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「昭和少年事件帳③」民放テレビ局開局にまつわる事件!
(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。
同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。
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今回の話、事件とまでは呼べないかも知れませんが、当時の私にとってはとても大きな出来事でした。
現在でも地上波のローカル民放放送局が全国最小の2局しかない宮崎県ですが、これはその2局目が開局した今から50年以上も前の話です。
当時、我が家にはまだ白黒テレビがありました。
いくら私の少年時代が古いとはいえ、70年代に白黒テレビを見ている家庭ってかなり少なかったと思います。
日本で本格的なカラー放送が始まったのは、1964年の東京オリンピックですので、我が家はその後、10年近くも白黒テレビで過ごしたことになります。
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のカバーが付いていました。
コレがあるとモノクロ画像も
なぜかカラーっぽく見えるんです。
何しろうちのオヤジ、戦後の極貧生活経験者だったので、『壊れていないモノを買い換える必要なし!』っていう考え方に一本、鉄骨のような固い芯が入っていました(笑)
ところが、そんな我が家にある日突然、カラーテレビがやってきたのです。
ただし、コレ新品じゃありません・・オヤジの知り合いが大きなテレビに買い換えたため、それまで使っていた古い小さな方を譲っていただいたのです。
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同サイズの小さなヤツでした。
それでも、もの凄く嬉しかった記憶があるのですが、コレが結果的に新たな悲劇に繋がるとは、この時は知る由もありません。
ではなぜ、我が家に中古のカラーテレビが来た話が悲劇の始まりになったのかといいますと・・
それは、知り合いの方がまだ壊れてもいないテレビを買い換えた理由にありました。
それが、宮崎第2の民放放送局であるUMKテレビ宮崎の開局だったのです。
それまで、宮崎で放送されていたのは、8チャンネルNHK総合テレビ、10チャンネル民放のMRT宮崎放送、12チャンネルでNHK教育テレビの3チャンネルのみです。
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1~12チャンネルは、いずれもVHF方式で送信されており、テレビのダイヤル式チャンネルのツマミを回すことで選局し視聴することができました。
ところが、UMKに割り当てられたのは、UHF方式の35チャンネルです。
つまり、12チャンネルまでしかダイヤルのなかった当時のテレビでは映らなかったのです。
手持ちのテレビを使って視聴するには、UHF専用の受信アンテナとコンバータと呼ばれる周波数変換器を外付けする必要がありました。
このため、なかには開局を機にUHFも受信できる最新型のテレビに買い換える家庭も多かったのです。
そうです!オヤジの知り合いも、まさにこのクチだったという訳です。
カラーテレビを譲っていただきありがたい話ではあったのですが、今思うに、もうこの頃には、我が家の白黒テレビに残された寿命も残り僅かだったハズなのです。
譲って頂く前に壊れていればUHFも受信可能な最新型のカラーテレビになるはずが、やってきたのは、まだ十分使える中途半端な中古のカラーテレビ・・そして、このテレビでは民放は1局しか映りません。
これを悲劇と呼ばずに何と表現すればいいでしょう?
映らないと思うと余計に見たい・・これが人間の真理だと思います。
オヤジに何度かアンテナ増設とコンバータ購入を直訴したと思いますが、『テレビは一台だけやぞ!見られる番組は一つだけ!チャンネルが増えても今と一緒で何もかわらん!』
・・という、正論のようで誤魔化しのような話で毎回、論破されていました。
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魚の骨みたいなUHFアンテナと
弁当箱サイズの(見た目ラジオ
のような)コンバータです。
確かに夜のゴールデンタイムのチャンネル選択権は、どの家庭でも大黒柱である父親が持っていた時代ですので子供はだまって従うしかなかったのですが、学校から帰ってから夕食までの時間帯は、子供にとってのゴールデンタイムだったのです。
見たいアニメや特撮が沢山放映されていました。
当然、学校での話題も8割がたはテレビの話です。
昨今のようなテレビ離れの時代が来るなんて想像も出来なかったですし、担任の先生からはテレビを見る1日あたりの時間を親と相談して決めるよう指導されていました。
結局のところ、時代によって対象は違っても今のゲーム機やスマホと同じパターンです(笑)
何はともあれ私の見ることの出来る民放は1チャンネルのみ・・これだけで戦場(学校)に向かいます。
持ってる武器(情報量)に限りはありますが、子供には、子供ならではの知恵があります。
登校すれば当然のように前日のテレビの話題になります。
“昨日のアニメ見たぁ~?”これが、VHF10チャンネルの放送番組なら、「見た!見た!」と即答できます。
でもそれが、UHF35チャンネルとなると・・「ウチのテレビじゃ見られんとよ・・」とは口が裂けても言えません!
ですので、見ることができなかったもっともらしい理由が必要になります。
そういう意味では、「昨日は父ちゃんが相撲を見ててさぁ~」とか、「高校野球やっちょったやろ~」って言えるときは何の違和感も疑問も持たれずにすみました。
この時代、この2つが放送されていれば子供のゴールデンタイムといえどテレビは絶対に父親のモノでしたし、ウチに限らず大概の家が同じ状況だったので言い訳としてはパーフェクトだったのです。
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(大相撲と高校野球)
ですが、問題はこれらのオヤジさん達向けの番組が放送されていない場合です。
“昨日のアニメ見たぁ~?”の問いに対し、「あ~、オレ裏の方を見てた~」もよく使う言い逃れでした。
なお、宮崎では現在でも民放視聴中に「裏にして欲しい」といえば今見ているのとは逆の民放を見たいことを意味します・・これって民放2局しかない宮崎アルアルです(笑)
ですが、毎回このフレーズの繰り返し(ワンパターン)ではいずれ35チャンネルが視聴できないことがバレてしまいます。
それだけはどうしてもプライドが許せません。だって同情や哀れみほど屈辱的なモノはありませんからねぇ~
とは、言ったモノの見てもいないのに話について行けるハズがなく、見破られるのも時間の問題だと思われるでしょうけど、人間追い込まれると新たな才能が開花します。
では、視聴していない番組の話にどう対応したのかお聞きください。
翌日早朝の教室での友人との会話です。
友人の方から、“昨日のアニメ(UMK)見たぁ~?”と聞いてきました。
・・ほら来た!
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この段階では謎だらけです。
「見た!見た!面白かったなぁ~」(見てもいないのに先ず見たふりをします。)
朝一番の話は7~8割、面白かった話に決まっていますし、友達の表情を見れば見当はつきます。
“主人公が穴に落ちたところがサイコーだったよなぁ~”
「オ、オウ、アレね~笑ったわ!」(そんなシーンがあったんだ・・これで一つエピソードをゲット!)
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次の友達には自分から声を掛けます。
「昨日のアニメ見たぁ~?主人公が穴に落ちたシーンがサイコーやったよなぁ~」
“ウン!その後、女の子に追いかけられるところも面白かったやろ?”(って具合に、2つ目もゲット!という訳です。)
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(ストーリーを頭の中で繋いでます。)
勿論、友達同士との会話にも聞き耳をたて、ストーリーを補っていきます。
アニメ自体は見ていなくても漫画雑誌とかは読んでいるので登場人物は頭に入っていますし、こんな会話を繰り返していると、何となく見た気になってくるから不思議です。
ですが、そんなある日、友達の家で遊んでいて、実際にそのアニメを見る機会に恵まれたのですが・・思わず「えっ~?」って変な声が出しそうになりました。
私が勝手に頭の中で描いていた主人公の声のイメージと声優さんの声がまったく違っていて驚いたのです。
想像力には限界があるってことですが、その後もこの調子でカラーテレビを買い替えるまでしのぎ続けました。
でも今にして思うと買い替えが意外に早かったような気もします。
あの中古テレビって、壊れたんだっけ?
もしかして、コンバータやアンテナ増設を断固として拒否してたオヤジも35チャンネル見たさに耐え切れず・・買い替えてたりして・・・