見出し画像

桟橋が見せてくれたレイクリゾートの姿

久しぶりの更新になりました。これからまた、白樺湖を中心としたレイクリゾートの取り組みについて更新を再開していきます。

今年4月、長野・白樺湖の池の平ホテルに「レイクサイドパーク」がオープン。SUP、BBQ、サウナ、焚き火を楽しめるそれぞれの桟橋と、湖を思い思いに味わえるフリー桟橋、5つの桟橋から成る新エリアです。

桟橋の構想からオープンまでの舵取りを担当したのは、quod(クオド)が長野で取り組む「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」のメンバー。構想実現に至る経緯や、これからの展望を語ります。

メンバー紹介:
飯塚 洋史:地元事業者や行政との折衝、地域計画の立案・推進、プロジェクトの企画・資金調達などを担当。エリアアセマネ会社(株)白樺村の取締役も務める。
柴田菜々:コンセプトや体験導線などコミュニケーション設計を担当。
瀬川 幸太:一級建築士/桟橋の基本設計を担当。

ーーそもそも、レイクサイドパークを作るに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?

飯塚:もともとは、2019年の北欧視察でデンマークやフィンランドを訪れたことが大きかったかな。ミッケリという、ヘルシンキから車で2.5時間くらいの街のヴィラに泊まったんだけど、そのヴィラは一棟一棟からそれぞれプライベート桟橋が伸びているつくりになっていて。 

そこでバーベキューをしたり、釣りをしたときの、水に浮いている感覚がとても強烈だったことを覚えてる。そのときはミラーレイクになっていたから、ピンクがかった紫色の空が水面に映っていて、その上に浮かんでいるような感じ。とても神秘的だった。

あとは、その現地の人にレイクリゾートって何なんですか?とヒアリングしたとき、「ピースフルな場所」って答えが返ってきたのね。水に浮いていること=ピースフルって表されたことで、まさに桟橋が「レイクリゾート」を作る上で大事な存在になっていくんだろうな、と肌で感じたんだよね。

柴田:この視察って結構前なことだと思うけど、飯塚さんがいつもこうやって鮮明な記憶を話してくれるから、本当に強烈な体験だったんだろうなっていつも思います。

視察に行って、いろんな湖を周ったけど、桟橋はどこにおいても重要な役割をしてたように感じます。
たとえば、そのミッケリでは桟橋の上でご飯を食べられるレストランがあったり、パブリックに使える桟橋もあって。そっちではおじいちゃんとおばあちゃんが一日中日なたぼっこをしてるみたいな。

家の裏とか別荘の裏、宿の裏にそれぞれ桟橋があって、それぞれの湖の規模やシチュエーションに合う使われ方をしていて、桟橋が、湖で過ごす上での拠点になっていることがわかりました。

私は視察のときに皆さんより1週間くらい長くいたんですけど、週末に20代前半くらいの若いカップルが、車の後ろにカヌーをけん引して、「どの桟橋にする?」って選んでいる様子も印象的でした。

そんなふうに、一日の過ごし方が桟橋から広がっていることや、湖で過ごすことが選択肢の一つにあることがすごく良いなって思って。 

飯塚:現地の人のそういう過ごし方、とっても豊かだなって僕も思ってた。矢島さん(池の平ホテル&リゾーツ 代表取締役)とツェルマットで話した「こういうリゾート作りたいよね」っていうイメージにも重なる感覚があったな。

--ありがとうございます。湖が生活の一部にある地域の過ごし方がかなり強烈だったんですね……。そしたら、白樺湖でも桟橋を活かそう!という話になった流れをお聞きしたいです。

飯塚:湖畔の時間の1年前に開催したプレイベントが大きかったかな。湖で遊び慣れていそうな人たちを集めて、桟橋の上でディナーをする体験をしてみたり、焚き火やシーシャをしたり。

思い付く限りの「理想の桟橋の使い方」を試してみたら、「やっぱりめっちゃ良いじゃん」ってみんなで分かち合ったよね。

--そうなんですね。その構想から、レイクサイドパークの実現について聞きたいです。建築の側面で、工夫したことはありますか?

飯塚:どの位置に桟橋を置くかは、池の平ホテルの矢島さん、クオドメンバー含めみんなで現地に何度も視察に行って決めました。その上で、瀬川くんが「どの風景を切り取ったら良いか」というところを考えてくれたんだよね。

ーーみんなで現地に行ったんですね!瀬川さんとしては、桟橋からこんな景色を見てほしい!というこだわりはどんなところにあるんでしょうか?

瀬川:一番こだわったところは、桟橋に足を踏み入れて、その先に見える景色ですね。

いまは、桟橋がSUPとかサウナとかをする場所として使う、いわゆるプライベートな桟橋と、ふらっと立ち寄れるパブリックな桟橋に分かれているんですね。

パブリックな桟橋からは白樺湖の奥行きが感じられたり、車山が綺麗に見えること、桟橋を一歩一歩進むごとに景色が広がっていく感覚があるかどうかは大切にしました。

〈パブリックな桟橋からの写真があれば〉

ーー見える景色もすべて計算されてるんですね。そういえば、このように理想の桟橋をつくるうえで、苦労したこともあったと聞きました。

瀬川:イメージ通りの桟橋を実現することと、安全性を両立させることが難しかったですね。

桟橋をつくるにあたって、菜々さんやえびちゃんと、イメージ写真をいくつも見ながら、桟橋の高さを調整していきました。最初は桟橋と水面がかなり近い状態をイメージしてたんだけど、白樺湖はもともと農業用のため池だから、水深が浅いんです。それで当初考えていた浮き桟橋が設置出来ないことが分かり、湖底に杭を打ち込む工法に変えて検討を進めていきました。

浮き桟橋と違い、高さを固定しなければならないため、水が最大限満ちてきても大丈夫っていうギリギリのラインを攻めて高さを決めました。時間の無い中で役所の方々や施工会社さんにもご協力いただき、なんとか前に進めることが出来ました。
そこをこだわった甲斐もあって、満潮になると水面と桟橋の位置関係が、イメージに限りなく近い景色を再現することができたんです。

柴田:最近、イベントの打ち合わせで白樺湖に行くと、T字の桟橋のところで親子が座って、足で湖をちゃぷちゃぷしている様子を見て、なんだか感動しました。桟橋が、自然と湖に近づきたくなる、絶妙な距離を生んでるんだなと。あと数センチ違ったらユーザーの体験も変わっただろうな。

ーーそれはうれしいですね。工事にあたっては、地元の施工会社さんともたくさん調整されたとか。

瀬川:施工会社さんと現地の設計事務所の方には本当にたくさん助けてもらいました。さっきも話に出た、ギリギリ安全な高さになるように杭を打ってもらったり、そのために詳細な設計図や構造の検討をしていただいたりしました。

飯塚:そもそも、補助金の申請スケジュールに合わせて桟橋を完成させるとなると、冬に工事をしなければいけないことが確定してて。それもあって、その期間で工事をしてくれる施工会社さんが見つからなくて、「終わったな」と思ったときもあったな。

そうこうしていたら、これまでレイクリゾート構想に共鳴してくれた地元の経営者さんのつながりで施工会社さんが見つかって。かなりの寒さの中、湖で工事をしてもらって、なんとか完成したんだよね。

ーーそうだったんですね……。地域の方々の理解あっての桟橋ですね。ほかにも、自治体や観光庁からの後押しなどは感じられましたか?

飯塚:まず、日本における、サステナブルな観光地としてのモデルエリアをつくろうという取り組みがあって、国内で10〜20箇所ピックアップされる地域の一つとして、この白樺湖が選ばれた。

僕と矢島さんで、日本のレイクリゾートとしての象徴的なエリアにするというコンセプトでプランを書いて、観光庁に持ち込んだんだけど。イベントや観光の仕組みみたいなソフト面ではなく、いきなり桟橋というハード面を打ち出して申請したら、「ここまで自力で考えて、実行しようとしてる地域すごいですね」と言ってもらえて。

そのうえで、しっかり申請が通って補助金が下りたんだよね。総じて、この6年弱、地域の地主さんや事業者さんとの対話を重ねつつ、「湖畔の時間」を開催したりして、湖で過ごす時間の価値を伝えながら、じわじわとルールを広げて行ったことが評価されている気がした。

柴田:そもそも、「湖畔の時間のなつやすみ」(7/20-21で開催したイベント)で、範囲の制限はあれど、桟橋から湖の中に足を伸ばしたり、湖に入っても問題ないということになったのはめちゃくちゃ大きな進歩ですよね。

飯塚:そうだね。僕たちが見た、桟橋を起点とした湖での過ごし方が広まっていく第一歩になったんじゃないかな。

ーー最後に、みなさんが、白樺湖で、桟橋がこんなふうに使われる様子見たいな、と思うシーンを教えてください!

飯塚:長期的に考えると、北欧視察で見た桟橋付きのヴィラのようなものを建てたいなと思います。

あとは、桟橋が、自分の人生に向き合う時間を過ごす場所として使われるようになるとうれしいかな。自分自身もそう過ごした時間が印象に残っているんだけど、桟橋の上で水に浮かびながら読書をしたり、自分の内面について考えたり。

あとはなにより、ミラーレイクだね。早朝の、凪いで波が立っていない湖に空と山が映っている、あの時間を楽しむ人が増えてくれたらめっちゃ良いよね。

柴田:最近、白樺湖に泊まりに来た人たちから「飯塚さんに『ミラーレイク見なよ』って言われたから朝早く起きてみました」みたいな声を結構聞きます。飯塚さんのミラーレイク布教活動が形になってますよ(笑)

一同:(笑)

瀬川:僕は、日常の中でふと立ち寄ってもらえる場所になったらいいなと思ってます。去年の夏家族で白樺湖に泊まって、朝起きてちょっと湖を見に行ったり、夕方に子どもと湖の周りを一周ランニングしたりしたんだけど。そういうときに、途中でちょっと桟橋に寄ってそこから少しの時間でも湖を見ているとリフレッシュできるような特別感のある場所になっていると良いですよね。湖の周りで犬の散歩をしてる人がちょっと桟橋で休憩できるような身近な存在になったら良いなと思います。ちなみに、湖で遊ぶ用のカヤックを買いました。

飯塚:え、すごい!マジか。いろんな湖で楽しみたくなるよね。

柴田:私は、桟橋が第一想起でベストな場所って思われたら良いなって思ってます。たとえば、本を読みに行ったり、今日は遊びに行こうと思って先客がいたら、「うわ、今日はあそこ取られてるわ」ってちょっと悔しい思いをしたりして(笑)逆に、先にいた人に「どこから来たんですか?」って話しかけて、一緒に桟橋から湖に足を入れながらしゃべったりとか。

みんなが桟橋を湖畔の中で一番良い場所だと思って、人が集まり始めたり、交流が生まれたりしたら良いなってよく妄想してます。人だけじゃなく自然も含めて、出会いや収穫がある場所だと思ってくれたら良いな。

-ーありがとうございます。桟橋ができたことで、湖を訪れる人にとって、過ごし方の選択肢が増えたこと、思い描くレイクリゾートにまた一歩近づいたことがわかって、うれしくなりました!これからが楽しみですね。

取材・執筆:宮本倫瑠
編集:柴田菜々