恋愛のゼロ地点

 ゲイとして表立ってデビューして早3年。色々なことがあった。初リアルで待ち合わせ場所に行くと事前情報で知っていた本人写真とは違う人物が現れた。私が逃げようとすると腕を掴まれ「ここで逃げるなら詐欺罪で訴える」と言われ警察に行くか金を支払うかどちらかだと意味のわからないことをぬかしてくる人間に出会った。また、ある人との初リアルでも、待ち合わせ場所に行くと開口一番「君のうんちが欲しいんだ」と隠部からズボン越しでも分かるくらいに湿り気を帯びた、ジップロックを片手に持った男性と出会ったりと、それはゲイの業界という貞操観念もへったくれもないような世界を体験した。そのおかげか、わりと何があっても平然と「あー。そう言う感じね」と常識とは逸脱した人間と出会っても対応することができる様になったとは思う。

 しかしだ、未だに掴めないのがSNSや出会い系アプリでの駆け引きだ。僕は駆け引きにはめっぽう弱い。そもそも自身の恋愛観としては、イケる人にはイケる。好きな人にはとにかく好きと伝える。その上でお互いを知る中でここは受け入れらる、ここは妥協できないなど、自身の価値尺度と擦り合わせを行った上ではじめて付き合いましょう。となることがセオリーだと思っている。だから「好きだけどなぁ〜…」とか「キープもいるんだけど…どうしよう。」のようなことは起きないし起こしたくもないのが僕だ。しかしゲイの業界(男女の恋愛然りかもしれないが)ではそれは通用しない。お互いにイケたらとりあえずセックスをする。極端な話、相性が良ければもうその場で「付き合う」ということが成立してしまうのが業界の特殊性であるとも言える。そんな特殊性が故にSNSや出会い系アプリでの駆け引きも出てくる。

 某ゲイ向け出会い系アプリの9獣ではブリーディングと言うシステムが存在する。ゲイの方は勿論ご存知かと思うが、概略を説明すると、タイプの人間がいるとすると、その人への意思表示として「いいね」「お気に入り」「ブリーディング」という3段階の意思表示方法があり、「いいね」はボタンを押すだけで終了する。「お気に入り」は登録するとお気に入りリストという自身のユーザー画面内にタイプの人一覧を表示することができ、いつでも解除することができる。一方「ブリーディング」も基本的性能は一緒であるが、厄介なこととしてこれが一度押すと解除することができないのである。そのため、「お気に入り」で相手に意思表示して反応が無ければこちらとしてもタイプ外から色を求められるのも辛かろうと思い解除することが出来るが「ブリーディング」はできない。そしてさらに厄介なことが「レベル」が存在することだ。「レベル」を上げることでアプリ内の機能をフル活用できるメリットが存在する。まあ、出会い系のアプリとしてはさほどいらない機能ではあるためそこまでのメリットが無いのだが、人間の、ゲーマーの心境としてレベルは極限まで上げたいと言う思いが出てしまう。なんとも巧妙なアプリ制作会社の罠ではあるが、ゲイのアプリユーザーはこぞって罠だと知りつつアプリのレベル上げに精進しているのである。そのため一度ブリーディングしてしまうとその、不毛なレベル上げに加担してしまうのである。話は逸れたが、ざっくり言うといいね→お気に入り→ブリーディングの順でイケる相手に強い意志を伝えることが出来る。

 そこで一つの問題が生まれる。私の場合イケるかイケないかでの判断でしかないので基本的にはブリーディングするかしないかくらいの判断基準であるが、世の一般ゲイの中には「いいね」「お気に入り」まではするけど「ブリーディング」まではなぁ…。と考える人が一定数いると言う問題点だ。つまり、私が「ブリーディング」したとしても相手にとっては「ブリーディング」までの価値として認められていない場合「お気に入り」までで止まり、「ブリーディング」されないのである。

 ここでさらに問題なのが自分からアクションを起こした訳ではなく相手からアクションが「いいね」「お気に入り」までされた時である。この場合。私がイケると思う相手であれば単純にブリーディングをするが、体感2.3割で「ブリーディング」を返さない人間がいる。この場合相手の心理としては2つの可能性が考えられる。

①単純にイケるけど「ブリーディング」までの価値は無いと判断している。

②相手のタイプを利用したレベル上げの為の常套手段としてしている。

 ①はまだ、まだ…わかるが②はもれなく全員爆ぜて欲しいとすら思う。別に相手が好きでは無い、つまりリアルすら叶わない人間を誘惑しブリーディングさせられるという、言わば道具の様な扱いを受けているのである。流石に私にもプライドと言うものがあるため、憤慨する。正直なところ①の場合でもストレスはたまる。何故なら相手からアクションをしてきて、何故こちらが「うーん。まあイケるけど…ブリーディングほどでは無いなぁ。」と品定めをされなければならないのか。とすら思う。

 いずれにせよではあるが、アプリ運営会社も慈善事業ではないため、そう言った長期的にアプリを使ってもらう仕掛けは必要なことは重々承知しているが、それを逆手に取った、いわばロマンス詐欺紛いな行為はやめていただきたいものだ。

 そう言った行為が散見されるため、アクションを起こされても「あー。別にイケるけど駆け引きも面倒だしなぁ。」と出会う気すら失せてしまうのだ。まだ私は恋愛に置いてゼロ地点なのだ。いや、恋愛的駆け引き以前にアプリですら駆け引きもできない様なマイナス地点にすらいるのかもしれない。そんな私に恋人が出来る日は遠い先の未来なのかもしれない。。。

さいごに
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