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episode:8 1粒たりとも無駄にするなよ

Lakeside Storiesの横塚です。

2024年は、ヒメマスの発眼卵放流の実施にあたって、卵をつくるところから始めました🐟

普段経験できない貴重な体験なので、発眼卵を作る過程を記載します📝

1 発眼卵放流とは

    発眼卵ってなに?

発眼卵とは、卵の生育過程の呼び方で、卵の中に魚ができた状態の卵のことです。
魚の眼がギョロっと見えます。

ヒメマスの発眼卵

卵の生育過程は、受精卵→発眼卵→孵化という流れです。

発眼卵になると、卵の膜が丈夫になり、外からの刺激に強く、水中から出したり、遠くまで運搬することができるようになります✈️

    なぜ発眼卵を放流するのか

最近、釣り業界で、発眼卵放流というワードをよく耳にしますよね。

昔は、川や湖で鱒類を増やす際に、成魚を放流するのがメジャーでした。

現在では、増殖効果や費用対効果を踏まえ、発眼卵放流、稚魚放流、親魚放流など、様々な放流方法があります。

その中でも、発眼卵放流は、卵を川底に埋めるため、自然に近い状態で孵化し、生まれた時から川で育てることができます。

野生味溢れる魚に育つことに加え、コストが安く、手軽に放流できるなどのメリットがあります。

イワナ・ヤマメの場合は、各放流方法の費用対効果が明確になっています💰

【イワナ・ヤマメの放流方法とコスト】
全長15cmの魚を1尾増やすのに必要な金額
・発眼卵放流 100円
・稚魚放流       560円
・成魚放流        120円
・親魚放流          90円
※現在は物価高によりコスト上昇の可能性あり

水産庁(平成25年3月)

https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/keiryuu1.pdf



    ヒメマスの発眼卵放流は難しい

一方で、ヒメマスの発眼卵放流は、放流技術が確立されておらず、卵の調達も容易ではありません。

日本にはヒメマスが生息する湖がいくつかありますが、いずれも自然再生産もしくは稚魚放流によって資源が成り立っています。

ヒメマスの発眼卵放流事例はほとんどなく、イワナやヤマメのように研究も進んでいないため、卵を埋める場所の環境条件(水深、流速、粒径など)が明らかになっていません🤷

また、発眼卵を購入しようにも、発眼卵を作って販売している事業者は、国内にごくわずか。
ヒメマスって、高度な養殖技術がないと養殖することもできませんからねぇ🐟

このような中、中禅寺湖漁業協同組合では、ヒメマス資源の安定化に向け、昔からヒメマスの養殖事業と発眼卵販売事業を行っています。

ありがたいことに、中禅寺湖漁協では、僕たちの活動に共感していただき、養殖ヒメマスの発眼卵約6万粒を無償で提供していただけることになりました。

価格は1粒10円なので
6万粒で60万円
💴

発眼卵を提供してくれた漁協の皆様には、心から感謝申し上げます🙇

発眼卵とお気に入りのシェラカップ


そこで、僕はふと思いました。

漁協におんぶに抱っこで発眼卵を貰うのではなく、発眼卵を作るところから協力させてもらえないかなと

2 採卵作業

僕は、鱒の卵を作る経験は、その辺の人よりあります。(水産試験場職員ですから。一応笑)

でも、ヒメマスの採卵作業はちょっと特殊

さらに、今回は、湖から遡上してきたヒメマスの採卵を体験させていただきましたので、写真多めでレポートしていきます🫡

    親魚の採捕

2024年9月
湖から菖蒲ヶ浜の菖蒲清水に遡上したヒメマスをのぼりウケで採捕します。

鱒が遡上する性質を利用して採捕する

中禅寺湖漁協では、昔からヒメマスの遡上尾数と体長をモニタリングし、資源管理に役立てています。
これはとっても凄いことで、こんな漁協はそうありません。

    採卵

雌を水揚げし、締めていく

生簀からヒメマス雌をとる漁協室井さん
今年は脂鰭が無い放流個体がメイン(下から3尾目は脂鰭ありの自然再生産個体)

魚体をタオルでよく拭いて水分をとる
卵が水に触れると卵に膜ができて受精できなくなるので、ちゃんと拭く。めちゃくちゃ重要。

産卵のため免疫が落ちてカビている
よーく拭く

卵を採る
専用のナイフで腹を切って卵を採る

お腹を裂く
卵をザルに入れる
寿司屋のイクラのように油球が見える卵は
過熟のため採卵に使用不可
すごい量の卵
等調液で洗卵(卵の消毒)


    受精

雄を水揚げする

40cmを超える立派なヒメマス雄

精子をかける

卵に精子をビューッとかけます

水を入れて受精させる
水に触れると受精が始まります

衝撃を与えないよう丁寧に水を入れる


    吸水

卵に水を吸わせて、落ち着いたら、孵化室に収容していきます。

水を吸わせて安静にする

受精卵は、水温に応じて生育速度が変わります。
水温9℃の場合、約22日後に発眼し、それから約47日で孵化します。

卵が孵化するまで、水カビが付着しないように消毒したり、死んだ卵の除去したり、日々の細かなの飼育管理が必要です。

釣りが終わり、オフシーズンとなった奥日光ですが、漁協は種苗生産業務で多忙な日々を過ごしています。

3 採卵作業から学んだこと

ところで、雌は何個の卵を産むと思いますか?

実は、1尾で約1000粒もの卵を産みます。

1尾で1000粒も産卵するんだから、ヒメマスいっぱい増えそうですよね。

でもそう甘くはない。
1000粒のうち、現在の湖の厳しい生存競争を勝ち抜き、3年後に親まで成長できる個体は、1尾以下です。

湖で釣られているヒメマスは、1000尾に1尾、もしかしたら10000尾に1尾とかの逸材。
とても貴重な命なんです。

採卵作業の時、僕は卵を数十粒落としてしまいました。
ちょっとくらい仕方ないよね。
卵小さいし、ポロッと飛んじゃうし。
そう思った。

ザルに入らず無駄になってしまった卵

ヒメマスの採卵を指導してくれた漁協の室井さんから、大切なことを教わりました。

昔、先輩方から言われた言葉
「1粒たりとも無駄にするなよ」

今でも、この言葉を大切にしながら、毎年採卵作業に取り組んでいる。

中禅寺湖漁協の本気が垣間見えた瞬間だった。

これからは、僕も1粒、1尾の命を大切にしていきたいと、そう強く思った。

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