東大ロー2023 再現答案②刑事系67.0点
1 再現答案
第1 設問1(1)(法令名は刑事訴訟法)
1 まず、Xは令和3年6月1日10時に緊急逮捕され、同年6月2日16時に検察官に送致されており、48時間以内に適法な手続きを経ているからこの点違法はない(210条、203条、205条)。同様に、検察官Pは同年6月2日16時に身柄を受け取り、勾留請求されたのは同年6月3日11時であるから24時間以内に適法な手続を経ておりこの点違法はない(205条)。
2 もっとも、緊急逮捕してからその7時間後にKは逮捕状請求しているから、「直ちに」逮捕状請求をした(210条中段)とは言えず、逮捕自体が違法となり、勾留も違法となるのではないか。
本問では、Kは緊急逮捕後の11時から13時まで実況見分にXを付き添わせ、さらに警察署に戻った後もXの取調べを行って詳細な供述調書の作成を行ったのちに緊急逮捕状の請求をしており、到底「直ちに」逮捕状請求したとは言えない。したがって、緊急逮捕に違法がある。
3 ここで勾留とは身柄拘束の理由及び必要性を判断する逮捕とは別個の手続であり逮捕の違法は無関係とも思える。もっとも、法は逮捕について準抗告を認めておらず(429条1項2号参照)それは勾留手続きの際に逮捕の違法をも加味するためである。また逮捕前置主義(203条ないし208条)の観点からも、先行逮捕が違法な場合を考慮しないと不当である。一方軽微な違法がある場合にも勾留できないとすれば却って司法の信頼を害するから、逮捕手続に重大な違法がある場合には勾留が認められないと解する。
本問では、上記のように、7時間後に逮捕状請求されており、「直ちに」行ったとは到底言えないし、明らかにKには令状主義を潜脱する意図がある。そうすると、本件逮捕は重大な違法があり、それを踏まえて裁判官は勾留も違法となるとして却下したといえる。
第2 設問1(2)
1 身柄拘束期間が厳格に法定されていることに鑑み、同一の被疑事実については逮捕勾留一回性の原則が法の建前であり、再逮捕は原則として認められない。しかし法では再逮捕再勾留が予定されている(199条3項参照)。そこで、例外的に再逮捕は認められるべきであり、特に先行逮捕が違法な場合には、再逮捕の必要性、再逮捕による被疑者の不利益、先行逮捕の違法の程度、被疑者の嫌疑、事案の重大性等を考慮して、被疑者の利益と対比してもなおやむを得ない場合にのみ再逮捕が認められると解する。
2 本問では先行逮捕が違法である。その違法の程度は上記のようにKに明らかに令状主義を潜脱する意図があり重大な違法である。しかし、任意同行後Xは緊急逮捕する前に犯罪の自白をしており、違法な手続が自白を誘発したという事案ではなく被疑者の黙秘権等の重要な権利が害されたとまではいいがたい。また、被疑者の嫌疑は高まっており、事案は建造物等以外放火罪という法定刑に懲役刑がある重大犯罪である。そして、裁判官も罪障隠滅及び逃亡の理由があると判断しており、被疑者は任意に取り調べに応じていること、又、自白も自らなされたことに鑑み、被疑者Xの利益と対比してもなお再逮捕がやむを得ない場合といえる。
以上より、同一被疑事実で再逮捕することは認められる。
第2 設問2(法令名は刑法)
1 XがYの顔面を殴打して、それによってYを転倒させ、脳出血を生じさせた行為(以下「行為①」という)につき人の生理的機能を害したといえ、更に故意(38条1項)もあるから傷害罪(204条)の構成要件に該当する。
2 もっとも行為①はYがXの背中をビルの壁に数回に渡って叩きつけた行為に対して反撃すべく行われており、正当防衛(36条1項)が成立し違法性が阻却されないか。
(1)「急迫」とは侵害が現に存在し又は間近に推し迫っていることをいい「不正」とは刑法上違法性阻却事由がないことをいう。本問では、上記のようにYによる侵害が現に存在し、かかる侵害には違法性阻却事由もなく、「急迫不正の侵害」といえる。
(2)そして、かかる侵害に対してXは自己の身体をいう「権利」を「防衛する」意思の下反撃しており、「防衛するため」といえる。
(3)さらに、Yの素手の攻撃に対してXも素手で反撃していること、さらに見知らぬ粗暴な雰囲気のYが突然因縁をつけてきた理不尽な状況からしても行為①には相当性があり「やむをえずにした」といえる。
したがって、行為①に正当防衛が成立し違法性が阻却され犯罪は成立しないとも思える。
3 しかし、行為①の直後、動かなくなったYを認識し、それでもなお夢中でXはYの腹部を数回殴り続けた(以下「行為②」という)のだから、行為①と行為②が一体として防衛行為と評価され、全体として過剰防衛(36条2項)となることで、行為①について傷害罪に問えないか。
(1) 人間は主観面と客観面の統合体であるから、防衛行為の一体性の判断では①時間的場所的接着性②防衛の意思③侵害行為の継続性等を考慮して一体性が認められるか判断する。
(2) 本問では、行為①によって、すでにYは動かなくなり、それをXは認識していたのだから、防衛の意思も再度の侵害行為の可能性もなく行為①と②はやはり別個の行為として検討すべきかとも思える。
しかし、行為②は行為①によって勢い余ってYの横に倒れ込んだとほぼその同時、同一場所という時間的場所的接着性が極めて強い時点で行われている。さらに、確かにYが動かなくなったとXは認識したとは言っても、それはわずかコンマ数秒の一瞬であったと予測されるし、実際にXは夢中でYを殴りつづけていたのだから、行為②は①が行われた同一の意思態様興奮状態の下なされ、一体性を肯定して評価するのが妥当である。したがって、行為全体として「防衛の程度を超えた」といえるから、行為①についてXは傷害罪の罪責を負い、刑の任意的減免がある(36条2項)。以上 (2407文字)
2 追記(順位等がもしわかったら追記します)
設問1の1は、不要ですね。なんで書いたのかというと、妙に問題文に時系列がたくさん並べられていて、なんか触れないと気が済まなくなってしまったからです。絶対に不要でしたが「無難に触れておくか」という本番特有の安牌メンタルを存分に発揮しました。書いたほうがいいのかな〜って迷ったことは大抵書かなくても良い場合がこれまでも多かったのに、そのルールを破ったことが裏目に出ました。気をつけたいです。
これ書くのならば、緊急逮捕の「直ちに」要件を三段論法すればもっと点数が伸びたと思います。この部分に関してはそもそも検討できていない方がたくさんいたと思うので、きちんと丁寧に書いたらよかったなあと後悔がないわけではないですが、合否には無関係ということで試験戦略的にはおkです。(もちろんアガの論証集には「直ちに」要件の三段論法での論証など存在しないので、これはまさに現場思考問題で、その時点で無視する人が大半、考える人も現場思考なので、合否に関する差がつくはずがないです)
あとは、再逮捕の可否に関しては、その当てはめで、一旦釈放して、新たに令状請求してるので、手続き的に違法が希釈化されるし、という点を書けなかった点が点数が伸び悩んだ原因かと思います。
設問2は「防衛の程度を超えた」ことに関しては質的過剰なのか量的過剰なのか論じることが出題趣旨的には求められていたようです。質的過剰、たとえば素手に対して日本刀で反撃などが典型例かと思います。量的過剰は、殴り過ぎってやつですね。本問では素手vs素手かつ、侵害が一旦終了した後の事例なので、量的過剰かと思います。
量的過剰に関しては処理が少し面倒です。過剰防衛の減免理由を①違法性が減少したことに求める見解を徹底すると、理論的には、違法な侵害は既に終了しているのだから、侵害終了後の反撃行為は違法性が減少されませんので、量的過剰の場合、過剰防衛にすらならないです。もっとも、判例は量的過剰の場合にも過剰防衛の適用を認めているので、おそらくこの立場ではなく、②責任が減少することに求めているのだと推測されます。
そうすると、出題趣旨に応えるには「なお、過剰防衛の減免根拠は、急迫不正の侵害に対して興奮状態下にある者が、侵害終了直後も同一状態下で反撃に出る行為について、批難可能性が減少することにある。従って、違法な侵害が継続していない量的過剰の場合も過剰防衛の適用はあるとして良い」的なことを私の答案の最後に書くんでしょうね(ちなみによく知らないですが③違法責任減少説というものがあるらしいです。これだと処理が紙面的にきつそうですね)。