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「公正な移行」と国の役割

ここ数年、気候変動で重要視されているのは「公正な移行」。英語では「Just Transition」。
現状では企業に求められているように見えますが、気候変動が国家的、世界的な課題であることを考えると、国の支援なく「公正な移行」を企業だけで対応するのは荷が重すぎる気がします。

2050年にネットゼロですから、GHG排出量の多い産業は排出量を大幅に削減することを求められます。産業そのものがなくなることにも繋がりかねません。
良く言われる例ですが、EV化によりエンジンが不要になるとエンジンに関係する産業(エンジンそのものだけではなく、変速機や排ガス浄化機器など)に携わる企業の仕事は消滅します。
このような、気候変動対応に伴って、所属する企業やセクターが消滅し、職を失う人たちに対して適切な対応を行うことを「公正な移行」と呼んでいます。
配置転換や新たな職業訓練などが想定できますが、この「気候変動の移行戦略」を適切に設定して実行することが極めて難しいことを、下記の記事は示しています。

・LSE ポート・タルボットはネットゼロへの公正な移行の必要性を示している

少し古い記事ですが。この記事ではイギリスのポート・タルボット(先日亡くなった、タタさんが買収したタタ製鉄の製鉄所)にある高炉を閉鎖することに伴う失職の可能性について論じられています。もし、高炉が閉鎖されると、そこで働く約2,800人の直接的な雇用が失われ、サプライチェーンではさらに多くの雇用が失われるとされています。

高炉の問題は、数十年前、日本の鉄鋼業でも問題となり、実際に高炉を閉めた町は衰退しています。ただ、日本の場合は簡単に人員整理ができないことや、特に鉄鋼業のようなインフラ業では企業側に従業員や地域に対するある種の責任感があり、配置転換等で対応をしてきたと記憶しています。
これがペイオフが簡単にできるアメリカやイギリスでは大きな社会問題になるのは当然でしょう。

しかし、昔のような体力も無く、経済成長が全てを癒してくれる時代は過ぎ去ったことを考えると、日本企業に以前のように対応できる余裕はあるかは疑問です。
ガバナンスコードの中に含めるくらいで強制させても、経営層は中々動けないでしょう。まして、「公正な移行」戦略の策定が、もっぱらIR室やESG担当部署に向かって要求されていることには違和感があります。

明らかに一企業の範疇を超えた課題であり、産業の大きな転換点での雇用政策だと考えると、国の責任のようにも思えます。実際、日本がエネルギーを石炭から石油に転換する際には、当時の通産省が汗を流したことは小説にもなっています。
ネイチャーポジティブ経済検討会の次は、公正な移行検討会を期待します。まさに、省庁横断テーマですし、民間企業も参加意欲はあると思います。