湖畔の時間 の わたしの時間|ロゴデザイン・アートディレクション木本梨絵の視点
2020年11月に白樺湖で開催した野外イベント「湖畔の時間 2020」は、2日間で約1400名の方にご参加いただき大盛況となりました。
イベントの成功に欠かせなかったのが、さまざまなスキルを活かして空間を共に創ってくれた、スタッフやクリエイターの皆さまの存在。
連載企画「湖畔の時間 の わたしの時間」と題して、関わったスタッフやクリエイターそれぞれの視点で切り取った白樺湖を、等身大の言葉でお届けしていきます。
第1回は、ロゴデザイン・アートディレクションを担ってくれた木本梨絵さん。プロジェクトチームの全員が共有していながらも形にしきれていなかった世界観を、丁寧にヒアリングとディスカッションを重ねて、理想的なビジュアルで表現してくれました。
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木本梨絵(きもとりえ)
クリエイティブディレクター
1992年生まれ。株式会社HARKEN代表。 武蔵野美術大学非常勤講師。 業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクション、デザインを行う。ディレクションを担当した主なプロジェクトに、入場料のある本屋「文喫六本木」、東京都現代美術館内にある「二階のサンドイッチ」、コスメブランド「&WOLF」等。グッドデザイン賞、iF Design Award、日本タイポグラフィ年鑑等受賞。
HARKEN inc. https://harkenic.com/
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──「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」「湖畔の時間 2020」 と出会ったきっかけを教えてください。
別のお仕事がきっかけで、2020年7月頃にななちゃん(プロジェクトメンバー・柴田菜々)と出会いました。一度だけ会った翌月末に「相談したいことがあって」と連絡をもらったのがはじまりです。
表参道のカフェで白樺湖プロジェクトとイベントの話を聞いたのですが、そのときはまだ内容がほとんど定まっていなくて、「本当に3ヶ月後にイベントやるの!?」と内心驚きました(笑)
──その状態から、関わってみようと思ってくださったのはなぜですか?
同時に、ななちゃんの言葉ひとつひとつから白樺湖への惜しみない愛や熱量を感じたんです。私で力になれるのであれば全力で向き合いたいと胸が熱くなりました。
当時は独立したばかりで依頼が立て込んでいて、ボリュームの大きいお仕事を受けるのはリスクでしたが、気づけば二つ返事でプロジェクトへの参加を申し出ていました。
当時、この写真とともに、白樺湖への思いが語られた
──プロジェクトへの参加を決めてから白樺湖を訪れてみて、いかがでしたか。
初めて白樺湖を訪れた時「これはもう大丈夫だ……」と胸を撫で下ろしたことを今でも覚えています。
というのも、前例もなく予算も限られたイベントということをわかった上でオンラインで話を進めていたので、どこまでアウトプットのクオリティを上げられるかプレッシャーを感じていたんです。
少し肌寒い夏の終わり、車をおりて、湖畔まで柔らかい芝生の上をズンズン進んで。その静謐な水面のゆらめきの前に立った時、わたしは湖に、そしてそれを取り巻く湖畔の情景に、一目惚れをしてしまいました。
その景色はあまりに美しく、せわしない毎日から私達を救い出してくれる静かなユートピアのようでした。こんな場所があると知らなかったことを心底もったいないと感じ、一人でも多くの人たちに、この素晴らしい湖を知ってほしいと思いました。
──そのときの感覚が、ロゴやクリエイティブデザインの源泉になったのでしょうか?
場所そのものにあまりにも魅力があるので、デザインがやるべきことはそんなに大それたことではないと思いました。
既にここに確かにある魅力を、今まで伝えられなかった人にも伝わるように、少しだけ翻訳すればいい。白樺湖と人々をゆるやかに繋ぐ“縁の下の翻訳家”になろうと心に決めました。
──グラフィックデザインを通じて、「湖畔の時間2020」や「白樺湖」をどんな場所にしたいと感じてくださったかを教えてください。
白樺湖の魅力が県外の方々や若い方々に伝わっていないという課題がありました。「白樺湖」と調べてみても、ファミリー向けのスキーリゾートなのかな、あまり遊べる場所はなさそうかな、といった印象で、どこか「自分の行く場所ではない」と感じてしまう人が多かったはずです。
でも湖畔には「コンテンツ」や「ターゲット」を意識しすぎなくても、訪れたすべての人の心を穏やかにしてくれる寛容な魅力があるんです。それって行けば分かるけど、行かないと絶対に分からない。
そんなときにグラフィックデザインができることは、「よく分からないけどこの湖は楽しそうだから、ちょっとイベント行ってみるか」という期待値を醸成することでした。
現地を全く知らない人でもチケットを事前予約したくなるようなデザイン。それでいて、地元の人が見ても「なんだか派手でうるさそうなイベントだな」ではなくて、「ああ、白樺湖を素敵に表現しているな」と感じてもらえるものにしたかった。
地元の人も、県外の人も、ファミリーも若い人も、ひとりの人も。誰も排除しない寛大な土壌であることを第一に考えて、白樺湖から感じるフィーリングをひとつひとつ、素直にデザインに落としていきました。
──白樺湖らしさがありつつ新しさも感じるデザインで、あらゆる方面から好評でした!具体的にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。
「誰も排除しないデザイン」を目指していましたが、それは一方で「誰にも愛されないデザイン」になってしまう可能性を孕んでいます。そうならないように、普段より一層、プロジェクトメンバーや周りの友人達の声に耳を傾けることを意識しました。
当時のデザイン提案の一部
時には「デザイン的にはこちらの方がいいんだけど…」と思いながらも、メンバーの意見を取り入れて「前向きな妥協」も重ねた結果、誰かに愛されるべきデザインへとブラッシュアップされていったと思います。
当時のデザイン提案の一部
流線型は湖の持つゆるやかな繋がりを、カラフルな色合いは白樺湖の持つ色彩を表しています。朝は深い青だったのが、昼になると爽やかな水色が広がって、夕方は黄金に輝いて、合間に紫色を覗かせながら、暮れる頃には嘘みたいなピンク色。そんなコロコロ変わる白樺湖の「多面性」を、複雑なグラデーションで表しました。
──イベントを終えてみて、いかがでしたか?感想を教えてください。
思い描いていたシーンがそのまま実現されて、感極まって涙が出そうになりました。
犬を散歩する人もいれば、ひとりで本を読む人も、PCを開いて仕事する人だっていました。その横では音楽に合わせてノリノリで踊る人もいて。たくさんの人が思い思いの時間を過ごしていたんです。
後日、イベントに来てくれた友人からメッセージで「白樺湖を知れてよかった。ありがとう」と言われた時は心から嬉しかったです。同時に、やりきれなかったことも無数にあったので、もし次も機会を頂けるならば、今回やってみてわかった改善点はすべて回収して、もっともっと良いイベントにしていきたいなとも思いました。
──これからへの期待や、イベント後の白樺湖への想いがあればお願いします。
イベントはあくまで「出かける先に湖という選択肢を持つこと」のほんの小さなきっかけでした。湖の魅力の発信は、これからもゆっくりと時間をかけて、しかし確実に進めていく必要のある根気のいる作業だと思っています。
気の遠くなるようなことではありますが、白樺湖に関わるプロジェクトメンバーは湖に対して惜しみない愛を持っています。だから、きっとそれが可能になると思っています。
Portrait photo by 立石従寛 | Jukan Tateisi
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