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東大ロー既習対策

1 試験形式

 この度、2023(令和5)年の東大ロー既習に合格できたので(2023年の再現答案と点数に関しては以下の記事をどうぞ、合計187.3点で、現状良いのか悪いのかよくわからないです)私が思う東大ロー既習の特徴及び年度別の出題論点(演習時に拾えた論点)、それを踏まえた対策をつらつら書いてみます。思ったより長くなってしまった(というかバカ長い)のですが、目次から必要なとこに飛んで見ていただけたらなと思います。

https://note.com/lally_law/n/n2c2b3a120d14

 では、まず、形式面の話です。過去の入試結果(合否ライン等)については、東大ローのHPを参考にするなり、また、BEXAの藤澤先生がお書きになっているブログ
https://law-information2019.hatenablog.jp/entry/2022/12/12/232040

が、非常にわかりやすく、是非一読するのをお勧めします。

1 答案用紙について

 東大ロー既習(以下、全て既習の話ですので、単に「東大ロー」と言います)は「横30文字のマス目×縦40行」を第1面として、同じ形式の第2面がその裏面にあり、最大で合計2400文字書くことができます。十分な量に思えますが、実際は句読点や鉤括弧、条文番号やナンバリング等の数字をも1文字として書かなければならないので、かなり厳しい字数制限となっています。これは予備試験の形式に慣れている多くの方が苦戦するポイントかと思います。参考までに本番配布された「下書用紙」の画像を載せておきます(多分載せていいやつ)。本番、実際に答案を書く「解答用紙」と全く同一の形式内容です。

下書用紙の「第1面」(裏に全く同様の形式の「第2面」があります)

 しかし、そんな丁寧にマス目に収めようとしていたら字数・時間がいくらあっても足りないのも事実です。本番でも、私は、試験開始直後の最初のみルールを守っているような姿勢を見せ、答案作成の中盤からは時間不足、紙面不足が怖くなり、数字や鉤括弧に関してはガッツリマス目無視してしまいましたがそれでも合格していたので、保証はできないですが、合否には影響がなかったのだと推測されます。形式でストップがかかってしまい、最も重要な内容面が書けないのでは本末転倒ですから、厳密に気にする必要もないかと思います。
 ただ、最初からマス目を全て無視するのは印象が悪いので避けた方が無難でしょう。それで結果が変わるとは思えませんが、フル無視は最後の手段として取っておきましょう。私は民事系の最後の設問の時間が足りず、書き殴ったので、数字はおろか、日本語もマス目フル無視しましたが、他の部分はできる限りマス目を守ろうとしました。

2 試験時間について

 まず、先に言っておくと、(体感ですが)かなり厳しい時間制限であり、色々とイレギュラーな点が多いと思います。

(1)試験時間とその厳しさ

 東大ローは①公法系②民事系③刑事系という三つの試験の合計点とプラス内申点(どれほど評価されているかは不明ですが、志望動機や成績、英語力等)で合否が決まっていると思われます。
 ①〜③の各科目(もはや「各分野」ですね)の試験時間はそれぞれ70分です。短いです。自主ゼミ組んでた優秀な友人達も皆「はあ〜?終わるわけ」って感想が多かったですし、年によってまちまちですが基本的には、時間足らないです。内容面で後述しますが、①では憲法・行政法②では民法・商法・民訴法③では刑法・刑訴法それぞれが問われます。そして、それぞれの問題を構成する小問の一部が年によっては非常にとっつきづらく、非常に難易度が高いことがあります。もちろん、そういった問題だけでは当然適切な入試とは言えないですし、基礎的事項が問われる小問もあるのですが、設問番号が後半になればなるほど難しく応用になる傾向があるわけでもなく、設問1で意味不明な問題が出ることもまちまちですから、こういった誰もよくわからない問題に試験時間をもっていかれると、かなりタイトになることが予想されます。

(2)答案用紙との関係

 更に、上述したように答案用紙の形式に字数制限があり、マス目がありますから、これに合わせて1文字1文字書くのは実は非常に時間がかかるんですよね。そういった点から、個人的には予備試験よりも時間制限は厳しいものがあるともいます(時として、内容も)。

(3)変動する時間割

 年によって①〜③の試験の時間割は変動します。開始時刻も変動します。今年(2023)は13:00からのスタートでしたが、一昨年の2021年は12:30スタートです。また、2020、2019、2018、2017年は9:30に最初の科目が始まっています。どういうルールなのかよくわからないですね。
 つまり、最初の試験が公法系とは限らないですし、今年は民事→刑事→公法の順でしたが、これは多分来年変わります(まあ目次見ていただけるとわかりやすいかと思いますが、周期的に、多分来年の第一科目は、公法系で、次が民事系、最後が刑事系かと思います)。
 これらが記載された時間割は、書類審査(第一段階選抜)が終わり、受験票が送られて来る段階(今年は11月初旬に届き、第二段階選抜である筆記試験はその1週間後でした)で初めて判明します(ただ上述のように、科目は予想がつきます)から、朝が苦手な人にとっては「午前中の試験であること」が、本番たった1週間前に判明する可能性があると言うことです。一番この生活リズムボケが試験的にはやばいです。私は口述試験のホテルから帰って初めて確認したのですが、苦手な公法が最後で、かつ、午前中スタートでないことに非常に安心しました。

こういうのが送られてきます。シワシワですいません。

(4)プラスアルファ(令和5年に予備試験を受ける方向け)

 予備試験の日程を確認しましょう。令和5年から予備試験は例年から2ヶ月後ろ倒しになることが決まっていますね。論文式試験が9/9と9/10に実施され、その合格発表は12/21とされています。とすると、論文が終わった後、合格発表までの、論文受験者が何もしたくない時期に東大ローの筆記試験(及びその合格発表)が実施される可能性が高い(追記:11月11日とのことです。https://www.j.u-tokyo.ac.jp/law/admission/admission/)です。この時期にロー入試の勉強をするのは、メンタル的にそれなりにきついはずです。論文後、法律を見たくもないというのは多くの受験生が言ってることですが、これは私もそうでした。法律に触れると自分の間違いばっかり発見できてしまうので、やればやるほど悲しい気持ちになりました。
 これまでは、口述試験の実施後〜発表前に東大ローがあったので(これはこれで筆記試験の勉強が全然できない時期が3週間直前にあるのでキツいんですけど)まだマシだったかなと思います。
 つまり、何が言いたいかというと、予備試験(特に論文)の勉強を頑張って多少なりとも論文の手応えがあった方が前向きにローも受験できるということです。ロー入試があって、別に論文合格を目指していないからいいやと思う方もいらっしゃると思いますが、人間受けた後はもしかしたら受かってるんじゃないかなど欲が出て結果が気になって仕方ない生き物(私)です。だから、予備論文を受ける方は「今年はロー入試があるからそこそこでいいや〜」じゃなくて、ロー入試のためにも、論文試験を一生懸命悔い無く、オーバーキルしてやるんだという気持ちでやりきった方が結果的にダブル合格する可能性が上がるということです。

2 試験内容について

 次、試験内容についての話です。

1 全科目共通の難しさとその対策

 まずですね、非常に時間が足らない傾向にありますそこで「書ける小問から書く」というのが対策になります。なんだ〜当たり前じゃん〜って思うでしょうけど、結構これ、本番だと守れないがちです。受験生が「よくわからない問題」すなわち「重問でも(問研でも)論証集でもその他著名な参考書等でも少しも見たことがない問題」は基本的にすごくよくできる人を含めた「大半の受験生全員が同様の感想を抱く問題」ですから、こういう問題に時間をかけるのは試験戦略的に得策ではありませんし、できなくても、それで合否は決まりません。ですので、わかる問題、知ってる問題、筋が見えた問題をちゃっちゃとやること、これが一つ目の対策です。
 そのためには設問全体をすぐ見ることが最も重要かと思います。東大ローの問題は各小問が独立していることがほとんどでしたので、先に問いを見てしまいましょう。私もですがやっぱり1番から解きたくなるんですよね、でも、一見してよくわからない問題が10分後によくわかる状態になることって経験上ほとんどないですし、時間をかけるなら「皆が書ける問題をきちんと書いて相対的に落ちない状況を確保してから」です。飛ばす勇気を持ちましょう(私は今年飛ばす勇気がなくて、公法系でダラダラ書きまくった結果、点数が低い結果となりました)。
 ここで注意しなければいけないのは、受験生は、知ってる問題だと書きすぎてしまうことです。東大ローの問題は年によって、当てはめに使う事実が少ない場合も多い場合もありますが、その法的評価の道筋が多様(肯定する事情にも、否定する事情にもなり得るものが多い)です。出題者はこういった事実を、受験生が頭を悩ませながら、自分なりに使うことを期待しているはずです。
 予備試験でもそうですが、多分事例問題で最も配点が高い(点を取れる部分が多い)のは、暗記した正確な規範でも、豊富な理由づけでもなく、事前準備(暗記)できない(=現場で頭を動かさざるを得ない)事実の摘示と法的評価(当てはめ)だと思います。
 ですので、東大ローの問題を解くときは、規範を導く理由づけは一個という原則を課し、規範レベルで書きすぎてしまうことの対策をしましたその分、事実をできる限り原文のまま引っ張り、自分なりに法的に評価することを心がけました。例外的にどうしても紙面が余りそうという感覚があったりする場合や得意な刑事系などでは2個以上書いたりすることがありました。

 次、字数が足らなくなるかもしれない問題があります。上述したような形式ですから、字数が足らなくなっても修正がほぼ効かないんですよね。少し欄外に書くくらいは全然許容されると思いますが、流石にたくさん書くのは精神的には怖いですよね。私の予備試験の答案の特徴は条文の文言をできる限り引用して、ゴリゴリに条文の文言で構成された答案を作ることにあったので、これをやりすぎると「」や条文番号で一瞬で字数が埋め尽くされるんですよね。これがなかなかきついところでした。
 ということもあって、ナンバリングの「第1」の横に法令名を書き、本文の字数を省略し、その上、三段論法をときに崩したり、大雑把に当てはめることで、文言引用やできるだけ少なくする、という対策を取りました。
 たとえば、『第1 設問1(法令名は民事訴訟法)』や『「傷害」(204条)とは人の生理的機能を害することをいう。Xは上記行為によって、Aに脳出血を負わせており、上記行為は「傷害」にあたる』と書くのではなく、『Xは上記行為によってAに脳出血を負わせ、人の生理的機能を害したので「傷害」したと言える』というように三段論法を崩すパターンが一つ。もう一つは、『XはAに対して本件土地につき抵当権を設定する権限を与えておりその「代理人」たるAはYとの間で「本人」Xの「ために」本件土地に抵当権を設定する「意思表示」をしている。よって、本件土地につきYの抵当権設定登記が有効に存在する(99条1項)』というのを、これに関しては、もう『XはAに対し本件土地について抵当権を設定する代理権を与えており、AはYとの契約の際にXのためにすることを示したから、本件抵当権設定登記は有効である(99条1項)』という、とにかく一個一個当てはめず、ざっと当てはめるパターンです。予備試験ならマス目がなく合計字数も実質的に上限がないので、ざっと書けば書き切れるのですが…簡潔に書く工夫が必要ですね、でも簡潔に書きすぎると要件の検討漏れをしたりすることがあるので私はとにかく字数制限が苦手でした。私のスタンスは最後の1文字まで点数をとるためにとにかく筆力を武器にしてどんな事実も拾い、テキトーに評価し(良くない)、書き連ねることでしたから、下手に前半で書きすぎると後半尻切れ蜻蛉になる、というパターンがよくありました。

2 各科目の出題傾向(論点)とその対策

 自主ゼミ及び私個人で検討した結果なので、ミスがあったらご容赦ください(実際過去問やってみてこれ違うんじゃね等々何かあったらTwitterの方にお気軽に連絡ください。気合いで対応します(多分)。)
 以下、初見で解きたい方には一部ネタバレになりうるのでご注意ください。一応全年度答案構成(一部は答案練習)しました。







○民事系

(1)2017年(法律系科目1)

○民法
物権的請求権、対抗要件(177条)、自己物の時効取得の可否、長期取得時効と登記(時効完成後の第三者)、背信的悪意者
*時系列(→出たら必ず時効に注意です)がめんどくて、かつ、典型論点の組み合わせで良問です。ただ、東大ローは過去問を過去5年分しか売らない気がするので、2024年度入試の方は2017年と2018年は解くことができないかもです。なので論点で抑えましょう。
商法
吸収分割、背信的悪意者からの譲受人、(法人格否認の法理)
民訴法
重複起訴とその処理、不存在確認訴訟に対して給付訴訟が提起された場合の処理、弁論併合
*「裁判所はどう処理すべきか」問題は結構出るので、例えば、重複起訴になった後、裁判所はどうするか。既判力に抵触した場合、その裁判はどう処理されるか、信義則の場合にはどうか?常に手続面を意識しながら勉強しましょう

(2)2018年(法律系科目2)

民法
債務不履行に基づく損害賠償請求、損害額の予定がある場合の処理(420条3項)、間接強制の方法(この年だけ、保全執行がでてます)
*民事執行保全に関しては多分みんなできないので、やらなくても良いと思いますが、重要条文だけ見ておくのもいいかもしれません。わかりづらい問題なので、軽く答案構成しておくと
1 仮の地位を定める仮処分の申し立てをする(民事保全23条2項、11条、12条、2条、1条)
2 「著しい損害」(同23条2項)といえるか検討
3 本件仮処分は交渉禁止という「不作為を命じる仮処分」だから「仮処分命令が債務名義とみなされる」(同52条2項)ので、かかる債務名義を持って「強制執行」ができる(民事執行法171条1項2号、22条参照)。
 しかし、本件不作為債務は代替執行できないから間接強制による(172条1項)ことになる。
商法
任務懈怠責任(善管注意義務違反)と経営判断原則
*論じ方をきちんと抑えておきましょう
民訴法
なし

(3)2019年(法律系科目3)

○民法
賃貸借契約解除、信頼関係破壊の法理
*債権関係では賃貸借は出やすいですね
商法
提訴請求の相手方(386条)を誤った場合の裁判所の処理(民訴にもかぶるかもですね)、監査役の権限(390条2項)と監査役会の決定の関係(390条2項但書の趣旨)
民訴法
共同訴訟参加(民訴52条)・補助参加(民訴42条)と会社法849条の関係
*難しい問題(「会社法849条の要件を満たせば民訴52条、42条を個別に満たさなくてよくなるのか」問題)ですので、『会社法 第三版(田中亘)』p356〜357読むのおすすめです。見解は分かれています。

(4)2020年(法律系科目1)

○民法
準共有(相続した株式との絡みで出題)、可分債権
商法
共同相続された株式の帰属、株主総会決議の違法事由(本案)(準共有された株式についての権利行使絡み)、株主総会決議取消の訴えの原告適格
*有名な判例があるやつです。このように判例べったり問題も出るので、例えばブルドッグソース事件(不平等行使条件付の新株予約権発行による買収防衛策)などは復習しておくと良いかもです。
民訴法
なし

(5)2021年 本試(法律系科目2)

○民法
物権的請求権、法定地上権とその応用
商法
利益相反取引該当性(間接取引該当性)
*利益相反取引(特に間接取引)は無限に出ます。受験生が理解していない、あるいは、中途半端に理解しているから出るのだと思います。
 間接取引の場合「問題となる取締役が、代表取締役ではなく、通常の取締役の場合には外形的客観的に利益相反の形ではないため、間接取引には該当しない」という立場で私は書くことを決めていたのですが、この辺は見解が分かれるようです(『会社法 第三版(田中亘)』p255を見ておくと良いです)から、事前にどう書くか決めておいた方がいいです。
民訴法
当事者の欠席、擬制自白の訴訟法上の意味、当事者拘束力・裁判所拘束力の有無
*擬制自白には当事者拘束力が生じないことをきちんと論理立てて説明できるか確認しましょう。

(6)2021年 追試(法律系科目2)

○民法
錯誤取消の要件検討(表示の錯誤、動機の錯誤)、「表示されていた」の意義
*こういう問題で何を見ているかというと、表示または動機の錯誤にきちんと当てはめられるかを見ています。条文の文言を用いて当てはめをすると実は錯誤の当てはめは結構書きづらいが判明するので、しっかり確認しましょう。
商法
株主代表訴訟において、取締役の会社に対して負う取引債務について「責任」に含めて追及ができるか否か(847条1項)につき、多数の見解を提示
*これは予備試験でも出てた気がします
民訴法
既判力の主観的範囲が拡張されること(115条1項2号)の趣旨とその正当化理由

(7)2022年 本試(法律系科目3)

○民法
契約上の地位の移転(539条の2)、複数構成(代理という可能性もあり得るか)
*未知の条文を現場で目次から探して引けるか、が問われています。
商法
任務懈怠責任追及、利益相反取引(競業取引禁止規定)該当性、損害額の推定
民訴法
二段の推定、訴訟法上の証明活動

(8)2022年 追試(法律系科目3)

○民法
物権的請求権による原状回復の可否
*物権的請求権では汚染された土地の状態を戻させるなど、原状回復請求ができないので、その場合に賃貸借契約解除に基づく原状回復という法的手段をとるべき、という問題だと思います(なかなか難しいですが、良問です。物権的請求権によっては当事者の主張を満足させられない場合に、賃貸借契約を解除する意義が生まれる問題です。問題文が『解除することを要するか』という問い方をしていることからも少し毛色のちがう問題だと言えます)。
商法
忠実義務違反の対象となる「法令」(355条)の範囲と任務懈怠責任
民訴法
保証契約に基づく請求と主債務に関する請求に対する既判力の関係(訴訟物、既判力、反射効、既判力拡張説、信義則等多様な筋があり得る)

(9)2023年(法律系科目1)

○民法
代理と代理権の濫用、利益相反(108条2項)
商法
利益相反取引該当性、株主代表訴訟の要件検討
民訴法
当事者の確定、死者を当事者とする訴訟、潜在的訴訟承継の有無、任意的当事者変更の理論

(10)民事系 まとめ

・民法に関しては、改正条文がまず狙われやすい(引かせる問題が出やすい)です。未出の債権者代位権、詐害行為取消権をしっかり見ておきましょう。また、物権的請求権は頻出ですから、きちんと書き方を覚え、対抗要件の理解も深めましょう。不法行為は出ていないので、みておくといいかもしれません。あとは何より、条文に当てはめる意識を持って必ず要件を検討し尽くす姿勢であれば、相対的に負けることはないです。

・商法に関しては、利益相反取引は必ずマスターしましょう(3年連続は考えづらいですが)。株主代表訴訟関連はよく出ますので、確認しましょう。任務懈怠も出ます。その絡みで経営判断原則も出ます。また、取締役会や株主総会の決議の取消事由を真っ向から問う問題が出ていないので見ておきましょう。さらに、改正された会社法の206条の2関連の論点(手続違反が総会決議違法を導くか)は見とくといいです。事業再編に関してはなかなか勉強しづらいですが、目次から条文を引けるようになっときましょう。出たらみんなできないので、この程度でも対策しておけばアドバンテージとなります。また、ブルドッグソースなど有名な判例がある新株発行関連の論点についても見ておきましょう。あまり商法総則等は問われる傾向にないですが、商法504条とかは見ておきましょう。(こういうマイナーなのが聞かれるとみんなできないので無視してもいいとは思いますが)

・民訴に関しては、なかなか読みづらいですね。債権者代位権の改正がらみなどは一貫した立場で書けるようにしておきましょう(予備でも出てます)。個人的には、予備でも出てない再審とか、送達とか出て来る気がしますが、わからないですね。複雑訴訟も出ますので、苦手な人は早めに理解しておきましょう。確認の利益(将来給付の訴えも)関連はまだ出てないので、是非見ときましょう。既判力とかは難しいものは出ないイメージですから、基本的な論証見ておけば大丈夫だと思います。弁論主義は1回も出てないですし、一部請求や既判力の範囲と絡めて、なかなか理解が難しいテーマですから要注意です。あとは、相殺についても出ていませんから確実に見ときましょう。

○刑事系

(1)2017年(法律系科目2)

○刑法
自招侵害における正当防衛の成否(最判H20.5.20)、誤想過剰防衛、誤想過剰防衛における刑の減免の可否、根拠
○刑訴法
伝聞証拠該当性、弾劾証拠、回復証拠(328条)、弾劾証拠に別途署名押印を必要とするか
*回復証拠に関しては少し捻ってありますので、論述に注意です。供述自体が回復証拠になるというより、供述の信用性回復のための間接証拠が回復証拠であるという構図です。

(2)2018年(法律系科目3)

刑法
債権者による恐喝行為、他人名義のクレジットカード使用が「欺」く行為といえるか、窃盗罪の故意で詐欺罪を犯した場合の抽象的事実の錯誤の処理
*自己名義のクレカ使用はまだ出ていませんので簡潔に論じられるようにしときましょう
刑訴法
別事件で起訴済である被告人(本件では被疑者)を基準にすると本件でも「公訴の提起前」を満たさない場合の処理、「捜査のため必要があるとき」の意義(刑訴法39条)、39条但し書きの「不当に制限」する場合に当たらないか

(3)2019年(法律系科目1)

○刑法
不法領得の意思、背後者と実行行為者で不法領得の意思がずれた場合の処理(但し、背後者は実行行為者の不法領得の意思は把握していた特別な事情あり)
*共謀共同正犯を否定し、教唆犯として処理する(制限従属性説からすると、教唆した者に、正犯が犯罪を実行し、それが違法であることについての認識があればおk)のが妥当かと思います。もっとも、共謀共同正犯の構成要件レベルの認定をきちんとしないと、そもそも論点まで辿り着かない問題で、暴力団の子分と親分がなぜ共謀共同正犯関係にあるのかは意外と論じづらいです。
○刑訴法
伝聞証拠該当性、321条1項2号該当性、再伝聞該当性

(4)2020年(法律系科目2)

刑法
監禁罪、脅迫罪、因果関係(最判H18.3.27 トランク監禁衝突死亡事件、監禁致死であることに注意です)、窃盗罪と死者の占有
○刑訴法
目立った論点なし
*この問題は割とドボン問題だと思います。論点というより、注意すべき点が多いです。まず、そもそも、窃盗罪の容疑での捜索差押許可状に基づく捜索であることに常に留意する必要があります。『窃盗罪で捜索したら、あら大変、白い粉が机の上に置いてあるではありませんか。うわ、やべと思ったXはそれを即座にポケットに入れて隠しました。その一部始終を目撃した捜査官Kがポケットに入れたものを出すよう要求しましたが、それをXは拒絶、そこで、Kが抵抗するXの体を床に押さえつけ、その袋を強制的に取り出しました。観念したXに承諾をもらって、検査しました、覚醒剤反応検出されました、現行犯逮捕します、逮捕に伴う捜索差押えで白い粉を差し押さえた』という事案です。最終的な捜索自体は白い粉が覚醒剤であったため適法っぽいですが、そもそも白い粉を発見する過程の身体捜索が違法ではないか、という問題です。ではこの身体捜索を適法にするための理論は何が考えられるでしょうか。
 まず、よくあるのは場所→物捜索ですが、本問ではそもそも、白い粉が全く窃盗罪には関係しないので、「没収すべき物と思料」される(99条の被疑事実関連性ですね)ものではないので、この方法によることはできません(そもそも身体に対する捜索は別個のプライバシー侵害を伴うのでできないとも言えそうですね)。
 ではよくある現場保存処置はどうでしょうか、これも無理です。確かに、何かしら現場で差し押さえるべきものが隠された疑わしい状況があるならば「必要な処分」(222条1項、111条1項)ないし令状の効力として身体に対しても強制力を持って、身体に捜索できます。但し本問では、捜査官Kは「白い粉であること」を残念ながら認識していますから、「被疑事実である窃盗罪に関連した差し押さえるべきもの」が隠されたという疑わしい状況でないことはKが一番よくわかっているわけですね。(詭弁ですが、白い粉の中に、窃盗罪関係の隠されたものがあるはず、という論理は不可能ではないと思いますが、盗んだものを隠すときに普通、白い粉の中に入れるでしょうか。多分、現場のKはこういう思考回路を経ることはないでしょうね)
 
じゃあどうするか。やっぱり身体捜索は違法でしょうね。職務質問ないし所持品検査)で出てこなかったら緊急逮捕するか、そもそも新しい令状を取ってくるかしないとダメなのだと思います。そして最後に忘れずに、身体捜索が違法だったことが、実際の差し押さえまで違法にする論理を説明する必要があります(違法収集証拠排除法則)。こういう点でこの問題めんどくさいです。

(5)2021年 本試(法律系科目3)

刑法
(正当防衛)、殺人罪の成否、非現住建造物等放火罪の成否(抽象的事実の錯誤)中止犯の成否
*処理がめんどくさい良問です。
刑訴法
伝聞証拠該当性、再伝聞の伝聞証拠該当性、DVDによって録取された供述に署名押印が必要か

(6)2021年 追試(法律系科目3)

刑法
私文書偽造罪の要件検討、他人名義を用いたことにつき本人の承諾がある場合の処理、同行使罪の成否
刑訴法
留め置きと実質的逮捕の区別、職務質問中における有形力行使の可否、承諾なき所持品検査

(7)2022年 本試(法律系科目1)

刑法
承継的共犯(受け子詐欺)、共犯関係の解消、共謀の射程、強盗罪の成否、財物に詐欺で交付させた金が含まれるか
*良問。承継共は書きづらい(なかなか普段練習で書かない)ので練習しましょう。どの時点で、誰との間で、共謀が成立しているか、していないか、していない共謀について責任を負わせられるか、等々きちんと検討しましょう。
刑訴法
任意同行と実質的逮捕、任意取調べの限界
*高輪グリーンマンション事件を参照すると良いです

(8)2022年 追試(法律系科目1)

○刑法
窃盗罪、器物損壊罪、不法領得の意思、犯人蔵匿罪の成否、犯人が自己の蔵匿を他人に依頼した場合の教唆犯の成否
○刑訴法
秘密録音、強制処分該当性、逮捕に伴う捜索差押え(220条1項1号)、第三者宅への捜索の可否(222条1項、102条2項)

(9)2023年(法律系科目2)

刑法
正当防衛、防衛行為の一体性、過剰防衛の成否、質的過剰、量的過剰
刑訴法
緊急逮捕の要件、違法逮捕に基づく勾留請求の可否、違法逮捕・釈放後の再逮捕再勾留の可否

(10)刑事系 まとめ

・刑法に関しては、判例が題材になることも多いですが、出題範囲が広いので満遍なくやっておきましょう。正当防衛や誤想防衛は「たいてい出すとできる人とできない人で明確な差がつく」(多分刑法の体系理解が問われるからですね)と某先生がおっしゃっていたので、もう一回出るかもしれませんね。各論も早めに全範囲やりましょう。特に、放火、事後強盗、詐欺、窃盗は頻出です。ただ、論証集に乗ってる論点の罪を押さえておけば十分ですし、ちゃんとやれば比較的点数が安定しやすい科目ですから、得意科目にしましょう。

・刑訴に関しては、判例がよく出ます。判例の規範ときちんと書けるように論証集しっかり見ましょう。強制処分と絡められるGPS判例はまだ出てないので見ておきましょう。自白に関しても出てませんから見ましょう。伝聞は超頻出(ということは皆できないということです)必ずマスターして臨みましょう。訴因は一回も出ていないので怖いですね、見ておきましょう。

○公法系

(1)2017年(法律系科目3)

○憲法(この年は一番意味不明ですから無視していいと思います)
自治体の外交権、青少年保護育成条例における有害図書規制についての憲法問題(あまりにアバウトすぎる設問で、無限に書けることがある意図がよくわからない問題です)
行政法
法定受託事務等(多分出ないので無視していいです)

(2)2018年(法律系科目1)

○憲法
報道の自由、取材の自由、平等権
*無茶苦茶紙面がきつい問題です
行政法
申請型義務付訴訟、(仮の義務付け)、許可の講学上の定義、裁量審査

(3)2019年(法律系科目2)

○憲法
海外旅行の自由、パターナリスティックな制約、表現の自由
行政法
理由提示の程度・瑕疵、手続違法性と処分違法性の関係、執行停止の各要件の意義と検討

(4)2020年(法律系科目3)

憲法
表現の自由、検閲該当性、事前抑制禁止の法理、令状主義と行政手続
行政法
通知の処分性、行政調査で得られた結果を刑事責任追及に用いることの可否

(5)2021年 本試(法律系科目1)

憲法
泉佐野市市民会館事件の射程検討、裁量審査
*泉佐野市の規範は使いやすいので、おさえておくと良いです。
行政法
「償うことのできない損害」(行訴法37条の5第1項)の意義

(6)2021年 追試(法律系科目1)

○憲法
議員活動の自由、営業の自由、司法審査の対象(部分社会の法理)、国賠法上の「違法」の意義
行政法
処分性、「法律上の利益を有する者」(行訴法37条の4第3項)の意義

(7)2022年 本試(法律系科目2)

憲法
営業の自由(薬事法、小売市場判決)
行政法
法律の委任の範囲逸脱性
*規範をちゃんと書かないとふわっとして自由作文になりかねませんので注意です

(8)2022年 追試(法律系科目2)

憲法
信教の自由(エホバがリーディングケースになりそう)、思想・良心の自由
行政法
(戒告処分の)裁量審査(審査基準なし)

(9)2023年(法律系科目3)

憲法
表現の自由
行政法
処分性の検討、申請型義務付訴訟(?)、理由提示、聴聞手続、裁量逸脱

(10)公法系 まとめ

・憲法に関しては、出題が読めませんし、なかなか難しく、かつ、かなり簡潔に書かないと厳しい問題が多いです(例えば、2018年の問題量に自主ゼミ一同絶望。特にキツかった一例ですが、基本的に皆「キツすぎん?ありえんわ」って感想でしたので全年度ちゃんとキツイです。)。自由権に関しては、(一部の権利を除いて)基本的な3段階審査をきちんと身につけて現場で事情をあれこれ拾えば多分差がつかないので大丈夫です。設問一個すっ飛ばしても耐えましたから、私はもちろん苦手ですが、意外とみんな憲法自体が苦手なのかもです。表現の自由は頻出ですから、重要判例をしっかり押されておきましょう。営業の自由もよく聞かれるので、薬事法と小売市場どちらに問題文の事案が近いかなど、使い分けできるようにしましょう。

・行政法に関しては過去ダイレクトに原告適格(9条)がきかれていないので注意です。処分性は頻出ですから、特に保険適用指定の不許可のやつとかを見ておきましょう。意外と訴訟要件も出ます。手薄になりがちなのでやりましょう。裁量は頻出です。審査基準があるパターンは出ていないのでちゃんと書けるようにしておきましょう。国賠関係も出ていないので、2条や供用関連瑕疵、河川等の絡みもきちんと見ておきましょう。



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