動物言語学について
本記事は動物や昆虫が発生させる音とコミュニケーションについて記す。
主にNHKで放送された内容を紹介し、若干のコメントを記載する。
参照した資料
(テレビ番組)
c1 2020 1025 NHKE サイエンスZERO カラス 驚異の知力に迫る
c2 2021 0523 NHKG ダーウィンが来た! 聞いてびっくり!鳥語講座
c3 2021 0912 NHKG ダーウィンが来た! 鳴く虫の演奏会
c4 2021 0913 NHKBS-3 ワイルドライフ 軽井沢 言葉でつながる小鳥たち
c5 2021 1205 NHKE サイエンスZERO "動物言語学"の幕開け
本文中に上記 c1-c5 で出典を示す。
シジュウカラ語
京都大学の鈴木俊貴さんの研究成果です。把握している限り、2021年度にNHKで3回も取り上げられていて(c2,c4,c5)、注目度の高さがうかがえます。本記事タイトルに使用している「動物言語学」という語は鈴木俊貴さんが提唱している学問分野とのことです。
シジュウカラの混群の仲間
エナガ ヒガラ コガラ メジロ ゴジュウカラ シジュウカラ ヤマガラ コゲラ
シジュウカラの語彙
シジュウカラ語の4つ例(S1-S4)を以下に示す。
S2「ヒーヒーヒー」
「ヒーヒーヒー」には混群内の種を超えた共通点があるらしい。タカ(鷹)などの猛禽類に聴き取りにくい7KHzくらいの周波数帯で鳴くとのこと。(混群のメンバーには聴こえるが、タカに聴かれない)(c2)
S3「ピーツピ」
注目すべきは 単語S1 に対して、連体修飾語のような働きを持つ「ピーツピ」を前に付けることで、「警戒しながら」+「集まれ」を実現している点にある。
おそらく、古くは「ツピー・ツピー・ツピー・…」と連続音だった形から特徴的な連結点部分の音節「ピーツピ」を切り出して、それ単体で事足りるように情報共有の仕方が進化したのではないかと想像する。
人間の言語進化においても、ある時期までは連続音を切り出すというフェーズがあった(*1)と思われるが、それは鳥も同様なのではないか?いずれにしろミラーニューロンが関連してそうな気がする。
S4「ジャジャジャジャ…」
「ジャジャジャジャ…」は擬音語っぽい。日本語でもヘビ(蛇)の音読みは通常「ジャ」と読む。ヘビは、鳴き声を出さないが、尻尾を震わせて(節を摩擦させて)「シャーッ」と聴こえる威嚇音を発生させるらしい。中国語普通話の発音では「蛇」は /shé/ であるが、これも擬音語由来の発音であると思われる。
中国語音読みで「シャ」や「ジャ」と言うのと似て、シジュウカラ語でも「ジャ」を連続音にすることでヘビの存在を意味する。この点でも人の言語と鳥の言語が近い感じがする。将来的にシジュウカラ語は
「ジャジャジャジャ…」 →「ジャジャ」(2回だけの繰り返し)
のように音声の短縮化が起こるかもしれないと想像する。
どうやって言葉を学ぶ?
混群の言葉を学ぶ学校
カラ類の子は巣立ちから一ヶ月程度、親と一緒に行動し言葉を学ぶ。親がヘビを見つけて鳴く声を子が真似して鳴く。そこに混群に属するほかの子たちも集まって、ほかの種の「ヘビだ」に相当する言葉を覚えていく。(c2,c4)
上記から、ある動物種と似た種が周囲に存在することが言語進化を有利にさせる働きがありそうだと想像したくなる。ホモ・サピエンスも誕生当初はエモ・エレクトスなど他の人類と共存していたし、3万年前まではネアンデルタール人と共存していたとされる。
言葉以前の行動
次のような行動がシジュウカラで観察されている。
ヒナ(雛)が居る巣にヘビが近づいて来た時に、親鳥が巣穴のヒナに向かって大声で「ジャージャージャー」(ヘビだ!)と鳴く。
ヒナのうち数羽はその鳴き声に反応して巣穴を飛び出す。(巣立ちの時期より早い段階で、まだ飛べない状態であるにもかかわらず)
ヒナはヘビを見たことがないのに、「ジャージャージャー」(ヘビだ!)に反応する。この行動は、ヘビが巣穴に入ると必ずヒナが食べられてしまうため、ヒナが未熟であっても強制的に巣立たせる対応とされる。(この行動はシジュウカラでしか見つかっていないらしい)(c4)
シジュウカラ以外の単語の例
混群内のカラ類の鳴き声がいくつかテレビ番組内(c2.c4)で紹介された。
「集まれ」を意味する鳴き声は以下のように紹介された。
本来、鳥の鳴き声をカタカナでは表現しきれないと思うが、強いてカタカナで表現すると上記のように聴こえるという1例を示していると考えたほうがよい。
シジュウカラ語を理解するエゾリス
エゾリスはシジュウカラ語を利用しているらしい。北海道帯広の森にいるエゾリスが、シジュウカラの鳴き声「ヒーヒーヒー」(鷹が来た)に反応して、即座に身を隠す行動をとることが紹介された。(c2.c4)
シジュウカラの方言
生息環境が違うことで鳴き声にも違いがあることが紹介された。(c4)
石垣島のシジュウカラ(本州のシジュウカラより身体が黒い)の鳴き声は高い音質を使っている → 亜熱帯特有の大きく分厚い葉っぱに反射しやすいようにするため
東京のシジュウカラの鳴き声は高い周波数を使っている → 騒音に紛れないように工夫された
カラス語
次の番組で紹介された内容のうち、鳴き声に関する部分を記します。
c1 2020 1025 NHKE サイエンスZERO カラス 驚異の知力に迫る
杉田昭栄 さん(宇都宮大学名誉教授) 、塚原直樹さんの研究の事例として、カラスの鳴き声のパターンが紹介されました。(以下、太字ローマ字部分は筆者(LangDicLab)による。放送内では音声が示された。)
虫の音
次の番組で紹介された内容を記します。
c3 2021 0912 NHKG ダーウィンが来た! 鳴く虫の演奏会
鳴く虫の基本情報
鳴く虫の基本情報は以下です。
✔ 鳴く虫は、コオロギ、スズムシなど 230種以上とされる
✔ 虫の音のほとんどはオスが鳴らしている(メスへの求愛行動)
✔ 夜に鳴き、昼は鳴かない
✔ 耳(聴覚器官)は前足にある
✔ 片足に鼓膜が2つあり、両足で合計4つの鼓膜を持つ
音のパターンと表記の例
日本鳴く虫保存会 酒井晴彦さんが足柄平野で鳴く虫を探す様子が紹介されました。
✔ マツムシ →「チンチロリン」と表現される
✔ カンタン →「リリリリ...」と聴こえる
✔ クツワムシ →「ジギジギジギ...」と聴こえる
✔ スズムシ → 「リーン、リーン、...」と表現される
音の鳴らし方
左右の羽にコスリ器とヤスリ器と言われる部分があり、それらを高速で摩擦(毎秒60回)させることで音を鳴らしている。周波数 4.5KHz(毎秒4,500回の振動)。羽を広げて立てた状態で摩擦することで音を共鳴させて後方に向けて音を出す。
その他の情報
森林総合研究所 主任研究員 生物音響学会会長 高梨琢磨 博士 によると、キリギリスの仲間はジュラ紀から耳を発達させてきた、とのこと。
音声コミュニケーションの専門家 角(本田)恵理 博士によると、発音間隔が狭く頻繁に鳴くオスのほうがメスに好まれる傾向がある、とのこと。
動物の鳴き声を出す道具
参考情報として動物の鳴き声を真似する道具についてメモを記す。
バードコール
鳥の鳴き声をまねて野鳥を呼ぶ道具で、一般に木材に穴をあけ金属のネジを差し込んだものを言う。ネジを適度にひねりながら利用する。カラ類がよく反応するとされる。
鹿笛
オス鹿が求愛の時に出す鳴き声を真似するために作られた笛。主に狩猟の時に利用する。
脚注
(*1) 人間の言語進化においても、ある時期までは連続音を切り出すというフェーズがあったと思われる点については、別記事(↓) の参照をお願いします。
改訂(Revisions)
2021 1210 改訂
✔ タイトル変更 「鳥の言語」→「動物言語学について」
✔ 内容を全面的に見直した
2021 1130 改訂 カラス語 を追加
2021 0523 初版
(以上)