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借地のおはなし

  • 定期借地権のお話は、ここ(本ブログ内)では、省略します

  • 旧法借地権、及び普通借地権のお話となります


借地とは?

借地とは、建物を所有することを目的とした、土地の貸し借り(地上権・賃借権)のことを言います

契約期間は?

現在取引されている借地は、平成4年(1992年)7月31日までに初回の契約が成された、旧法借地権(賃借権)が多いです
こちらの契約期間は、木造(非堅固)で20年~鉄骨造や鉄筋コンクリート造(堅固)で30年~とされています

【非堅固建物で、契約期間の定めがない、又は契約期間が20年未満の場合】
→ 契約期間30年とされる
【堅固建物で、契約期間の定めがない、又は契約期間が30年未満の場合】
→ 契約期間60年とされる

平成4年(1992年)7月31日以降に初回契約が成された借地は、借地借家法による借地権(普通借地権)となります
こちらの契約期間は、建物の構造に関わらず30年~とされているため、昨年以降、借地権の満了となる契約が増加していることにより、今後の取引量は増加傾向にあると思われます

【契約期間の定めがない、又は契約期間が30年未満の場合】
→ 契約期間30年とされる

更新契約とは?

借地人さん、地主さん良好な関係を築いてこれたかどうかが焦点

契約期間が満了し、引き続き、建物を所有(居住)する場合は、改めて借地権の更新契約を行います

契約更新の際、一般的に、更新料を授受されるケースが多いです

更新時の話し合い(更新料の金額含む)もめてしまう場合(合意更新ができない場合)、
法定更新が適用されるため、借地人さんは、引き続き建物を所有(居住)することは可能です
地主さんは、更新料を受領できない理由だけでは(充分な正当事由あるとはみなされず)借地契約を解除することはできません。

更新料の相場は?

一般的に、借地権価格の5~10%と言われています

更新料の金額において、なるべく出費をおさえたい借地人さん、なるべく多く頂きたい地主さん、利益が相反するため、揉めることは少なくありません

ここで、よく、このようなお話を耳にすることが多いです
「そもそも更新料は、支払う必要はあるのですか?」

結論から申し上げますと、借地(土地賃貸借)契約書の内容次第となります
契約書に「更新料〇〇円を支払うものとする」、という具体的な記載がある場合は、借地人さんは更新料を支払う義務があると考えられます
反面、具体的な金額の記載がない場合(「適切な更新料を支払うものとする」)や、そもそも更新料についての記載がない場合は、借地人さんは更新料を支払う義務はないと解されることがあります

支払う義務がないのであれば、支払いを拒絶するとお考えになる借地人さんは一定数いらっしゃると想定されます
また、そのようなアドバイス(更新料支払いの拒絶をすすめる)専門家の方も一定数いらっしゃると推測されます

更新料は安いものではないし、お気持ちは理解できるのですが、本当に、それ(更新料支払いの拒絶)は最善のことでしょうか?

(詳しいお話は後述しますが)
借地の価値(借地人さんにとっての資産価値)は、地主さんとの関係性によって、優良資産にもなり得ますし、不良債権にもなる(どちらに転んでもおかしくない)ことは覚えておきましょう

更新料の支払いを拒絶した、その先

資産を、台無しにしてしまうリスク

借地人さん>>
「請求されていた更新料、支払いを拒絶したよ」

地主さん>>
「いつもお世話になっている借地人さんだから、金額を譲歩して請求したのに、一方的に話を切られてしまった」

一見、借地人さんが、有利な立場になったように見受けられます
はたして、本当にそうだったのでしょうか?
将来、予想されるリスクを推察してみます

借地人さん>>「建物が古くなってきたので、建替えをしたいな(又は借地権を売却したいな)」

地主さん>>「更新の際に、全く話を聞いてくれなかった人に対して、建替承諾(又は借地権譲渡の承諾)を与えるものか」

(地主さんと良好な関係を築いてこられた借地人さんにとってはトラブルにならないようなことが)
過去(更新時)のトラブルによって、地主さんの承諾を得ることができなくなり、建て替えをすることができない(又は借地権を売却することができない)ことにより、一気に立場が悪くなります

借地人さん>>「こうなったら、地主さんの許可を得る代わりに、裁判所の許可を得よう!」

地主さんの許可を得る代わりに、裁判所の許可を得ることを「借地非訟(しゃくちひしょう」と言います
裁判所から許可を得ることにより、地主さんの承諾を得ることなく、建替え(又は借地権を売却)することができるようになります
ですが、下記にようなデメリットが付いて回ります

  1.  ワケ有り物件扱い(紛争の恐れのある権利をすすんで買いたくない)

  2.  現金がある人しか買えない(買主が融資を利用できない)

  3.  (買主が)行政による、各種助成制度を、申請することができない

  4.  (今後、買主が)地主さんからの、各種承諾を得ることができる見込みが薄い

つまり、

  • 地主さんと揉めている借地権は、誰も買いたくない → 売却価格を下げる

  • 融資を利用できないため、購入できる層は限られる → なかなか売れない

  • 売却契約を締結できたとしても(諸リスクをはらんでいるため)、契約不適合リスクが残る(売買契約の解除等)

このようなケースですと、資産価値は半分以下になることは珍しくありません
状況によっては、資産価値はほとんどなくなってしまう場合も考えられます

借地権の価値(借地人さんにとっての資産価値)は、地主さんとの関係性によって、100にもなれば、0になることもあります
そのため、目先の利益だけにとらわれず、中長期にわたって、地主さんとの良好な関係の継続(資産価値の保全)に努めなければなりません

借地権の価値
= 物件自体の価値 × 〇〇%(借地人さんと、地主さんの関係性)

覚えておきましょう

更新後の、契約期間は?

旧法借地権と、普通借地権とでは、更新後の契約期間が異なります

旧法借地権の、更新後の契約期間は、従前の契約と同期間となります

普通借地権の、更新後の契約期間は、20年(1回目)、10年(2回目以降)となります。

建替承諾料の相場は?

スタイリッシュな、建物にしようかな

古くなった建物を建替えたい時、借地人さんは、地主さんの許可を得るとともに、建替承諾料を支払う必要があります

一般的に、建替承諾料は、
同じ構造体の建替えで、更地価格の3~5%
構造体を堅固へ変更(木造→鉄筋コンクリート造などにする)場合は、更地価格の10%を目安とされることが多いです

柱や梁を残すフルリノベーションは、更地価格の2%前後、
小規模なリフォーム(床の貼替、浴槽の交換、壁紙の貼替等)は、地主さんの許可は必要であるものの、建替承諾料は不要のケースが多いと言われています

借地権譲渡承諾料の相場は?

相続に備えて、借地権を売却

借地権を第三者に売却したい時、借地人さんは、地主さんの許可を得るとともに、譲渡承諾料を支払う必要があります

一般的に、譲渡承諾料は、
借地権価格の10%を目安とされることが多いです

借地権価格は、【更地価格 × 借地権割合】で計算することができます
借地権割合は、路線価図という書面に記載されているパーセンテージで、都内(23区)ですと、60%か70%のどちらかが多いです

例:
更地価格3,000万 × 借地権割合70% = 借地権価格2,100万
→ 借地権価格2,100万 × 10% = 譲渡承諾料210万

地代の相場は?

この借地に、自宅を建てよう

借地権を継続するにあたり、借地人さんは、地主さんへ毎月の地代を支払う必要があります

地代の算出方法は、いくつかあるようですが、最もシンプルな計算方法として、地主さんが支払う固定資産税・都市計画税の4倍程度を目安とすることができます

都内(23区)の一般的な住宅地、30坪程度の宅地ですと、2~3万円(/月)程度の設定を多く見受けます

建物買取請求権とは?

借地契約が満了したので、地主さんに建物を買い取って頂こう

借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないとき、借地人さんは自身が所有する建物を、地主さんに、時価で買い取って頂くことを請求することができます

ただし、以下の場合、借地人さんは、買取請求権を行使することはできません

  • 地代の不払い等(債務不履行)があり、契約を解除された

  • 合意解約により借地権を終了させ、かつ合意解約書の中で、建物を買取る等の特約を設けなかった

また、地主さんが建物を買取る場合、いつ新築されたのか分からない、とても古い建物で、価値がないと思われていたとしても、
当該場所(借地)の利用価値(駅から近い、環境が良いなど)が考慮され、更地の10~30%程度を建物価値として認めるという、場所的利益という概念があるようです

建物が、朽ち果てたら?(朽廃)

長い間、お世話になりました

旧法借地権の場合で、かつ合意更新を行っている場合、建物が朽廃しても、契約期間満了まで、借地権は存続します
(地主さんと合意更新をしていない)法定更新の場合、建物が朽廃した時点で、借地権は終了します

建物が、天変地異等で、滅失したら?

朽廃と、滅失は異なります。
「朽廃は、老朽化」、「滅失は、天変地異や、火事など」を原因とします。

旧法借地権の場合で、かつ地主さんが異議を述べない場合、借地人さんは、原則建替えをすることが可能です。

建替え後の借地期間は、木造(非堅固)で20年鉄骨造や鉄筋コンクリート造(堅固)で30年とされています

普通借地権の場合、再築された日、又は承諾のあった日のいずれか早い日から、原則20年。

建替え後、地主さんが新たな契約期間(20年 or 30年)を認めない場合であっても、結果からすると、地主さんは正当事由無しに、借地契約を解除することはできないため、合意更新(又は法定更新)することとなり、借地人さんは、借地を追い出される心配はありませんので、その点はご安心して頂いて宜しいかと思います

ただ、どちらのケース(新たな契約期間を設ける場合、又は既存の契約期間を継承する場合)においても、建替承諾料と更新料のバランス(総額)について、地主さん、借地人さんの負担が、どちらか一方に偏らないように、事前に話し合いをしておくことが大切だと思います

尚、借地人さんは、借地上に、「建て替えを予定している旨の掲示」をすることで、建替えをするまでの(更地状態の)期間、第三者に対して、自身がもつ借地の権利を主張(対抗)することができます。
ただし、2年以内に再築し、建物の登記を完了させることが必要です

普通借地権の場合で、かつ地主さんの承諾なしに、建替えを行う場合、以下留意点があります
・初回の普通借地契約 → 契約期間満了日まで、借地権継続(即解除ではない)
・更新後の普通借地契約 → 借地権解除事由にあたる

借地契約の名義人と、建物の登記名義人が違ったら?

住宅ローンを借りやすくするために、建物を共有名義にしよう
  • お父さんが借地契約の名義人である借地に、子供名義の建物を建てた

  • お父さんが借地契約の名義人である借地に、お父さんと、子供共有名義の建物を建てた。

(借地人さん側に)故意に契約違反をしているという認識はない以上、珍しいことではありません

ただし、このような場合、故意・過失を問わず、「借地権の無断譲渡」とみなされ、借地権の解除事由に該当することになりますので、借地人の皆様は気を付けましょう。

「知らなかった」では、済まされません…

税金のことを少し

権利の移動の際は、贈与税、譲渡所得税などの税金が課されます
  1. (地主さんの承諾を得て)親の借地権を、子に譲渡する場合で、かつ適当な対価が、子から親に支払われない場合、子に対する贈与税が発生します。適当な対価が支払われた場合、親に対する譲渡所得税が発生します

  2. 地主さんの底地を、借地人さんが購入する場合、地主さんに対する譲渡所得税が発生します

  3. 完全所有権(地主さんから購入した底地+借地人さんが保有する借地権)を、借地人さんが、第三者に売却する場合、その売却時期が、底地購入から5年を経過していない場合、短期譲渡所得の税率が適用され、ざっくりですが40%程度の、高額な譲渡所得税を課されることになるので、注意が必要です

借地の由来

複雑になりすぎた、借地権

借地権は(戦後焼け野原となって)住むところに困った庶民を、土地を所有する地主さんが善意で土地を貸し出すことにより、日本の復興を支えたと言われています

善意(困った人を助ける)から始まった借地は、いつの間にか、借地人さんと、地主さんの椅子取りゲーム(権利主張の場)となり、こんなにも沢山のルールをつくらなければ、話がまとまらないという状態になってしまっています。

お金の心配はあります。
老後の心配は重々承知しています。
ですが、当初の共助社会の精神を思い出し、借地人さんと、地主さん双方が、良好な関係を保つことに日々の努力を注ぐことができれば、より安心な社会を実現させることができ、それこそが、私たちにとっての、本来の幸せに繋がっていくのではないでしょうか?

今日は、真冬のような寒さですね。
皆さま、ご自愛専一にて、お過ごしください。



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