味のみが残されていることが分かります。Twitterでは、一つ目の否定的意味のみ掲載し、二つ目の肯定的意味は口語的ニュアンスがあるということで掲載しませんでしたが、実際には相反する二つの意味を持つことが分かります。
それらの意味は元をたどれば、原義の「底まで→終わり・最後まで」という意味に行きつき、この「底=終わり」を最高値とするか最低値とするかによって、「最高の」「最低の」という意味が導き出されるということが言えそうです。
以上、まとめると現代ベトナム語における “đáo để”【到底】の意味は、以下のように図示できると思います。
ちなみに、現代韓国語についても「到底」が入る語を調べてみたところ、以下のような語と用法がありました。
2の意味については例文がないので何とも言えませんが、主要な意味の1番については、日本語の「到底」と同様に全て否定表現とともに使われており、その否定の意味を強める意味となっていました。
否定の強調の意味がでるのは、先ほどベトナム語でもみたように、「底」を否定的な意味として「最悪な状態」にたとえ、その状態に至ると解釈していると考えられます。しかし、現代日本語や現代韓国語では、「到底」は単独で形容詞や動詞のようには使えず、必ず他の動詞・形容詞を含む否定文において使われ、その意味を強める副詞的な用法となっているとまとめられると思います。
このように、日越中韓のそれぞれの現代語において、「到底」の意味は一見するとかなり違うものの、それらは全て原義の「底に至る」という意味からそれぞれ派生したものであることが分かりますね。
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