ひつじの読了録
「ぼくは本を読んでいる。」
著:ひこ・田中 講談社
2021/10/03
ルカ、小学校5年男子。親の本棚で偶然見つけたカバーのかかっている古い本をそっと持ち出し読み出す。
その本のストーリーと、読みながら考えたこと、そして幼なじみやクラスメート、さらには両親たちとの対話が重ねられていく。ある意味上品な印象。淡々としていて感情を揺さぶるような大きな出来事も冒険もない。でも、本好きの私にとっては、そうそうと頷けることの多いお話だった。
友だちの名前をどう呼ぶのか、休み時間をどう過ごすのか、といったようなことから、登下校に通る道順やエレベーターの監視カメラとか、日常の些細な出来事を一つ一つ意識して考えたり、対話していく様子が描かれている。子ども時代の自分を思い出したりしながら読んでいた。
私も何度も読み返した子ども向けに翻訳された古典が取り上げられている。訳の違いによる言葉使いの違いとか、わからない漢字や単語は、都度調べるのか読み飛ばすのかとか。そして、読み終えた後に感想を話し合う面白さとか。いいなあと思った。
そう、それに刺激されて久方ぶりにこれを書いている。私は、カズサのように、本好きで1人で本を読んでいる子だった。でも、カズサのように自分からそうしたいと積極的に望んでいたのかというとそうでもない。でも、他の子たちと一緒にいても何を話して良いのかわからず、気が利かない子と思われているだろうなと思いながら、そばにいたことを覚えている。ルカが、前の学年で、クラスのリーダー格の子と一緒にいようとして、その子の好みにあわせていってしまう。それは無理をしていることで、相手もわかっているから、続かなかったんだって、思う。私は、その子たちが何を好んでいるかということすらわからなかった、というのが正直なところかな。この本は、静かな淡々とした語り口調で語っているけど、あるいはだからこそ、こちらの埋もれていた記憶を刺激してくる感じがあった。
ちゃんと世界を内包している本を読むことは、豊かな世界を旅するようなもの。だからその体験を話したくなる、共有できる人とおしゃべりしたくなる。私は、児童文学のことをおしゃべりしたくて子どもの本屋を始めたんだって、先日久しぶりに若い人に話して、とても楽しかった。
気負わずに、ぼちぼち読んだ本の感想を書いていこうと、改めて思っている。
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