文明直前の集落と温泉利用
この記事では、文明直前の定住集落(プレ文明の集落)について記す。
主に、「どうせ住むなら温泉の近くが良くないですか?」という視点の重要性を記載する。
なお、本記事中の時代に関する用語について、
✔ 先史時代とは、7万年前~1万年前ごろを指す
✔ 旧石器時代とは、4万年前~1.6万年前ごろを指す
ものとする。
また、温泉・間欠泉・湧水池点などその場所・地点に特有な現象として存在する自然資源をまとめて地質資源とする。
地熱・温泉の重要性
どこに住みたいか?という視点
先史時代はほとんどの時期が氷期に該当し、地球のほとんどの場所で現在より寒かったと想定されている。それにもかかわらず、ユーラシア大陸では、より寒いと思われる大陸北部への移動が起こった。
先史時代や石器時代のこととなると現代人の想像力はかなり鈍ってしまう。
ただ、よく考えてほしい。
・一定期間滞在する場所を決めたい。
・似たような条件の候補地 a) b) c) がある。
・c) の近くに美味しい水(湧水)と温水(温泉)が無料で自由に使える場所がある。
上記の場合、間違いなく c) が良くないですか?
先史時代の人も当然同じだったと思われる。
「定住するとしたら、どのような場所を定住場所として選ぶか?」という視点はとても重要だと考える。
天然資源として太陽と温泉の違い
自然界で熱を供給するものは主に以下がある。
a) 太陽光による熱
b) 地熱(地球内部のマグマやプレート運動に由来する熱)(= 地質資源)
c) 焚き火など木材等を燃やすことで得られる熱
a) b) は 天然資源であり、c) は意図的に得られる熱源である。
天然資源である a) b) の利用に関して質的に大きな違いがある。
a) は 人類を含めすべての生物に平等に利用可能
b) は その場所(存在)を知っている者だけ利用可能
ということである。
うつわと定住と神話の関係
旧石器時代以前(ほとんどの時期は今よりずっと寒い)には、現代のように熱水・温水を入手・利用することはとてつもなく困難であったはず。
安定して煮炊きができるようになったのは土器が流通するようになってから以降の話だと思われる。きれいな水が大量に目の前にあっても、十分な量を沸騰させるにたる適当なうつわ(器)を持っていなかった。
そのような時代に熱水を利用できる場所を見つけた人は、英雄扱いされたのではないかと想像する。熱水が湧出したり、吹き出す場所(源泉・間欠泉)は
1 ) 大地のエネルギー(自然の神秘)そのものであり、その証拠であった。
2 ) 高温の熱水の場合は調理に利用できる。温水は入浴(湯治)や種々の洗浄にも利用できた。
うつわと定住は、それに対応した社会的ルールと神話を生んだのではないか? 以下のような段階を想定する。
縫い針の発明
縫い針の利用の証拠は5万年前ごろとされる。
(ロシア北部(アルタイ地方)のデニソワ洞窟)
人類史のうち7万年前のトバ火山噴火後の寒冷化する世界において、とても画期的な発明であった。高性能な衣服を身につけると、行動範囲や行動可能な時間がかなり増大したと想像できる。
熱水・温水の利用
火山の麓やプレート・断層の境界付近が人類定住の(文字どおり)ホットスポットであっただろうと想像する。食料を求めて移動生活するにしても、熱水ポイントなどの地質資源を知っているかどうかはとても大きな知識の差であったと思われる。
ここで強調したいのは、地質資源を継続的に利用するために、社会的なルールと神話の初期形態が生まれたのではないか?という点である。
とても利用しやすい地質資源があっても、大勢が同時利用できる訳ではないので、その利用に関して優先権や利用順序に関する取り決めが必ず必要であったと思われる。そのようなルールがなければ、地質資源を巡る争いが起きることは容易に想像できる。
よって、争いを避けながら地質資源を効率よく末永く利用するためにルールが必要になり、ルールを破る行為を禁止するために、「地質資源を神聖視し、神聖なものを軽視したり破壊する行動を抑止する」慣習が生まれたと想像する。それは、まさに神話の原始形態では?
神話には、禁忌を破ったものが不幸になる(=罰を与えられる)ことを伝えるストーリーが付き物である。それが地質資源を守るための「地質資源を権威付けするための装置」として機能したと考えられる。
土器制作と利用
土器を獲得することにより、はじめて熱水・温水の効率的な利用が可能となった。この段階では、火山や温泉から適度な距離に位置する場所が定住に好ましいと思われる。
鉄器制作と利用
鉄器制作については、鉄鉱石の入手において遊牧民的(nomadic)な人々が関わっていたようだ。鉄器制作に関して、馬の利用と騎馬民族が重要な役割を担ったことは間違いなさそうだが、本記事では深入りしない。鉄器普及後の生活は、かなり現代の生活に近づく。
定住化の段階をまとめる
移動生活から定住化へのstep
定住化のstepを以下のように想定する。
✔ 1) 地質資源の発見
✔ 2) 地質資源から適当な距離の場所を暫定的な定住地とする
✔ 3) 地質資源の共有 (※)初期の社会的なルール・神話形成へ
✔ 4) 土器の作成と煮炊き調理法の共有 (※)利便性に関する情報共有
上記のように、食料の調達から煮炊き調理法が定型サイクル化した生活を行うようになると、逆に定住を続けたいという圧力が高まったと思われる。食材が豊富な土地であれば、わざわざリスクを伴って移動生活するよりもその土地に住み続けて、土地に愛着を持つ感覚が生まれたと思われる。
定住維持のための行動様式
定住生活が安定すると、定住集落を維持していくために以下のような行動様式ができたと想定する。
✔ 天候不順に対応するために祭祀が必要になった(モニュメントの作成)
✔ 広域な集落間の連携 (※)初期の共通言語が拡散する
✔ 堀や城柵など境界線の設定(初期の都市的な集落へ)
✔ (集落維持・拡大のために)初期農耕へ
プレ文明候補地の例
ユーラシア極東エリアを例として示す。
上記の赤線の内側がアムールプレートを示す。
左上からバイカル湖、モンゴル、中国東北部を通り朝鮮半島の左側を通る。
大まかにはプレートに沿って、火山や地熱エリアが点在する。そのようなエリアにプレ文明の集落が生まれやすかったと考える。
中央の黄色印の箇所が遼河文明の初期の文化である興隆窪文化の場所である。興隆窪文化(遼河文明)はプレート境界や火山から適度な距離感の場所に立地している。
世界のプレ文明の候補地
いわゆる「文明」とは、プレ文明集落システムの拡張であり、それらを真似したり、取り込んだりして成立していったと思われる。
ほとんどのプレ文明は火山や温泉から適当な距離にあったと思われる。ここには、世界のプレ文明の候補エリアをいくつか記載する。
ユーラシア中央部
✔ アルタイ山脈 デニソワ洞窟周辺
✔ カザフスタン(Kazakhstan)
(※)古くから鉄鉱石利用 ヒッタイトやスキタイの元になったかも?
アルマトイ(Almaty)~チュンジャ温泉(Chunja hot springs)
✔ キルギス(Kyrgyzstan) イシク・クル湖(Issyk-Kul)
✔ ウクライナ ビルスクヒルフォート(Bilsk Hillfort,Ukraine)
アナトリア(トルコ)周辺
✔ アララト山(Mount Ararat) およびアルメニア高原(Armenian highlands)
✔ ネムルト火山 (Nemrut(volcano))
(※)世界遺産のネムルト山ではなく、火山のネムルト山。
名前は旧約聖書の「創世記」ニムロド王に由来するとされる。
(※)ギョベクリ・テペ(Göbekli Tepe) の成立と関連あるのでは?
地中海周辺
✔ イタリア半島全体
(※)アペニン山脈(Apennine Mountains)の東側が
ほぼプレート境界(Adriatic Plate)
(※)もともと地質資源(地熱利用ポイント)が豊富であったと思われる。
特に以下の地域が古代ローマ以前のプレ文明の可能性がありそう。
✔ 中部ウンブリア州(Umbria) 特に、アッシジ(Assisi)周辺
✔ ナポリ(Naples) 周辺
✔ ターラント湾(Gulf of Taranto) 特に、古代シリバス(Sybaris)周辺
✔ シチリア島(Sicily)
(※)エトナ山(Mount Etna) と シャッカ温泉(Terme di Sciacca)
ユーラシア極東および日本列島とその周辺
✔ アムールプレートのプレート境界エリアおよび火山周辺
(※)Fig02 アムールプレートと火山と文明 を参照
✔ 北海道の阿寒湖 屈斜路湖 摩周湖 周辺 (※)カルデラ由来地質資源
✔ 十和田湖周辺 (※)カルデラ由来地質資源
✔ 諏訪
✔ 富士~箱根エリア (※)カルデラ由来地質資源
✔ 熊野
✔ 出雲
✔ 阿蘇 (※)カルデラ由来地質資源
✔ 鹿児島 (※)カルデラ由来地質資源
北米~中米
✔ メキシコ中央高原
(※)ポポカテペトル(火山)周辺の地質資源が定住を促進させた
(※)後のテオティワカンなどメソアメリカ文明に大きく影響した
南米大陸
アンデス山脈の太平洋側の火山帯が文明の形成と関係している可能性が高い。
脚注(Footnote)
[1] East_Asia_topographic_map.png from Wikimedia Commons
Author=Ksiom Date=2008-08-17 Permission={{GFDL-GMT}}
改訂(Revisions)
2022 0105 改訂
✔ 章追加 「プレ文明候補地の例」(極東エリア)
✔ 画像追加 Fig02 アムールプレートと火山と文明
2022 0103 初版
(以上)