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「昭和少年事件帳⑭」謎の職業コウム・イン事件!

(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。

 同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。

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 今回のこの話、私が中学生になって直ぐの時期でした。

 始業前の時間帯だったか下校前だったかは忘れましたが、ホームルームでの出来事です。

 “全員、机に伏せて目を閉じるように!” と、担任の先生から指示がありました。

突っ伏して・・いるハズですが・・

 “今から簡単なアンケートを行います。自分が該当すると思ったら手を挙げること!”

 ”おい、そこっ薄目を開けて周りをキョロキョロしない!”

 ”しっかり目を閉じなさい!”って、言われて素直に従うヤツなんてホンの一握りでしょ。

 私はしっかり薄目を開けて、一部始終を目に焼き付けることにしました(苦笑)

目はしっかり明いてます。

 “今から、キミたちのお父さんの職業について尋ねます、お父さんがいない場合はお母さんの仕事でも構いません。”

 この時代、個人情報とかプライバシーへの配慮は希薄です。

 特に個人情報の管理は甘くてダダ洩れ状態でしたが、悪用されるとか拡散する心配や方法もなかったですからねぇ~

 なお、この机に伏せてのアンケートは当時頻繁に行われていましたし、もっとゲスい内容の時もありましたので親の職業なんてまだ可愛い方です。

 また、タイトルに事件と銘打ってはいますが今回は事件性は全くありませんし、危険性も皆無ですのでどうぞご安心ください。

 それではアンケートの開始です。

 “先ずは、お父さんが農家だという人!”
 私の生まれた町には農業以外の産業はほぼゼロです。

 大企業どころか法人と呼べるもの自体が少ないのです。

 つまり、先生としては最初のこの質問だけで8割の回答を回収することになります。

 私自身を含め当然のように一斉に手が上がりますが、コレに関しては何の興味もないので完全にスルーします。

 私の関心は残り2割の動向です。

 “では、会社員、サラリーマンだという人!”

 “自営業をしているという人!”

 いずれも、パラパラと手が上がります・・コレも大体予想した顔ぶれでした。

 というのが、彼らの多くは町の中心部に家があり、家の周りに畑がなく割と綺麗な現在風の家に住んでいました。

2階建でお洒落でした。

 更には子供部屋とかがあったりして、我々農家とは全く別の世界が広がっていたのです・・何で他人の家の間取りに詳しいか?

 ワタクシ、自慢じゃありませんが小学生時代から学校近くの同級生の家を代わる代わる訪問し一服させてもらうのが日課になっていたんです(笑)

 なお、アンケートの方はこの時点で既にクラスの9割以上が回答を済ませましたので、最後に”その他の職業の人!”で締めるのかなって思ったのですが、この後、更にもう1つ選択肢が残されていました。

 “では、コウム・インをしているという人!”

 ん?コウム・イン??・・それって何?

ん?コウム・イン?

 私この時、一瞬だけ肩がピクッと痙攣しました。

 聞いたこともない謎の職業「コウム・イン」に体が勝手に反応したんです(苦笑)

 恐らくコウム・インの最後のインは会社員の員と同じだろうと予測できたもののコウムの意味が分かりません。

 この時、2~3人の手が挙がりましたがその中に親しい友人はいませんでした。

 アンケートの終了とともにホームルームもお開きになりましたが頭にこびり付いたコウム員が離れません。

 こうなると、誰かに尋ねるしかないのですが、自分以外はみんな知ってる常識かも知れないと思うとブライドが邪魔して簡単には聞けません。

 そこで、親友に対して自らさり気なく(?)アンケートのことを話題にしました。

 「ヤスユキんとこのオヤジさん、コウム員だったんだねぇ~」

 “あ~さっきのアンケートね、アイツ手を挙げてたなぁ~オレも初めて知ったよアイツのオヤジがコウム員だったなんて・・”

 ですが、この後の会話が続きません・・こうなると、いかにも知ったようなふりして話しかけた手前「ところでコウム員って何?」とは、尚更聞けなくなりました。

 でも今にして思うと、親友の方も知ったふりしてただけの可能性もありますけど(笑)

 結局、この後も暫くは頭にモヤの掛かったような状態だったのですが、下校中には自分の中で一つの答えにたどり着きました。

 思い込みって怖いですね~、何故かその答えが徐々に確信に変わり、家に着いた時には堂々と母親に報告していました。

 「今日、親の職業アンケートがあったけど、大工や左官の子も何人かいたよ。」

 『大工や左官の子?あんたのクラスにそんな子いたっけ?』

 「ヤスユキんとこも大工とかじゃないと?」

 『え?ヤスユキ君とこのお父さんて役場勤めじゃなかったっけ?』

 「はぁっ??ヤクバ・・だって、先生がコウム員の人って聞いたらアイツ手を挙げてたけど・・」

 『あんた・・もしかして、公務員を何か他のモノと勘違いしてない?』

 「えっ!コウム員って、工務店の工員とかじゃないの??」

イメージしていた工務員です。

 そうです、私が少ない知識で導き出した答えは完全に間違っていたのです。

 コウムって漢字が「工務」以外にまったく思い浮かばなかったのですからどうしようもありません。

 大笑いしている母親にこのことは絶対に他言無用と徹底的に釘を刺しました。

 冒頭でこの時代には情報を拡散する手段はないと申し上げましたが、オバサンたちの噂話はその例外です。

 その広がる速さと拡張表現は、現代のネット書き込みに通ずるかも・・です。

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