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東洲斎写楽 / メトロポリタン美術館
2021年12月18日(土)|平治物語と逆照射
本屋に立ち寄った際、講談社学術文庫から出版されている『平治物語』が目に入った。手に取らないわけにはいかない。
藤原信頼が源義朝と結託して謀反を起こし、信西入道を追い詰めて殺害するも、その後しばらくして平清盛率いる平家軍によって追討された、という「平治の乱」にまつわる軍記物語。
その本の最後の〈解説〉のところを読んでいると、『平家物語』に関連する興味深い現象についての言及があった。以下、引用ではなく記憶を頼りにした要約。
年代的には、『平治物語』が先に書かれ、その後しばらくして『平家物語』が記されたと考えられている(いずれも作者・成立年代は特定されていないが)。しかし、後に書かれた『平家』の記述に合わせて、先に書かれた『平治』の内容が一部改変され、その書き換えられた版が異本として広まったという。
〈解説〉では、この現象を「逆照射」という用語で呼んでいた。
異なる時代に書かれた2種類のテクスト間における影響について考える際、影響が作用する方向としては
【先に書かれたもの → → → 後に書かれるもの】
というのが順当。時間の流れに一致した、自然な影響の与え方といえる。しかし今回の例では
【先に書かれたもの ← ← ← 後に書かれたもの】
というように、時間的な流れとは逆向きの方向で影響が作用している。だから「逆(照射)」というのだろう
異なるテクストのあいだで交流があり、しかも、年代的に後に書かれたものが先に書かれたものに影響を与えていた、いうのは興味深い。