ひつじの読了録

十二国記
「図南の翼」小野不由美著/講談社X文庫ホワイトハート
「白銀の墟 玄の月」一~四/小野不由美著/新潮社文庫
ネタバレあり

20210424 図南の翼

20210426 白銀の1

20210430白銀の2

20210430白銀の3

20210501白銀の4

連休中に、5冊を読み返した。

「図南の翼」は新潮文庫版ではなくホワイトハート。新潮社版にするときに、小野不由美は手を入れている。どこにどう手を入れたのかチェックはしていないが、少し硬くなった感じがする。なので、ホワイトハートの方が好き。
わかったつもりの賢い強気のお嬢様が、黄海を昇山の旅をして、様々な体験をする。しかし彼女はちゃんと学ぶ。知らないことがわかって、本質を学び取ろうとする。大人たちは学ばない。見栄や欲などがあるから。しかし、大人たちは、子どもだからと黙って言うことを聞け、とちゃんと説明しない。わからないと決めつける態度に彼女は我慢がならない。馬鹿にするなといつも怒る。この辺りの啖呵の切り方は心地いいくらい。
「子ども扱いするな」とグレタさんも怒っていた。子どもの直感を尊重すること、理解力を信頼すること、実はこれからの社会に本当に必要なことかもしれない。国を立て直すのに、海千山千の官僚たちを相手に、12歳の珠晶がどうやってやりくりしていったのかの物語も読みたくなる。
そしてもう一つのテーマが、奴隷や難民、マイノリティなどの存在。国が荒れると、天候不順等で飢饉になり、生きていけないからと故郷を捨て、流浪の民となる。あるいは借金のかたに奴隷となる。彼らの生きていかざるをえない状況を垣間見せる。主人は奴隷の献身を当然のものとし、彼らの心情などは顧みない。
そして、命令され慣れているから、十二歳の少女であってもきっぱり方針を示されると言うとおりに動くとして物語は進む。実際には、奴隷の間でもリーダーはいるし、危機的状況であれば、おのずとリーダーシップを発揮する人間が現れ、動く。物語でも、珠晶の提案に率先して従い、補佐し、全体をまとめる存在が暗示されている。
人は群れる。烏合の衆のようでも、そこには当然力関係が発生し、ある意味秩序ができる。声の大きいものが扇動することもできるが、みなの共感が得られなければ人は動かない。リーダーシップとは何かも考えさせられる。

「白銀の~」シリーズは、兵士と大将との関係性が大きなテーマになっている。単なる部下ではなく「麾下」という言葉が使われている。忠誠を誓う直属の部下。旗本というように大将のそばで、大将旗を支え付き従う者。
兵士は上司の言うとおりに動く。自分の感情、考えよりも命令を優先する兵士たちがいるからこそ、戦術通り戦える。思い通りに指揮が執れる。入隊後の訓練はどんな軍隊であっても、まず徹底して命令に反射的に従うことをたたき込む。しかし、奴隷との違いは、隊長が部下の命を預かっているという認識なのだろう。率先して戦い、兵士の心情に思いやることが、士気を高める事にもなる。それはその部隊の生き残りに関わることだが、そのことがより部下が上司に心酔する事にもつながる。
無敗の将軍として並び評される二人の将軍。ともに規律の厳しい部隊を指揮し、ともにたたき上げてきた麾下が何人もいる。方や王になり、もう一方はそれを裏切り偽王となる。自分を信頼する麾下には汚れ仕事はさせられないと思う偽王。しかし、徹底して信頼してほしかった、自分を説得してほしかったと思う部下たち。すれ違う思い。人を信じられず孤独になる偽王。
一方、行方不明の王の生存を信じ、地下に潜るその麾下たち。バラバラに行動していても、信念、王=大将への思いから、互いの信頼も崩れない。
忠誠心とは何か。上司が、王が、間違っていたら諫めるが、決断されれば有無を言わさず従うものとして描かれている。しかし、それではそのうち心が壊れて木偶になるか、仕事を手抜きするかになるということも暗示されている。ただ、兵士は仕事に手抜きはできない、手を抜いたら命はないから。
考えていくと、ぐるぐると混乱してくる。今の政府の役人たちは、偽王の下の官吏たちのようなものかもしれない、とふと思う。朝令暮改、期限ギリギリか過ぎた頃にくだる命令。無意味、非効率的、おかしい等々と思ってもやらざるをえない。先日の法案にいくつものミスがあった件は、官僚たちのサボタージュではないかと思ってしまう。
後半、自分の麾下を盗られたことが、離反の理由として語られるシーンがあった。自分を信じ付き従う者を粗雑に扱われること、それはすなわち自分を尊重しないことでもある。
まだまだ生煮えで、上手く言葉にできない部分がある。またいつか読み返して考えてみたい。

2021年には短編集が出る予定だというので、楽しみにしている。十二国のうち、まだ描かれていない国についても、柳の今後も、ぜひ物語にしてほしいと願っている。

2021/05/15記



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