R4 予備試験 再現答案 民法 A評価
1 再現答案
第1設問 1(1)
1 Bの請求の根拠は、「有償契約」たる請負契約の仕事の目的物の契約不適合を理由とする代金減額請求である(民法(以下略)559条、632条、562条1項、563条1項、2項2号)。
(1)まず、「前条第一項本文に規定する場合」(563条1項)といえるか検討する。BはAとの間で、令和4年4月1日、甲建物の建築請負契約(632条)を締結している。かかる契約においては、注文者Bは「外壁の塗料には塗料 αを使用して欲しい」と請負人Aに申し入れ、Aはこれを了承しているから、aで塗られた外壁の甲建物が仕事の目的物になっていたといえる。しかし、実際に甲建物の外壁はαではなく、塗料βで塗られており、「引き渡された目的物が..品質...に関して契約の内容に適合しない」といえ、注文者たるBは請負人Aに対し「目的物」たる甲の外壁をαで塗るよう「修補..による履行の追完を請求することができる」(562条1項本文)。
よって「前条第一項本文に規定する場合」といえる。
(2)ここで、Bは「相当の期間を定めて履行の追完の催告」(563条1項)をしてないものの、Aが再塗装を拒絶しており「履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した」といえるから、催告の有無に「かかわらず」「直ちに代金の減額を請求することができる」(563条2項2号)ことになる。具体的には「不適合の程度に応じて」減額請求ができる(563条1項、2項)ところ、本間ではaで塗った場合の甲建物の客観的価値よりもBで塗った甲建物の客観的価値の方が高くなっており、客観的価値を基準に「不適合の程度」が定まるとすれば、減額する余地がないこととなる。そこで、「不適合の程度」の意義が問題となる。
ア この点、客観的価値が高ければ減額ができないとすれば、契約における事者の意思が全く無意味になりうる。契約は多様な目的で結ばれる。そこで、「不適合の程度」が何を指すかは、結局は当事者の契約内容を吟味した諸事情の総合考慮で決するほかないと解する。
イ 確かに、客観的価値の点でいうと、βは耐久性・防水性がαよりも優れており、値段も高い。しかし、Bは、αがBの運営する他の店舗でも共通して用いられており、Bのコーポレートカラーとして特に採用したものであるが故に、契約締結の段階でαの使用を申し入れている。そして、請負人としてAは注文者にとってのαを使用する意味を承知していたものを推測されるし、実際に、αの使用についてAも了承していたのだから、&使用が両者の契約内容の極めて重要な目的となっていたといえる。にもかかわらず、Aは明度の低い同色系のβを使用しており、Bにとっては契約の目的を達することができなくなったといえ、βの使用自体が「不適合の程度」そのものである。
2 したがってBはAに対して、報酬請求された代金のうち、βで外壁を塗った分にかかった金銭という「不適合の程度に応じ」た金額を減額請求できる。
第2 設問1(2)
1 Bの再塗装に要する費用の損害賠償請求の根拠は債務不履行による損害賠償請求である(559条、564条、415条1項)。
前述の通り、aで塗装することが契約内容になっていたにも関わらず、Bで塗っているからAは「債務の本旨に従った履行をしな」かった(415条1項)といえる。「これによって」αで再塗装するためにかかる代金が「損害」として「生じた」といえる。更に、かかるAの「債務の不履行」は、近隣住民から aを使用することに反発を受けたために、Aが独断でBに断りもせずβに塗装を変更している。確かに、住民の意見を聞くことは必要であるものの、まずは当事者たるBと塗料の使用について対話すべきであったから、かかる理由が Aの「社会通念に照らして債務者の責に帰することができない事由」によるものということはできないので同条但書の適用はない。
2 したがって、BはAに対し、かかる再塗装の費用を「通常生ずべき損害」(416条1項)の賠償請求をすることができる。
第3 設問2
1 Fは令和9年4月1日を起算点とする長期取得時効による乙不動産の所有権取得を主張することが考えられる(162条1項)。要件を検討する。Fは同日から令和29年4月1日までと120年間」不動産を占有している。また、「平穏」「公然」は推定され(186条1項)、これを覆す事情もない。更に、乙不動産はCを相続したEが所有する「他人の物」である。
もっとも、「所有の意思」について検討するに、CはDに対してて不動産を無償で貸していた(587条)だけであり、Dは乙不動産につき他主占有である。するとその相続人たるEによる乙不動産の占有は他主有として「所有の意思」を満たさないのではないか。
(1)そもそも、「所有の意思」は内心によってではなく、占有取得の外形的客観的原因によって決まる。包括承継の場合も、条文上限定がないから「承継」(187条1項)に含まれる。
そうすると、被承継人であるDの占有は消費貸借による他主占有であるから、「承継人」たるEの占有も他主占有となるのが原則である。また、相続は単に権利義務関係を引き継ぐに過ぎないから「新たな権原」(185条)にも当たらず占有の性質は変わらないのが原則である。
(2)もっとも、相続人による事実的支配が外形的客観的に見て相続人独自の「所有の意思」に基づくものとなった場合には相続は「新たな権原」にあたり、自主占有への転換が認められる。この場合には、所有者も時効障害の措置が取れる上に、相続人の事実上の占有を権利まで押し上げる要請が働くからである。
本間では、和9年4月1日に、その所有者たるEからて不動産の登記がF名義へと移転されている。そうすると、事実的支配が外形的客観的に見て相続人たるF 独自の所有の意思に基づくものに転化したといえるから、上記取得時効が認められるとも思える。
(3)しかし、その登記はEがFに対してFからの頼みを快く引き受けた上で移転したものであり、そもそも所有者たるEがその後に時効障害をとる機会が全くなかったため、Eの予測可能性を無視しているとして、上記取得時効を認める前提となる根拠を欠くともいえるのではないか。
もっとも、和8年1月にCが死亡した段階で、Cを相続したEは詳しい事情を知らないままDに不動産の固定資産税を支払ってもらっていたという事情がある。当時は乙不動産の登記名義はCのままであったのに、固定資産税を他者たるDに支払ってもらう状況は、通常考えられず、何らかの調査をすべきであったといえる。それにもかかわらず、EはFの頼みを安易にじ、調査することなくFに登記を移転しているのだから、Eには時効障害の措置をとる機会が当初からなかったとは言えず、予測可能性を無視したとまでは言い切れない。一方で、FはDが乙土地についての固定資産税を支払っていたのだから、同士地につき仲の良いCから負担の贈与を受けたと言じてもやむを得ないし、Eに対して登記を移すよう依頼する行為も当然の行為であるといえ、要保護性は高い。
2 したがってFの乙土地についての長期取得時効が認められる。以上
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