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キャリア・アンカーとキャリア・コンサルティング

 今年から、訓練受講前キャリアコンサルティングに従事しています。
 ジョブ・カード制度周知セミナー、キャリアコンサルティングを行う中で、エドガーH・シャインの「キャリア・アンカー」の理論を紐解いてみたくなりました。
 それは、クライエントが自身のキャリアで本当に求めているものは何かを探求し、明確にするには、どのような援助を行えば良いのか?
自分の微力な力量を上げるにも、キャリアコンサルタントとしての質の向上を図るにも、拠りどころとなる幹となるものはなんだろうか?
このような疑問がわいてくるからです。

 キャリア・アンカーの理論を確認します。
 個人が自分のキャリアを選択しなければならない場面に直面した時、いったい何をよりどころにすればよいのでしょうか。キャリア・アンカーは、その1つの答えとして、自分が本当に価値を置いていることは何かを知るための非常に有用なツールだと言っています。

1 キャリ・アンカーという概念の起源

研究でのインタビュー
①  どこの地域の学校に通っていましたか?どの科目が好きでしたか? その理由は?
②  最初の仕事は何か?なぜその仕事を選んだのか? その仕事に就いてよかったこと、悪かったことは何か?
③ 次の仕事は・・・・・・
④ 将来の仕事についてどんな考えを持っていますか?そのように考える理由は?
これらのインタビューを通して、被験者等のキャリアに関するセルフ・イメージが形成され、それがキャリア選択の際の道しるべや、足かせとなっていることが分かった。そのようなセルフ・イメージを、船の錨(アンカー)になぞらえてキャリア・アンカーと名付けた。

2 キャリア・アンカーの構成要素

被験者のセルフ・イメージは次の3つの要素によって構成されていた。①スキルや能力、②動機と目標、③価値観
もっとも重要なのは、どのようなキャリアを望むかということに影響する価値観ができていたことだった。

3 キャリア・アンカーの成立過程

自分が何を求めていて、何が得意で、どういった価値観を持っているかということは、社会での実際の経験からのフィードバックによって、はっきりしていくものである。経験を積めば積むほど、自分自身についての概念がより明確になっていく。
キャリア・アンカーが他の概念と異なるのは、成り立ちからわかるように、キャリアの中盤以降に適応される概念だということ。
歳を重ね、経験を積むことにより、自分が本当はどういう人間であるかが分かるようになる。

4 キャリア・アンカーの種類

①  専門・職能別コンピタンス
自分の得意な分野において、さらに能力を伸ばしていきたい。
自分の仕事を愛している。
重要なこと:自分の専門能力を成長させるような仕事の機会を得ること。専門分野の人々から評価されたいと思っている。
カウンセリングのポイント:管理職への昇進を望まない

② 全般管理コンピタンス
社内の様々な機能を統括する立場になりたい。
昇進と自分の裁量権がさらに増すことを望む。
ゼネラルマネージャーとして成功するために必要な適性
1 高いモチベーション(高い目的意識)
2 情報分析能力
3 1対1、グループでのコミュニケーション能力の高さ
4 感情のコントロール
カウンセリングのポイント:この4つを示して問いかけてみる

③ 起業家的創造性
学生時代からすでに起業し、自分のビジネスをする。
成功を目指して非常に努力する。何度失敗しても成功に向けて邁進する。
カウンセリングを受けない。(忙しい、自分のことは自分でする)

④ 保障・安定
保障と安定を望む。安定した給与・報酬、福利厚生の充実
組織の一員でいたい。
会社に対して忠誠心が高く、会社にも誠実な対応を求める。
日本人に多い。米国人に少ない。

⑤ 自律・独立
自営業やできるだけ自由が得られる仕事を求める。
研究開発部門、ある種のセールスマン等自分の仕事は自分の自由にできる職を選ぶ。
自由を得るため、不安定な給与、福利厚生を受け入れる。
米国で増えている。
世界全体として自立・独立のタイプのキャリアに対して寛容になっている。
カウンセリングポイント:このアンカーの人たちと普通の人たちとの求める自由度には大きな差があることを肝に銘じておかなければならない。

⑥ 奉仕・社会貢献
自分のキャリアは、何か高い価値のあることに貢献しなければ意味がないと考えている。
給与や昇進よりも、自分自身にとって意味のある、奉仕や社会のためになる仕事をつづけていくことが重要。
企業内での典型的な職種として、人事部門で人を援助する仕事がある。

⑦ 純粋な挑戦
非常に困難な状況を乗り越えることを求めている。
誰も開発できなかったことを成功させようとするエンジニア。
勝つためにはどんなこともするスポーツ選手。
人との競争を求める傾向にある。
組織では、挑戦の機会を与える。

⑧ ライフスタイル
夫婦それぞれが自分のキャリアを持つようになると、夫婦それぞれのアンカー、2つのアンカーに対処しなければならない。
自分と家族のニーズを含む幅広い文脈の中で、自分のキャリアを位置づける。
本来の個人のアンカーを、仕事によって満たせなとき、特別な趣味を持って、自由な時間を持とうとするかもしれない。

5 キャリア・アンカーと職種

例)キャリア・カウンセラーのキャリアの志向は何かを尋ねた時
 ●サービス志向の人事部門タイプ⇒奉仕・社会貢献のアンカー
 ●専門性を求める
 ●独立して自由度を高める
以上のように求めているのは、異なる。
職種なりのアンカーがあるということは、言いたくなるが、それは間違いである。
職種のタイプが分かればアンカーが分かると考えてしまうような罠には、決して陥らないようにしなければならない。

6キャリア・アンカーの診断法

 対面でのインタビューが不可欠である。
質問紙による自己診断では、どのカテゴリーも同じ結果になりがちである。(①回答者が自分に正直でない場合がある。②現実の状況に選択をするわけではないので、すべての回答にイエスと答えることもある)
 インタビューの場合は、その人のこれまでのキャリアをすべてチェックすることになる。現実の世界でその人がとってきた行動は、その人のアンカーを表する。
 例えば、「エンジニアでもありたいし、マネージャーにもなりたい」
⇒「あなたは、10年後に、技術部門長と副社長のどちらになっていたいですか?」
 技術者:専門・職能別コンピタンス
 CEO:全般管理コンピタンス
自分のアンカーが本当はどういうものか、気づいていないことも少なくない。良いインタビュワーになるためには、選択肢を導く質問をうまく選ばなければならない。
その人が何かを選択しなければならない場合、どうしても譲れないものは何かを聞く。その答えがその人のアンカーを表す。

7 なぜ自分のキャリア・アンカーを知っておくべきなのか

①  自分のアンカーにあった仕事をすることがよい。
  キャリアの目標達成も可能である。
②  個人的な価値観も仕事によって満たすことができる。
  仕事のアサインや昇進など、何かを選ばなければならない状況下で最適な選択をすることができる。

8 8種類以外のキャリア・アンカーはあるのか

キャリア・アンカーの種類は、文化や技術の進歩によって変化する。
欧米では、これ以外のアンカーは見つからなかった。

9 キャリア・アンカーは変化するか

●人は、年齢を重ねるにつれ、成功を重ねるにつれ、自律性が増す。自由を求めるようになり、自由な仕事を作りだすこともある。
●専門・職能別コンピタンス:変わる可能性少ない傾向
●保障・安全:人生の後半にさしかかり、野心を持ち新しいことに挑戦したいと思うようになる人もいる。社会に貢献したい気持ちが強くなる人もいる。→奉仕・社会貢献のアンカーになっていく人もいる。
●家庭の事情に伴い、ライフスタイルのアンカーになるケースが多い。

10 キャリア・アンカーの目標

●一つの職種の中にも様々なアンカーの人が混在する。「このアンカーならば、この仕事が向いている」などとは決していうべきでない。
キャリア・アンカーを、職種を決めるツールとして使ってはいけない。
●キャリア・アンカーによって、自分自身を知ってもらうということが最も重要である。自分自身についてより深く知り、それによってよりよい人生の選択をしてもらうことである。
●キャリア・アンカーの目標は、「自分自身をより深く知ってもらい、自分の特質を伸ばしていってもらうこと。」

11 キャリアに関する新たな必要性

社会変化の著しい今日の状況では、ある特定のキャリア・アンカーを持っていたとしても、自分にそぐわない仕事もこなすことになり、自分のアンカーは趣味や副業等他の活動で満たす柔軟性が求められる。
例えば、保障・安定のキャリア・アンカーの人は、終身雇用などの安定した社会を望んでいるが、今日ダウンサイジングや、技術の変化、解雇者の増加等何を信じればいいのかと途方に暮れることもある。
キャリア・カウンセラーとして難しい仕事に
中堅クラスの方々に対して、ミスマッチの仕事にも備えるために、自身のキャリア・アンカーに合っている、いないにかかわらず様々なことに挑戦し、学び続けることを説得することである。

参考文献:キャリア・カウンセリングの進め方
〈キャリア・アンカー〉の正しい使用法
        エドガーH・シャイン著

 エドガーH・シャイン氏の言うキャリア・カウンセリングは、キャリア・コンサルティングを行う上でも重要なことを平易な文章で説明しています。重要なことを再確認し、理解を深めることができなした。また、キャリア・アンカーは、ジョブ・カードの意義とも親和性があり、理論を礎の一つにすることができると思います。
① キャリア・コンサルティングの中で、どのようなキャリアを望むかということに影響する価値観を重視すること。
② キャリア・アンカーを意識して相談に対応し、相談者が自分自身を深く知り、自分の特質を伸ばし、よりよい人生の選択をする支援をしていくこと。
以上を心してこれからの業務にあたりたいと思います。  

・・・04/08/26・・・