AirbnbのIPOが意味するもの(20/12/21掲載分)
12月10日ナスダック市場に、ユニコーン企業(未上場企業で時価総額が$1B超ある新興企業)の一角を占めていたAirbnb(エアビーアンドビー)社と呼ばれる民泊大手が上場を果たしました。上場初日に、公募・売り出し時価総額の約2倍の10兆円に達しました。
2007年にAirBed&Breakfast.comという名前で創業したブライアン・チェスキー氏という青年実業家は現在39歳で、イタリア系・東欧系の血を引く東海岸育ち、幼いころからアーティスト・設計士を志向しロードアイランド芸術大学(RISD〈「リズディー」と発音〉)という米国では著名な芸術大学に入学し、同大学校で創業メンバー達と出会っております。
本社は大リーグ・SFジャイアンツの本拠地・AT&Tパーク球場のそば、サウスビーチにあります。サウスビーチはもともと廃墟となった港湾施設をサンフランシスコ市が埋め立て・再開発を行い、AT&Tパーク球場・UCサンフランシスコ医学校(全米でトップクラスの医学校)などを誘致して、今ではお洒落なレストラン・ショップが立ち並ぶ高級住宅街に様変わりしております。
Airbnb社は、4百万人(社)超の短期レンタル用戸建て所有者と、そのユーザー(旅行者)との仲介業務をインターネット上で行っております。同社は旅行宿泊市場に新しいビジネス空間を創造し、Uber及びLyftなどに匹敵するほどシエアリング・ビジネスの代表格になりました。キーとなるビジネスアプローチは「画一的なものを打ち壊す(Disrupt the one-size-fits-all)」ものでした。マリオット/ヒルトン/ハイアットなどの大手ホテルチェーンが提供する空間は、どの国・都市へ行っても、全く同じ建物・部屋(広さ/内装)・共用施設・アメニティ、等を提供してきました。それが安心感をもたらすという既成概念を植え付けられていました。筆者も2016年からAirbnb社のヘビーユーザーでありますが、宿泊するホストによって様々なおもてなしを経験できます。ホストが会話好きだったり、何から何までお世話したがりだったり、全くほったらかしのホストもおります。それぞれ味があって印象深い宿泊体験になります。筆者の場合は、Airbnbのホストが住宅地のど真ん中にある物件を選択することが多いので、筆者の目的である住宅系不動産の物件実査/市場調査で、その近隣に一時的に滞在することで様々な情報/感触を入手することができます。
先ずはAirbnbの業績を見てまいります。2019年Gross Booking Valueは2018年のそれの30%増の$38B(約4兆円)を稼ぎ出しておりますが、 会社利益としては未だ損益分岐点に達しておりません。2020年に入りますと新型コロナの感染が広がり、第2四半期で旅行業界が72%の売上減少を余儀なくされる中、対象会社も苦境に陥ります。その間、流動性確保のため融資団よりジャンク債と同等の11%の金利水準で$2B (約2000億円)の資金調達を行いました。新型コロナ対応策として、手を広げすぎた事業を集約し営業経費を4割カットする一方で、新型コロナ禍では、遠隔地への旅行よりも、むしろ近場の小旅行ニーズが高まると見て、ユーザーの300マイル(500キロ圏内)のホストを積極的にプロモーションするという営業戦略を取りました。それが功を奏して売り上げが右肩上がりに転換をし出しました。他の大手ホテルチェーンが未だ苦境下にあるなか、2020年第4四半期はサンクスギビング/クリスマスの季節的な追い風もあり黒字転換を果たす予想となっております。
次はバリュエーション推移を見てみましょう。2017年3兆円($31B)と試算されていた時価総額でしたが、新型コロナの影響で2020年4月には2兆円($18B)まで落ち込みました。上記の近場に焦点を当てた戦略があたり、上場直前の時価総額は5兆円($47B)まで回復することになったのです。数年前よりアーリーステージで出資していたJV等の投資家からのプレッシャーが、新たな戦略を呼び、株価を上昇させたと言えます。これらの投資家と創業者チームが持つストックオプションが来年期日を迎えるということが、経営陣の背中を押したということだとは思いますが、新型コロナの打撃のなか活路を見出したことは特筆すべきことだと感じます。
新型コロナワクチンの普及可能性も出てきたタイミングではありましたが、Airbnb社の上場直前の機転の利いた戦略転換を見て、既得権者であれば前例がないことに躊躇するところでしょうが、環境変化に即応したリスクを恐れない新しいチャレンジが事業成長のカギ(源泉)になったと言えそうです。
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