見出し画像

自然資本においても「公正な移行」が必要であることを示したEUDRの実施延期

EUDRの1年延期に対しては、多くのNGOから批判が出ています。
しかし、一方でこれらのNGOが、ネイチャーポジティブに伴う「公正な移行」について、どう考えているか、を表明していないことに懸念を感じます。

たしかに、森林破壊を止めることは必要です。
Global Witness から出ている「EUの森林破壊防止法の延期案はパリの14倍の規模の森林破壊を引き起こす可能性がある」というレポートには、その深刻さが記載されています。

例えば、EUDRの1年延期により、
・EU貿易に関連した森林破壊が少なくとも150,385ヘクタール発生する可能性がある
・これは、パリの14倍以上の面積
・さらに、1億8800万回の長距離飛行に相当する炭素排出量を放出することにもつながる
のだそうです。
多分、事実でしょう。
しかし、同じように、現時点でEUDRが強行されれた場合、適切な売却先を失ってしまう小農園の数はどうして把握しないのでしょうか?
売却先を失い、自然環境への配慮を考えていないロシアや中東に売却先を変更することで(顧客から求められなくなることで)放棄されるサスティナビリティ活動の数はどうでしょうか?

繰り返しになりますが、自然資本は規制だけでは守られません。
レインフォレスト・アライアンやFSC創設の意義はそこにあったはずです。
規制では森林伐採は止まらない。だから、農家に適切な農業を教え、連作障害が起こることで隣の森林を燃やして畑を広げる必要がないようにする。サスティナビリティに関心ある顧客を獲得させることで、持続可能な農業で十分な収益が出るようにする。
エンゲージメントこそが解決策、と言うことではなかったでしょうか?
その他の多くのNGOも、そう言ってきたはずです。

気候変動では、ここ数年で「公正な移行」が強く言われるようになりました。
これは、気候変動によって(GHGを多量に出す企業の)職を失う人たちに適切な移行の配慮(要は新しい職場の提供)をしよう、という考え方だと理解しています。
もちろん、人権面での配慮の側面が大きいとは思いますが、「人権面に配慮しない反発」が、気候変動対応の一番の障害になると判断したのではないかと想像しています。

自然資本にも「公正な移行」の必要性はあてはまるはずです。
ネイチャーポジティブを進めるうえで、人権面への配慮、特に自然資本対応で職を失う人への配慮を欠くことが、一番の障害になるはずだからです。
そして、EUDRの1年延期は、まさにそれを示しているのです。
急がば回れです。
今からでも、「ネイチャーポジティブのための公正な移行」を、NGOこそが主導して進めるべきです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?