【ファンタジー連載小説 奇跡の旅❷】出会い
🌿第1話「奇跡の旅のはじまり」⬇️
続き 🌿第2話「出会い」
アイオナは、両親の影響から自然信仰のような思いは持っていたが無宗教だった。
何より一番の関心事は自然との調和と自己の成長であり、この旅の目的は今抱えている悩みを解決することでもあった。
そんな彼女が、この奇跡の地に着いてからいきなり心踊る不思議な体験をしてしまった。
奇跡体験に興味はあったものの、あまりに唐突で、まさか自分が稀有な体験をするとは思ってもいなかった。
その驚きから、気もそぞろになり落ち着かなくなっていた。反面嬉しすぎて、今すぐその話を聴いてもらいたくてたまらなかった。
スタッフに部屋に案内されて一人になっても、くつろぐどころか頭が忙しく回転していた。
さっきの体験は一体なんだったのか?本当に妖精が存在して、自分にキスをしたのだろうか?それとも奇跡体験を期待していたせいで、錯覚か思い込みからの勘違いなのか?まさか幻覚でも見てしまったのかと不安にもなった。
反対に、いやいや、確かにそれは起きたじゃない!私の顔に向かって飛んできたものがいたし、とっさに身を引きながら目をつぶってしまうという体の反射まで起きたし、何かが鼻先にチョンと当たったのがハッキリと感じられたのだから!とても思い込みなどという類とは思えない・・・
などと、考えがグルグルと頭の中を巡っていた。
そんなことも含めて誰かに話を聴いてもらいたい、真実を確かめたいという気持ちでいっぱいだったが、旅先の研修施設についたばかりで、知り合いはおろか話せる相手もいなかった。
何度も、案内してくれたスタッフに話そうかと思いつつ、結局話す勇気が出せなかったアイオアは、あきらめて部屋で落ち着くことにした。
スタッフに案内された部屋は小綺麗で、窓際には清潔なシーツできちんと整えられたベッドとサイドテーブルがあった。部屋は二階にあり、窓からはエントランスホールの前から見た広大な芝生の庭が見渡せた。
少し気持ちが切り替えられたアイオナは、気を紛らわそうと食事の時間まで施設内を見て回ることにした。
二階に気持ちのよいミーティングルームがあると聞いたのでのぞいてみると、20人ほどが座れる空間があった。
たくさんの観葉植物が置かれており、一角には大きなガラスの扉があってベランダにも出ることができる、サンルームのような造りになっていた。
明るい日差しが差し込んでいる場所にロッキングチェアがあったので腰掛けてみると、暖かくて穏やかな陽の光が体に染み込んでいくのがわかった。
それは、先ほどまでの興奮を忘れさせてくれるほど優しいエネルギーで、旅の疲れからかいつのまにか心地よさに包まれて眠りに落ちてしまった。
どれくらい時間が経ったのだろうか。階段を上ってくる大勢の人の気配で目が覚めた。
ゆっくり身を起こしてあたりを見回し聴き耳を立てると、それは楽しげな様子の女性たちのようだった。
まどろんだままの頭に、ふと「新しい出会い」というメッセージが浮かんだ。
ああ、もしかしたら今階段を上がっている人たちのことかな?という気づきがあったので、立ち上がって階段の方に向かおうとした。
アイオナは長年自分の内側を見つめる練習をしてきたが、自然にインスピレーションを受け取るようになっていた。
正確にいうと、彼女は生まれながらに繊細で、人間が本来持っている純粋な感性や素質が、生まれた時から閉じることなく保たれてきたのだ。
それが大人になって自己成長を目指し始めると同時に、徐々に活性化してきていた。
また、受け取ったものを無視することなく信頼していたし、大切に記録もとってきた。
手書きで記録をとることは、彼女のより深い内側に入ることを可能にしていった。
全ては気づきを得て成長するために継続してきたことだった。だから当たり前のように自然に、インスピレーションに従う習慣が身についていた。
アイオナはゆっくりとロッキングチェアから立ち上がり、階段のある方のドアに向かって歩いて行った。
階段を上がってくる足音や楽しそうな声がどんどん近づいてきた。二階に上がってきたのは、アイオナと同じように研修を受けるためのグループと思われた。
そのグループほとんどが女性で、黒髪で小柄なアジアの人のようだった。その中のひとりの若い女性がアイオナに気づいて、「ハーイ」と軽く手を振り笑顔を向けてくれたので、アイオナも同様に手を振って笑顔で返した。
そのグループの初老の男性はツアーリーダーなのか、手慣れた感じで各人に部屋に入って待つようにと指示をしていた。
一団が過ぎ去る頃には、アイオナはまどろみから覚めていた。
続く
楽緒 著