世界には、お金も地位もなく、誰にも知られることなく、揺るぎない信愛をもってグル(師匠)の教えを実践し、霊的高みにのぼりつめた人は、多く存在します。エーカラヴィヤの物語は、ヨガなどサーダナ(霊性修行)を熱心に行っていても、エゴや欲望を捨てきれない人間の弱さを教えてくれます。
『猟師であるエーカラヴィヤは、弟子になりたいという願いを抱いてドローナーチャーリヤのもとに行きました。しかし、ドローナーチャーリヤはこう言ってそれを断りました。
「私は猟師や森の住人には教えない。私は勇猛果敢な王子たちに教えを授けるのだ」
これを聞いてもなお、エーカラヴィヤはドローナーチャーリヤにひれ伏して、この人こそ自分のグルと心に決めたのでした。しかし、エーカラヴィヤは何も教えを受けられなかったので、グルの人形を作り、それを崇めて黙想することにしました。そして、いつもその人形と共にあり、他の誰かといることはありませんでした。そして、信念という美徳とグルへの揺るぎない信愛から、 エーカラヴィヤは弓の名手となりました。
ある日、ドローナーチャーリヤが弟子を全員引き連れて森へ狩りに行った時のことです。狩猟犬がほえ始めるや、どこからか弓矢がにわか雨のように飛んできて、犬の口を貫き、黙らせてしまいました。これを見たアルジュナは、見えない射手の腕前に驚嘆しました。アルジュナは射手を探し、それはエーカラヴィヤであったことがわかりました。
アルジュナが、どこで弓術を習ったのか、誰がグルなのかを尋ねると、エーカラヴィヤはドローナーチャーリヤを指差して言いまし た。
「あの方が私のグルです」
アルジュナは、エーカラヴィヤの答えに心を乱し、ドローナーチャーリヤに不平を言いました。
「先生は、シャブダベーディン〔音を聞いて標的を射当てること〕の技は私以外の誰にも教えないと約束してくださいました。私はその言葉を信じて、その技は私以外誰も知らぬと自負しておりました。ですが先生は、他の誰かにもお教えになっていたようです」
すると、ドローナーチャーリヤは言いました。
「わが親愛なる者よ! 私はこの者のグルではないし、この者にあの技を教えたこともない」
アルジュナが今度はエーカラヴィヤに尋ねると、エーカラヴィヤは言いました。
「私を弟子にするのを、ドローナーチャーリヤ先生がお断りになったのは事実です。しかしながら、 私は師のお姿を心に焼きつけて、深い信愛の思いで技のすべてを学んだのです」
これを聞いたアルジュナは、弓術で自分を上回る優れた腕前の者が他にいたのかと、エーカラヴ ィヤを妬ましく思いました。そこでアルジュナは、ドローナーチャーリヤにエーカラヴィヤから グルダクシナー〔師への謝礼〕を受け取らせようと考えました。アルジュナはドローナーチャー リヤに言いました。
「エーカラヴィヤが弓術を習得した責任は師におありです。ですから、これを最後にエーカラヴ ィヤにあの技を使えなくするようお計りになるべきです」
ドローナーチャーリヤはアルジュナが深く傷ついているのを感じとりました。そこで、アルジュ ナを満足させるためにエーカラヴィヤに尋ねました。
「おまえはグルダクシナー〔師への謝礼〕として、私に何を捧げてくれるのかね?」
エーカラヴィヤは、グル(師匠)から請われたものなら何でも捧げる用意があると答えました。するとドローナーチャーリヤは、グルダクシナー〔師への謝礼〕として右手の親指を差し出すようにと言いました。エーカラヴィヤは即座にその命に従って、グルに捧げるために右手の親指を切り落としました。
エーカラヴィヤは、グルに親指を捧げても、少しもうろたえることはありませんでした。実のところ、エーカラヴィヤはグルの望みをかなえることができて、とても幸せだったのです。その日以来、エーカラヴィヤが弓矢を操ることはなくなりました。一方、アルジュナは、これで弓の腕前で世界に自分を超える者がいなくなったと、とても幸せでした。この優越感が人間のエゴ〔アハンカーラ、自我意識、我執、慢心〕の原因となり得るのです。 - サティヤ・サイババ -』
愛と優しさをいっぱいありがとうございます!