イベントレポート📝【意思決定を直感に頼らない!】顧客ニーズをデータから見つける、シリコンバレー流「科学的思考」
皆さん、こんにんちは、こんばんは。ランサーズエージェントの織田です。
この記事では、ランサーズエージェントが行ったオンラインイベント
「【意思決定を直感に頼らない!】顧客ニーズをデータから見つける、シリコンバレー流「科学的思考」」
の内容をまとめて紹介します。
本日は西田様をお迎えし、シリコンバレーのデータ文化とデータを使った思考法である科学的思考についてお話いただきます。西田様はシリコンバレーでオラクル社をはじめ約20年勤務した後、現地で起業し、様々なテック企業と仕事をしてこられました。
シリコンバレーから次々と登場するサービスやプロダクトは、今や世界中の人々の生活に欠かせないものとなっています。これは「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる(ソフトウェア イズ イーティング ザ ワールド)」ことを表しています。
ソフトウェアによって、従来のハードウェアで成り立っていた産業が置き換えられつつあります。カメラ、電話、テレビ、スピーカーなどがソフトウェアによって進化し、ソフトウェアを作る企業が既存のビジネスを奪っていく構図です。
テスラのソフトウェアとデータによるイノベーション
この流れの典型例がテスラです。
テスラは電気自動車メーカーですが、iPhoneに車輪がついたようなものと捉えるべきでしょう。バッテリーで動くので、車全体をソフトウェアで制御できるのがポイントです。
テスラの車は常にインターネット経由でソフトウェアをアップデートします。ブレーキ性能や加速性能も向上します。まるで、スマートフォンのOSをアップデートするようなものです。
しかも、テスラの車には多数のカメラが搭載されており、常に走行データを本社に送信しています。自動運転の精度を高めるための貴重なデータとなります。この大量のデータを集めている点が他社にない強みです。
テスラはデータで勝負する
今やソフトウェアは当たり前となり、データをいかに集めて活用するかが競争力の源泉となっています。「データ イズ イーティング ザ ワールド」とも言えるでしょう。テスラは車の販売台数を伸ばせば伸ばすほどデータが集まり、さらに自動運転の性能が上がるという好循環(データのフライホイール)が回り始めています。
テスラにとって、EVは通過点に過ぎません。本当の狙いは車を起点としたエネルギーの垂直統合モデルにあるのです。ソフトウェアとデータを駆使して製品を進化させ続けるテスラの手法は、自動車産業のみならず、あらゆる業界のものづくりに大きな示唆を与えています。
データ循環にうまく参入することで、他の企業に比べて圧倒的な成長を遂げることが可能です。しかし、この循環で重要なポイントは、単に多くのデータを収集し、プロダクトを改善することだけではありません。以下に、この点を詳しく解説します。
現代では、オープンソースのテクノロジーが充実しており、エンジニアがソフトウェアを作成し、ユーザーが使用することでデータを収集するのは比較的簡単です。しかし、これだけでは十分ではありません。集めたデータをどのように学び、活用するかが重要です。
シリコンバレーの企業の多くは、この点で非常に強力です。例えば、Netflixの話を見てみましょう。
データ循環による企業の成長戦略とコンシューマサイエンスの重要性
多くのデータを収集しても、それを活かせなければ意味がありません。シリコンバレーの企業の多くは、この点で非常に強力です。例えば、Netflixの話を見てみましょう。
創業当時のCEO、リード・ヘイスティングは、「私はスティーブ・ジョブスのように顧客が何を求めているのかを直感的に理解するセンスはない」と述べていました。その代わり、Netflixは「コンシューマサイエンス(消費者科学)に頼る」と宣言しました。これは、顧客が何を求めているのかを延々と話すのではなく、テストを実施し、科学的にデータを分析する手法です。
コンシューマサイエンスの代表的な手法がABテストです。
例えば、ボタンの色を赤に変えた場合、サインアップが増えるのかをテストします。ランダムにウェブサイトにアクセスするユーザーをAとBのグループに分けて、どちらのページの方が効果的かを比較します。
テストの結果、赤いボタンのページの方がサインアップが増えたのであれば、それを全ユーザーに適用します。このように、ABテストを繰り返すことで、プロダクトの改善を科学的に進めていくのです。
シリコンバレーの企業だけでなく、Amazonのようにシアトルに本社を構える企業でもABテストは広く行われています。なぜなら、テストを実施することで、ユーザーの反応を科学的に分析することができるからです。これが「コンシューマサイエンス」の核心であり、企業の成長に寄与しているのです。
科学的手法とは何か?
まず、科学的手法とは何かについて整理しておきましょう。ここで取り上げるのは、ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンの考え方です。ファインマンは、「科学は疑う文化だ。宗教は信じる文化だ」と述べています。このコメントは、科学的手法の本質を非常に簡潔に表現していると感じます。
科学的手法のステップ
ファインマンが述べていた科学的手法は、非常にシンプルで明快です。それを次に説明します。
推測する(Guess)
まず、仮説を立てることから始めます。これは、「これが正しいのではないか?」という疑問から始まります。予測する(Predict)
仮説が正しければ、どのような結果が得られるかを計算や解析で予測します。比較する(Compare)
予測した結果と実際の世界で起きている事象を比較します。サイエンスの世界では実験を行うことが一般的ですが、実験ができない場合でも観察を通じて比較します。
この3つのステップによって、科学的手法が成り立っています。実際に仮説を立て、それに基づいて予測し、その予測を実際の結果と比較することで、仮説の正確性を検証します。これが科学的手法の基本であり、非常に重要なプロセスです。
科学的手法の重要性とそのステップ
科学的手法とは、新しい知識を獲得するための体系的なプロセスです。今回は、この手法がどのように実践されるのか、具体的なステップを説明します。この記事を読むことで、科学的手法に基づいた考え方や問題解決の方法について理解が深まるでしょう。
1. 仮説の設定と予測
科学的手法の第一歩は、仮説の設定です。何か疑問が生じたら、それを仮説として定義します。そして、その仮説に基づいて予測を行います。この時点では、すべてはまだ頭の中や理論上の話です。例えば、計算や過去のデータに基づいて「この条件でこうなるだろう」と予測します。
2. 検証と実践
次に、この予測が実際に現実世界でどのように起こるかを確認します。このステップが検証です。予測が現実と一致するかどうかを確かめます。具体的には、実験や観察を行い、予測と現実の結果を比較します。
3. 結果の評価
実験結果や観察結果が予測通りであれば、その仮説は検証されます。一方、つじつまが合っていない場合、その仮説は間違っていると判定します。この結果に基づいて、元の仮説を棄却するか修正します。
4. 循環的なプロセス
科学的手法は一回で終わるものではなく、繰り返し行われるプロセスです。仮説が検証されても、さらなる疑問や異なるケースが出てきた場合、再度仮説を立て、予測し、検証します。このループを繰り返すことで、知識や理論が洗練されていきます。
5. 科学的思考
このプロセスは、リチャード・ファインマンが言ったように、「予測が現実に一致しないなら、それは間違っている」というシンプルな原則に基づいています。しかし、この原則を受け入れることができない人も多くいます。実際に予測と検証結果が一致しないと、それを認めずにさまざまな言い訳をしてしまう人もいます。これでは進歩がありません。
結論
科学的手法は、仮説を立て、予測し、検証し、結果に基づいて学習するという、循環的なプロセスです。この手法を用いることで、私たちはより正確で信頼性の高い知識を得ることができます。科学的思考の本質は、現実の結果を受け入れ、それに基づいて仮説を見直し、洗練させていくことにあります。
ガリレオ・ガリレイと科学的手法の確立
科学的手法や実験による証明が当たり前だと思われるかもしれませんが、実はそうではありませんでした。人類の歴史の大半の期間において、科学的手法は普及していませんでした。この状況が大きく変わり始めたのが、ガリレオ・ガリレイの登場です。彼の業績が、私たちの現代科学の基盤を築く一助となりました。
当時、多くの人々が天動説を信じていました。太陽が地球の周りを回るという説ですが、ガリレオはこの考えに疑問を抱きました。彼はコペルニクスの地動説を支持し、これを証明しようとしました。
科学的手法の実践
ガリレオは議論や理論の全面対決ではなく、観察とデータに基づいて地動説を検証することにしました。彼は望遠鏡を開発し、太陽の黒点や金星の満ち欠け、木星の衛星などを観察しました。彼の観察によって、太陽が自転していることが証明され、これは地球も自転しているという考えを支持するものでした。
データによる証明
ガリレオは毎日、太陽の黒点の位置を記録し、その変動を観察しました。同じ形や間隔で黒点が現れることを確認し、これは太陽が自転している証拠であると結論づけました。さらに、この観察結果から地球の自転も自然なことであると証明しました。
当時の科学界や社会では、地動説は非常に受け入れ難いものでした。それでもガリレオはデータを通じて地動説を支持し続けました。しかし、彼の発言や発見は教会や権力者から反発を受け、最終的には軟禁されてしまいました。
自分の目で見て考える
ガリレオは、「どうして人は他人の報告だけを信じ、自分の目で観察しないのか」という問いを投げかけました。現代社会でも、メディアや専門家の意見を鵜呑みにする傾向がありますが、ガリレオが示したように、自分でデータを集め観察し、分析することの重要性を忘れてはいけません。
科学的思考と実験の重要性:Netflixの事例を交えて
科学的思考について話すと、「自分はすでにやっている」という反応がよくあります。しかし、実際にやっているのはほんの一部に過ぎないことが多いです。それは、仮説から予測を立てる部分に限られています。では、科学的思考が本当に実践されているのでしょうか?
仮説と予測
仮説から予測を立てることは、頭の中や理論的な話に過ぎません。これを「演繹」と言います。例えば、すべての人間が死ぬという大前提から、ソクラテスも人間なので彼も死ぬという結論を導きます。これはロジックを組んで演繹的に導かれる結論です。
このような演繹的な考え方は、アリストテレスの時代から信じられてきました。アリストテレスは、物体が地上に落ちるのは本来あるべき場所に引き寄せられるからだと説明し、重い物体は速く落ちると述べました。これが当たり前とされていたのです。
ガリレオと帰納法
ガリレオ・ガリレイが登場する16世紀になると、帰納法が注目されるようになりました。帰納法とは、観察や実験を通じて結論を出す手法です。例えば、異なる重さの物体を実際に投げてみて、その落下の速さを観察することです。こうしてアリストテレスの説が正しいかどうか検証したのです。
今日でも実践されている科学的手法は、予測を立てそれを実験で検証することです。しかし、多くの人が実際の実験やデータ収集を怠ることが多いです。ここでNetflixの事例を紹介します。
Netflixの事例:視聴者のリテンション
Netflixは以前、映画に対して五つ星評価システムを採用していました。しかし、高評価の映画を見た視聴者のリテンション(継続利用率)が低く、低評価のコメディ映画を見た視聴者のリテンションが高いというデータが得られました。
五つ星評価システムは、より高い品質の映画を評価するものでしたが、視聴者は実際には気軽に見られるコメディ映画を好む傾向があることがわかりました。これにより、Netflixは評価システムを見直し、現在のような単純な「いいね」か「よくないね」のシステムに移行しました。
科学的思考とデータの重要性
この事例からもわかるように、仮説を立てるだけでなく、それを実際にテストし、データを基に検証することが重要です。Netflixでは、五つ星評価システムが視聴者のリテンションにどのような影響を与えるかをデータで検証し、システムを改善しました。
このように科学的思考は、頭の中だけでなく、実際の観察やデータ収集によって初めて成り立つものです。仮説を立てて予測し、実際に検証することで、より信頼性の高い結論を得ることができます。
仮説検定とデータ分析:シリコンバレーの事例から学ぶ
科学的思考やデータ分析について話す際、仮説検定という概念が非常に重要です。仮説検定とは、統計学を用いてデータを基に仮説の真偽を判定するための方法です。これにより、ある現象に対してAが良いのかBが良いのかを確率論的に判断できるのです。
仮説検定とP値
仮説検定において重要なのがP値です。これは「統計的に有意」と呼ばれる値で、得られた差が偶然によるものではないかどうかを示します。例えば、エアB&B(Airbnb)などの企業では、P値を用いて統計的な検証を行い、その結果が有意かどうかを判断しています。P値が低いほど、その差は偶然によるものでないとみなされ、統計的に有意と言えます。
データの必要量とデザイン
仮説検定を行う際には、どれだけのデータが必要かを考えることが重要です。例えば、2%の差が統計的に有意であるかどうかは、データ量によって変わります。シリコンバレーの企業では、サンプルサイズを計算し、必要なデータ量を確保してからテストを行います。
データサイエンティストの役割
シリコンバレーのデータサイエンティストは、統計学とプログラミングの知識を持ち、仮説を立ててそれを検証し、得られた結果を解釈します。例えば、Netflixのプロダクトリーダーには修士レベルの統計学の知識が求められています。これは、データを基にした意思決定が非常に重要だからです。
高い報酬
このような特殊な知識とスキルを持つデータサイエンティストは高い報酬を得ています。例えば、Airbnbのデータサイエンティストの平均年収は日本円で3000万円を超えると言われています。Netflixではさらに高く、6000万円から7000万円近くに達することもあります。
データ分析の進化
データ分析のツールや方法は進化し続けています。昔は統計学者が手作業で計算を行っていた時代もありましたが、パソコンやオープンソースのソフトウェアの登場により、誰でも利用できるようになりました。これにより、より多くの人がデータ分析を行えるようになりました。
第三の波
私たちが今目指しているのは、「第三の波」です。第一の波は手作業によるデータ分析の時代、第二の波はコンピュータやプログラミングスキルによる時代でした。第三の波は、さらに高度な技術と知識を持ち、それを応用して新しい価値を生み出す時代です。
まとめ
仮説検定とは、統計学を用いてデータを基に仮説の真偽を判定するための方法であり、科学的思考の基本的な要素の一つです。シリコンバレーのデータサイエンティストが高い報酬を得ているのは、その重要性と難易度が高いためです。科学的思考を実践し、データを基にした意思決定を行うことが、現代のビジネスにおいて非常に重要となっています。
ご視聴いただき、ありがとうございました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ランサーズエージェントが開催するイベントについて】
ランサーズエージェントでは、フリーランスとして活動されるエンジニアに役立つ情報を発信しています。詳しくはイベントサイトをご覧ください。
▼Peatix(ピーティックス)
https://lancers-agent.peatix.com/
▼TECH PLAY(テックプレイ)
https://techplay.jp/community/lancers-agent
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー