恨んで羨んで焦がれている
わかれて、違って、終わってゆく。全部が嘘で、全部が本当だ。羨んでいたあの子も、きっと誰かを羨んでいる。そう思わないとやっていけない。だって、そんなのってない。
一生誰とも分かち合わない。同意はいらない。だって、誰だって色んなことが理解の範疇から飛び出している。自分以外はどうせ他人で、考えていることなんて本当にはわからない。ただ、許容しているような顔ができるかどうかでしかない。
より良い人生? ばかじゃないの。そんなもの幻だよ。産まれた時点でもう絶望で、それ以上もそれ以下もあるわけがない。目指す上なんてもの、どこにもない。後から来たものばかり先に救われるという場所に、本当の救いなんてあるもんか。
そうやって永遠に全てを恨んで恨んで憎悪して終わってゆく。もはやそれは、自分にかけた、日に日に濃くなってゆく呪いだ。楽しいも嬉しいも、その呪いよりも弱い力でしか起こらないから、どうやったって相殺されない。産まれたことが誤りであったという、世界への恨みと憎悪だけが残り続けて、業になってゆく。
全部に絶望して、ずっとずっと遠い昔から、自分を諦めている。期待してるような顔をたまにするのは、ヒトっぽいものであり続けるための弱さだ。そうして時折、寂しさに屈して、自分を哀れんだりするだけだ。
惰性で伸ばした髪の毛が、いつか悪魔との契約に使えるだなんて、子どもじみたことを思い続けるだけの人生だった。抱き続けたメルヘンは、膨れて膨れていつかきっとその首を絞めるのだろう。乱視でぶれたまあるい月が、その光が、友となる夜もある程度の、メルヘンだ。屋根の下に入ればもう見えず、朝になれば光も届かない。全部がまやかしで、演出でしかない。
帰る場所も帰りたい場所もない。会いたい人もそばにいてほしい人もいない。切望して切望して、与えられるためだけに振り撒き続けた愛情は、すぐに枯渇して、簡単に絶望に変わった。与えられることなど、ついぞなかった。そもそも、振り撒いていたそれは、愛だったのだろうか?
誰のことでも簡単に信じるのは、本当はみんなのことを疑っているからだよ。この世に正直者なんかいない。みんな嘘つきで、化かしあっている。紙のお金はそのうちきっと葉っぱに変わるし、小銭はきっと貝殻になる。みんなが平等だという夢を叫び続けるのも、そのうちに喉から血が出て、終わってゆく。
どろどろとした呪いを吐く口より、きらきらとした呪文を唱える方が好きだというのなら、そうしたけれど、何の効力も持たないものを誰も求めていなかったね。この口から出る呪文はただの祈りでしかなく、それが絶対的なものだと信じて期待したのは、そっちの勝手だったはずなのに。
誰かの絶望と怒りによって、幾度となく毟られた羽は不可逆で、いつの間にかひどく薄汚れたグレーになった。毎日毎日毟られ続けて、それでもテンシっぽいものでありたいと思い続けた。そうして次第に、あたり一面が赤とグレーでいっぱいになっていって、息をすれば羽にむせるようになった。
もう飛ばないし、誰の願いも懺悔も聞かない。あなたたちが縋って縋って吐き出し続けた澱は、浄化なんかされていない。こうしてどんどん沈澱していって、全部を濁らせていただけだったんだよ。あなたたちがゴミ捨て場のように使っていたそれに、勝手に期待したり絶望したりしたから、相応しい姿になった。それだけのことなのに! もう飛べないし、誰の願いも懺悔も聞こえない。
そうして、ヒトだったものとテンシだったものは、同じ白い部屋の夢を見た。哀しみも憎しみも寂しさも全部溶かして、許してくれる相手を待っていただけのふたつ。消費されることに疲れたふたつ。
けれど、白い部屋の中、ふたつは目も合わせず、声も交わさなかった。片方は救いに縋るつもりもなかったし、もう一方は、誰かの恨みを聞くのはもう嫌だった。
そうして時間を横たえるだけで、どちらかの意識が終わる時まで、きっと永遠に並行している。
そしてどちらも、互いが互いを満たしうることに気づかないままに、終わってゆく。誰も知らぬままに終わってゆく。
果たしてそれは不幸か幸福か?
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